知能戦からの海戦
領主の屋敷に潜入して、情報を探る。領主の補佐役、外交、軍事、財政の幹部に分体達が【影潜】でマンンツーマンでチェックし、妻達は騎士団の様子を調べた。領主本人は、神経質な位にガードが硬いので、何度かトライしたが諦めて、近く第6夫人になると噂されている秘書の影に潜った。
秘書とは名ばかりで、領主と執務室に籠もりっきりで、昼間から喘ぎ声を上げていた。当然領主もロクな仕事もせずに秘書を揺らしていた。
「あぁ、北大明の国王様!即位なさっても私を側に置いていだだけますか?」
「勿論だとも!雅子のお陰で大明との絆が出来たんだ、即位と共に、正妻にするから、おまえは、女王様だぞ。」
どうやら、旧大明の人間らしい。彼女がクーデター計画を持ち込み、旧大明の威光で今のポジションを得たようだ。1日の大半をソファーを軋ませて過ごす2人を観察して、宿に帰った。
分体達のターゲットは、表向きはその部門の責任者だが、クーデターに関しては、秘書が呼び寄せた旧大明の人間がブレインになっていて、殆ど操り人形状態だった。そのブレインを導入するに当たり、北道の息が掛かった稲川が邪魔になり排除するつもりでいたが、クーデター計画を察知され、拉致に至ったらしい。
全体の情報を纏めると、枚蘭軍は陸路で王都を攻め、旧大明の艦隊は樽内から戦車部隊を上陸させる作戦で、決行は16日後。真相を知るのは領主ファミリーと一部の貴族、騎士団長、冒険者の小山パーティー位で、軍を構成する騎士団、冒険者、傭兵には、嘘の情報で参戦させる。北道軍が攻めて来て、領地没収、領民全てを奴隷にする計画があり、それを阻止するため、先手必勝で王都を叩くと言う筋書きとの事。
改めて、式神を王都に飛ばし、陸路の封鎖と、即席海軍の準備をお願いして、クーデター計画の中止に取り組む。
先ずは、秘書とブレイン達を誘拐。こっそり近付いて【隷属】を掛け、稲川の家での待機を命じた。騎士団長には【氷縛】で拘束、病に伏せっていることにした。
小山パーティーも作戦決行の日まで、工作活動が出来ない様にするつもりで近付いたが、実はここが黒幕だったようだ。ギルドのルール改正ですっかり落ちぶれてしまい、失った権益を取り戻す為、北道王朝を叩き、自分が権力の座に座る事を計画したようだ。
遠征を発表し、冒険者や傭兵を募る筈の日に、何も動きが無いことに領主が気付いた。説明を求め幹部達を呼び寄せたが、ブレイン達が『延期』を宣言して失踪しているので計画はストップしたままだった。
「何が有ったんだ?雅子も急に来なくなったし!」
「その事でしたら、僕が説明させていただきます!」
執務室のドアが開くと、稲川がブレイン達と秘書の雅子と冒険者の小山を連れて入って来た。
小山に命じ、内緒の計画を吐かせる。【隷属】が掛かっているので、なんの躊躇いも無くペラペラと口を割った。
「・・・で、北道を倒した所でアンタは背中からブスリ、この国は俺のモノって算段だ。大明のお偉いさん達も了承済みって訳よ!」
薄ら笑いで聞いていた雅子は、
「そうよ、そして貴方もあの世に行って頂くわ!」
領主の敵討ちをした英雄として、領主になり、国を手に入れるつもりだったらしい。
「新しい女王様の誕生ですね、名前だけの。」
領主補佐のブレインは、戦後の北道について語り始めた。領主を旧大明の家臣の次男坊達に挿げ替えて、属国として扱う。雅子も手駒の一つでしか無かったようだ。
