留学
城に着くと、パーティの準備が整っていた。
「一介の冒険者の帰還で、税金の無駄遣いではないでしょうか?」
王弟がにこやかに、
「先生達の改革のお陰で、減税しても税収が増えていますから、多少の贅沢は許されると思いますよ!では。」
振り返ってメイドさんに合図、衣装部屋に連行されてしまった。
いい加減に選んで、着てるかどうか微妙なドレスにならないよう、慎重にチェック、今回は無難なドレスを選ぶことが出来た。
大まかな事は、既に耳に入っているので、主に闘いの報告。冬実のトークショーに任せて、少しのんびり。一進一退の攻防に一喜一憂して、大盛況のまま、精霊達が消えるシーンが終わった。智の精霊に霊力の乱れを修整して貰った事を聞いた上皇は、
「霊力は、魔力に複雑に影響するのでな、元の姿になれないのは、その辺りに問題があるのかもしれん、戻る必要も無いと思うがな。ああ、ちょっと頼みたい。」
何か指示されたお付きの人は、頷いて駆け出していった。
パーティも終盤、ご機嫌な上皇の所に顰めっ面のお爺さんがやって来た。雰囲気から偉い人なのは間違い無いが初めて見る顔だった。
「儂の特別顧問じゃ、霊力の知識は天下一品じゃ。人嫌いでな、見たことなかったじゃろう?」
不機嫌そうなお爺さんは、
「魔力について研究している工藤です。」
必要最低限度の自己紹介と、研究の簡潔な説明をして貰い、変身の不具合を相談した。
「こりゃバランスが悪いな!うーん、私の手には負え無いな。」
従来、魔力と一括りに考えられていたチカラは、魔力、霊力、仙力に分かれるそうだ。その中で魔力だけが、利用出来て、それ以外の使えないチカラを霊力と呼んでいたが、更に仙力として分けて考えるのが最近の考え方とのこと。3種のチカラは大体同じ位で、魔法を得意とする人で魔力が4割、他3割ずつって位のシフトらしいが、ワタシの場合魔力9割、霊力1割弱、仙力微々って感じ。
「大明の道場で修行してみてはどうです?」
大明には、仙術を学ぶ道場があるそうだ。カンフー映画で出てくる、山奥の道場って言う感じだろうか?工藤さんにそっちの情報が無かったので確認は出来ないが、まぁそんな感じっぽい。道場の情報や、入門の方法等を知らせて貰う約束をすると工藤さんはさっさとパーティー会場を去って行った。
「ああいう男だ、気にしないでくれ。当日に現れるのも珍しいし、あんなに喋るのは初めてかも知れないな。」
大明に渡る事を考えていると落ち着かないので、コピーを出してそっと抜け出した。庭のベンチでボーっとしていると、
「フン、上皇をすっ飛ばしてサボりだな?いい根性だ。」
さっきの工藤さんが、書類を持って現れた。
「コレ読んだら解る筈だ。コッチの人間が入門した事は無いんで、行くだけ無駄かも知れないからな、良く考えて自分で決めなさい。じゃあ俺はこれで。」
また、さっさと消えてしまった。
上手くコピーと入れ替わってパーティーを終えられた。やっと解放かと思ったら、客間に案内され、朝まで帰れない事が解った。まぁ予想はしていたので、無駄な抵抗はせず、豪華なベッドに潜り込んだ。隣は早いもの勝ちでリュンヌとエール。ディアンとネージュは足元で丸くなっている。出遅れた妻達に、分体を出すと、それぞれの部屋に帰って行った。
翌日、帰宅してから、修行について相談してみた。大明は一夫一妻制なので、全員で行くのは不味いようだ。なんとでも誤魔化せるが気が進まなかった。王都を離れるのはちょっと心配だし、折角建てた家も空き家にしたくない。
