表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/131

運動会

 ひかりが旅立ってひと月が過ぎた頃、お茶会の護衛依頼が入って来た。お嬢様達に紛れての任務で、伏丘ではほぼ独占状態だったが、王都では他にも候補が居るので、請けたり受けなかったりしていた。今回は、伏丘でご贔屓にしてくれていた伯爵家の指名依頼なので、当然の様に請けていた。

 直前になって、上皇から同じ様な依頼が被ってしまった。チカラ関係で自動的に王家の依頼が優先となるが、長い付き合いの伯爵夫人をカンタンに切りたくはない。

「ディアン達に大人になってもらって両方請けるってどうかな?」

夏果の提案に子供達は直ぐに反応、変身を試みた。

「えっ?」

4、5歳から20代位まで自由に変化していた4人だが、誰ひとりとして成功しなかった。何度試しても、小学校二年生のままだった。

「リュンヌ、温泉いってみようか!」

週末早速試してみた。

 温泉街の裏山を少し登る。手つかずの森林に水溜りよりましな程度の源泉を見つけた、前回はリュンヌが龍の姿に戻って浴槽役になったが、今回は冬実が土魔法で浴槽を作った。結界で覆って露天風呂の完成。お湯に浸かって魔法を試す。

 4人はハタチ位の姿。美少女から美女への変身を果たした。作戦成功、ポーチから、サイズの合いそうな洋服を選んでいると、温泉から上がった4人は、じわじわと縮んで子供の姿に戻っていた。

 繰り返しても結果は変わらず、温泉街に戻って一泊。平日の仕事なので、学校を休ませずに済んだ方を喜ぶ事にした。


 木綿子に調整を頼んで、王家に2人、伯爵家に2人入る事にして、他の女性冒険者を2人ずつ手配してもらった。子供達の変身の事を、経緯も交えて話すと、

「ひかりちゃんの影響で実力以上の変身が出来ていたんでしょうね。もうひと月?上手くいってるのかしら?」

「つい3日前に届いた手紙に、大明に入国出来たって書いて居ました。届くのに2週間位掛かったみたいです。真面目に手紙を出していれば、そろそろ、本山到着の便りと思うんですよね。」

春菜は少し唇を尖らせ、更に溜め息。


 護衛任務の当日は特に大きな事故、事件は起きず無事終了した。助っ人の4人とは報酬が違う様で、目立たないよう振込してくれていた。パーティー参加者に配るお土産もゲットして、子供達が待つ家に帰った。


 帰宅してリビングに入ると、ソファーで4人揃って待っていた。

「ひかりちゃんの手紙!お姉ちゃん帰ったら直ぐ読める様に待ってたの!」

秋穂は開封しながら、

「手紙を書く暇があったら、さっさと修行すれば良いのにね。」

言葉とは裏腹に、目を輝かせていた。

『仙術道場の本山に到着。正式な入門は出来ないが、体験入門出来ました。仙力の澱みを直して貰い、トレーニング方法を習う予定です。』

 本山には1ヶ月滞在。手紙のタイムラグを考慮すると、もう2週間修行している。終了後同じパターンで帰ってくると、約3週かな?もしかしたら光樹が帰って来るかも知れない。皆んなの顔が綻んでいた。


 子供達は一応普通の学校生活。今までの学校は行事らしいモノが殆ど無いのがスタンダードだったが、新しく建てた学校から、遠足、運動会、学芸会を導入している。家の手伝いであまり登校出来なかった子供もしっかり通うのが当たり前になりつつあるが、未だに給食が一番の目的だったりするので、学校行事でメリハリを付けて、通学する事を定着させる目論見。

 今週末は運動会が予定されている。種目は徒競走、リレー、綱引きの3つだけ。ちょっと地味だが定着してくれれば、内容も充実してくるだろう。

 学校に呼ばれるのはトラブルがあった時って感じだった親達も、安定して屋根の下で暮らす様になると、少し余裕が生まれ、運動会の応援も結構な人数が参加する模様。勿論、四元家はひかり以外、全員参加。