外交担当のブレインには、本国との連絡をとっていたので、計画の1週間延期を打診、どういう連絡手段なのか、半日程で了承の返答が届いた。
クーデターの首謀者達を伴って王都に向かう。枚蘭は稲川に任せておけば心配無さそうだ。
移動中、艦隊の戦力を確認した。構成は、陸をも攻撃する射程距離30キロの大砲を積んだ戦艦が1隻、戦車を積んだ輸送船が3隻、護衛艦が6隻の計10隻。
作戦としては、戦艦を30キロ以内に近付かせ無い事、輸送船を接岸させ無い事。そして、敵兵をなるべく生け捕りにする方向で考える。
王都に頼んでいる艦隊戦の新兵器は、漁船に救命ボートを大量に搭載した『にわか工作船』ボートには小型の魔動装置で、モーターボート的な走力があり、大量の爆薬を積んでいる。その他、大砲は無いが、爆薬詰め合わせ大袋を10個。それぞれ、撃沈する程の火力は無いが当たりどころによっては航行不能位は期待できる。
騎士団には王都の護りに専念してもらい、樽内は、現地の騎士団と冒険者達が上陸に備えた。ワタシ達は短期間で船の操縦を覚え、艦隊を迎え撃つ準備を整えた。
樽内侵攻予定の前日、沖合で艦隊に近付いた。海軍が無いことを知っているせいか、全く警戒していなかったようで、200メートル程の距離でやっと警報が鳴った。その時既に爆薬満載のボートはそれぞれの艦に肉薄していた。ボートに乗っているのは式神で、大胆なビキニは、艦からも良く見えているようで、手を振ると歓声と共に手を振り返していた。愛想よく振る舞い、艦の後に回り、スクリューに突っ込んで大爆発。護衛艦は魔力を貯める装置が後尾部分にあったらしく、誘発して呆気なく沈んでいった。残った戦艦は、近距離への攻撃は護衛艦任せにする想定なので、ワタシ達に対してはほぼ丸腰、輸送船はそもそも武器は微々たるものなので第二波を放った。折り鶴を鵠にして、爆薬詰め合わせを空から投下させた。
戦艦は3門ある大砲を狙う。命中は1個だけだったが、少しハズレた方が、弾薬の誘発でダメージは大きく、結局3発で撃沈出来た。
輸送船の1隻は、式神の体当たりからの浸水で、間もなく沈むだろう。もう2隻はボートでの攻撃はしておらず、今の所無傷だが、残りの爆薬詰め合わせを投下では無く、甲板に並べた。
沈んだ艦から脱出した兵士達は漂流する残骸に捕まって命を繋いでいた。今度はホントの救命ボートを出して、5人救出。【隷属】を掛けて、武装解除した者だけを救出させ、一旦こちらに連れてきてドンドン【隷属】を掛け、戦艦の艦長を【隷属】したところで、残っている輸送船に送り込んだ。
程なく白旗が上がり、海面の兵士の回収を手伝った。負傷兵はこちらで預かって、ヒールしてから帰した。爆発に巻き込まれたり、脱出出来ずに艦と共に沈んだ兵士が18人。浮いていた者はかなり重篤な者も含め全てヒール出来た。10隻、総勢千人を越える艦隊が8隻沈められての犠牲としては少なく済んだ方だろう。中が落ち着いた所で輸送艦に乗り込んで、各鑑の艦長と、船と戦車の整備士、通信兵を数名隔離、残りの約千人は樽内の倉庫を改装した臨時の収容所に送り込んだ。
戦車を全て上陸させ、1隻に兵士を詰め込んだ。艦長以下、隔離していた者も一通り取り調べして、艦隊の責任者でもある戦艦の艦長と、整備士、通信兵の中で特に優秀と思われる1人ずつを残し、秘書の女、ブレインも1人残して強制送還した。艦隊殲滅の報告と、攻めて来なければ敵対する意識がない旨の書簡を託した。自慢の最強艦隊だったので、諦めてくれる事を期待している。