分体達はどうだろう?最近は分身したままでずっと過ごしているが、問題なく暮らしている。分体との距離も結構離れても大丈夫だったので分身したまま残って貰って、意識の共有ができれば、連絡手段として活かせるかもと、置いて行こうと思ったが、見知らぬ土地では万全の体勢が良いと妻達の主張で回収して行く事にした。
子供達は学校があるし、人間の渡航票(パスポート的な物)でバレたら面倒なので連れて行けない。
光樹の洋服を大人用、子供用と色々ポーチに詰める。ちゃちゃっと治るのか、何年も修行が必要なのか解らない。長く掛かるようなら諦めて帰る事も視野に入れて、気楽に出発しようと思っている。
結局、ワタシ一人で行くことになった。樽内から不定期で船が出ていて、次の出港が来週の日曜なのでそれに乗っていくよう準備を進めた。
金曜日の午後、ギルドや鍛冶屋、あちこちに挨拶。一通りノルマを熟すと、
「最後はココよ!」
春菜が率先して、洋服店に入った。普段は妻達が着る様な、カッコいい系の洋服を選んでくれた。
「これに、剣を担いだらナンパも少しは敬遠するでしょ?私達が居ない所でモテるのはくやしいのよね!」
確かに『百戦錬磨の女戦士』ってイメージだな。
土曜は樽内に移動、皆んなで馬車に揺られた。港の近くの宿で一泊、港は活気を取り戻し、アチコチの美味しい物が王都を目指す中継所になっていて、ここでもそれが味わえる。暫く離れ離れなので、ちょっと贅沢して珍しいご馳走に舌鼓。お酒も結構進んで、明日を考えてセーブしようとしたら、
「酔っていたほうがいいわ、先に酔ってしまえば、船酔いする余地が無いでしょ?」
秋穂は滅茶苦茶な理論でワインを注いでくれる。まあ、それも良いかな。と思いつつ、カラダの中のアルコールを浄化してから盃を交わした。
子供達が船を漕ぎ出したので部屋に運んだ。一人ずつ寝かしつけて、最後にディアンを運んで布団に寝かせると、
「ふふっ、寝てないよ!今夜はお姉ちゃん達のトコでいいよ!」
気付くと4人とも芝居だったようで、大人の事情を理解していた。改めて掛け布団を直してから食堂に戻った。
「私達もそろそろ寝ましょうね!」
子供達の隣の部屋に5人で入った。
「魔法、どっちに掛ける?」
妻達に短い時間の魔法を掛けた。続けて揺れあって、充分堪能した。翌朝は自分に掛けて攻守交代。相変わらず、感覚は無いが、妻達の反応を味わった。朝食の時間ギリギリまで楽しんで、慌てて搔っ込んでチェックアウト。
港に行くと、手を振る人達。ギルドの木綿子、伏丘の鍛冶屋の杏、薫、菫。王都で王子(当時)達と学んでいた塾生が数人。更には立派な馬車が1台。樽内領主とその奥様だった。
「これを預かっていたもので。」
領主が渡してくれたのは、王家の関係者を証明する『雪の結晶の札』で、アッチの世界で言えば、水戸黄門の印籠みたいな物だった。他国なので法的に効果があるわけでは無いが、札の所持者に敵対する事は、王国に刃を向ける事になるので、公の機関から理不尽な扱いを受ける事はほぼ無いらしい。
色々餞別を貰って船に乗り込む。船は魔動船で外観は蒸気船なので、燃料を魔力に置き換えた動力と思われる。帆を張るマストも有り、追い風の時には帆船になるようだ。
甲板から手を振る、なかなか視界から岸が外れない。船上のワタシは長い長い暇つぶしの始まりなので問題無いが、見送りの皆んなはそろそろ帰ってもいいんじゃないかな?そう思いつつ、こちらから見えるうちは皆んな残っていた様だった。
連休、いかがでしたか?
連投は今日迄です、土日祝に戻ります。
またよろしくお願い致します。