 さて当日。午前中は徒競走。ブッチギリにならないよう調整して走るよう言い含められ、4人とも上手く首の差位で一等賞。紅白戦としては、4人の一等賞も効いて、白が少し優勢。


 お昼は、応援の家族とお弁当。家族が来れない子は、給食を予約する事が出来る。夏果の予想通り、給食の予約を忘れた子が何人か居たので、皆んな呼んで、おにぎりを配った。


 午後はリレーの予選から始まる。スタートラインを見ると、何を考えているのか、学年がバラバラ。下級生が勝てっこ無いので、予選をすっ飛ばして、6年生だけで決勝戦を走れば良いって感じ。イベント慣れしていない先生が考えたのだろう。

 最後の6組目に黒曜が登場。トラックを見ると、2走が朧、3走が翼、アンカーが小雪だった。他の5人は6年生2人、5年生1人、4年生が2人だった。ピストルが鳴ると、予想通り6年生の二人が飛び出した少し遅れて黒曜?ほぼ3者横並びでバトンが2走に渡る。朧とトップの6年と横並びで走り、3走に渡る時には、1人の6年生が遅れ、翼はトップと並んだまま3位をブッ千切っていた。小雪にバトンが渡り、そのまま並んで走り、ゴール直前で軽く加速。徒競走同様、首の差でテープを切った。同学年での僅差の勝利は、然程目立たないと春菜の作戦だったが、まさかの組み合わせで作戦変更が間に合わなかった。

 勝ち残りは6年生が3組、5年生が2組。そしてまさかの2年生。首2つ位の身長差で、最後に走ったにも関わらず、息が弾む事も汗を流す事も無かった。綱引きの後に決勝がある。


 綱引きは学年毎に6戦、3勝ずつで紅白の差はそのまま。リレーの結果で勝負が決定する。一等賞で問題なく白の優勝、2位と3位を白がとっても勝てるが、6年生は3組とも紅組で5年生にも赤がひと組。無難に4位を選ぶのが平和だろうが、応援がそれを許さなかった。

『本気で走っていいわよ!』

春菜は4人に念話を送った。


 ピストルが鳴って、一斉にスタート?黒曜はスタートの構えで他の5人の様子を見ている。先頭のバトンが2走に渡った時点でスタート。怒涛の追い上げで、アンカーの小雪にバトンが渡った時には、5位に僅かの遅れだった。その後は5人纏めてあっさりと抜き去った。

 結果はブッ千切りの一等賞、歓声と溜め息がグランドを満たした。


 溜め息は、家族席の奥の方、子供の応援って雰囲気じゃない、ガラの悪いお兄さん達からも漏れていた。何故か木綿子がその中にいて、当然ながら浮いていた。木綿子はお兄さん達を叱っている様子で、遠目でも大金と判る現金を受け取ると、枚数を確かめ、ゆっくり頷いてからその場を離れた。


 閉会式が終わると木綿子が駆け寄り、

「相変わらず、規格外ですね!」

少し困り顔の春菜は、

「ええ、ひかりに似たのかしら?」

「かも知れませんね。でもご自身は規格外じゃない様な口ぶりですね?」

本人達は、ひかりと比べ、充分にノーマルだと思っているらしい。

 秋穂はさっき現金を受け取っていた場所を視線で捉えながら、

「所で、何か新しい商売でも?」

「いえ、潜入捜査ですよ。リレーで賭場をしていたんです。ディアンちゃん達に一口賭けて、ボロ儲けしました。」

それ程重罪じゃないので学校への立ち入りが禁止されるのと、ギルドの不人気依頼を強制されるくらいのペナルティーとのこと。今回は木綿子の一人勝ち100円が80万程になったようだ。不特定多数の人を摘発するのは困難なので、そちらは目を瞑り、胴元だけ処分するそうだ。

「負けたら自腹ですからね、今回は貰っておきます!」

 数日後、学校に80万の寄付が匿名であったそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