スキル
引っ越しと言うか、新居の準備でギルドの依頼は受けていなかったので、遅い朝食のあと少しのんびり。
「あっ!これ希釈して飲むんだった!」
冬実が昨日の薬の空き瓶を見て叫んだ。キャップ一杯を水で薄めて服用するのが正しく、12回分を原液で飲んだしまった様だ。今の所、体調に問題は無さそうなので、まぁ気にしない。
「用法用量を守ったときの効き目が気になるわね。」
秋穂は興味を示すが出来れば関わりたくないな。
「普段と違う光ちゃんも良かったよ、むしろ昨日の方、好きかも!」
冬実も前向きで、買い出しの時に何本か仕入れようと盛り上がっていた。
食材、着替え、回復剤(夜用ではない)等、普段の生活や冒険に必要な物を仕入れる。妻達の武器や防具は、施設で訓練で使っていた最低限の物だったので、新調しようと思ったが、収入が安定するまでは見合わせると春菜の主張が通ってしまう。自分の装備が結構格好良いので、くたびれた装備の四人とはバランスが悪いので、かなり気になるが、先立つものが無ければ仕方が無い。今の収入ならまぁ借金返済しながらも余裕だろうが、ビギナーズラックかも知れないので、用心に越した事は無い。必要な物だけにして店を出て、最後に薬局に寄った。
「効いたでしょ?」
興味津々のおばちゃんに、間違えて飲んで大変だった事を伝えると、
「そりゃ悪い事しちゃったね、お詫びにスキル鑑定してあげるよ。」
向かい合った椅子に座らせられると、おばちゃんが額の辺りに手の平をかざし、
「あら凄い魔力だねぇ。おや?珍しいスキルだよ!」
スキルとは、個人が使える特殊能力で、強さや使い勝手を問わなければ、結構な割合で持っている人が多いそうだ。ただ役に立つかどうかは解らないし、どんなスキルなのか知らずに一生を終える人も少なくないらしい。
俺のスキルは、【奪取】他人の魔力や体力を吸い取ったり、スキルを複写して自分の物にしたり、奪い取ったり出来るらしい。スキル持ちの魔物を倒せば自動的に取得出来るそうだ。
「複写は相手の同意があれば出来るわ、奪い取る場合は、相手より魔力が強くないとならないの。先ずは、私の【鑑定】を複写してみて!」
おばちゃんは俺の手の平を自分の額に当てて、
「スキル鑑定が出来る自分を想像して見て!」
想像って?うーん、ああ、戦う相手の能力が解るのって有利だよな、『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』なんて言うもんな。ん?おばちゃん、スキルは【鑑定】で光魔法に適正があってレベルは167。鑑定が出来ている!
「プライベートな情報だからね、勝手に覗くのはお行儀良くないのよ。魔物を狩る時とかに限って使ってね。」
落ち着いて考えると、【鑑定】が無ければ【奪取】ってハズレスキルかも?闇雲に奪って、使えるのが取れたらラッキー!って感じかな?1度発動すると、クールタイムが1週間程なので、要らないスキルを増やしただけで1週間悶々とする事になってしまうだろう。【鑑定】の活用方法を習っているうちに、買物は完了していた。
ギルドに寄ると、
「是非とも請けて欲しい依頼があるんです。」
何時もの受付嬢が、カウンターから飛び出してきた。あまりにも気合いが入ってるので、ちょっと引いたが熱視線の先は俺では無かった。
貴族の御令嬢達が集まるお茶会が開かれるそうで、男子禁制エリアでの護衛任務が依頼だった。本来は、伯爵家専属の女性騎士団が担う仕事だが、彼女達は王家に出張中でギルドへの依頼になっているそうだ。冒険者は元々女性比率が低い上、ドレスを着て紛れ込める様な人はななかなか居らず、僅かな該当者は、別の依頼が長引き遠征から戻って来ていないそうだ。ワリの良い仕事なので早速請け負った。
「ご主人はこちらなんて如何でしょう?」
近場の害獣駆除を勧めららた。魔力のコントロールに難がある事を伝えてあったので、
「低レベルの魔獣がほとんどの筈ですから、魔法の練習に丁度良いと思います!」
こちらも即決した。
新居での初めての食事は、春菜が当番で、焼き魚と煮物に味噌汁とご飯。極々一般的な家庭料理でとても旨い。食材は、元の世界と大体同じ様な物が出回っている。店で確認したところ、コーヒーとチョコレートそれとカレーが見当たらなかった位で、他は何とかなりそうだ。ただ、肉は魔物のモノが主流でお馴染みの牛豚羊鶏なんかは目にしなかった。
食後は全員で入浴、今夜の過ごし方を話し合った。
「光樹の部屋で皆んなでお泊りしようよ!」
秋穂が切り出すと、
「ご飯の当番、私よ。」
春菜は譲らない。
色んな意見が出たが、各々自室で寝ると言う俺の意見を通してくれた。条件として、お姫様抱っこでベッドに運ぶ事になっていた。
一度自室に戻ってから、春菜の部屋に入る。バスタオルを巻いてソファーで待っていた春菜を抱き上げて ベッドに運び、布団を掛けてキス。バスタオル姿を見た時点で、トランクスの中は反応していたが、自分から言い出した事だし、あと三人も運ばなければならないので、平静を装って部屋を出た。
冬実の部屋でノルマを終えると、少し前の自分に、
「何故?」
前言を撤回して、春菜の部屋をノックした。まだ起きていて、
「こうなると良いなって、思ってたわ。」
バスタオル越しに柔らかさを味わい、解いてから滑らかさを堪能した。回復剤(夜用)のお世話にならずに臨戦態勢になったが、やはり幸せの手前で終了してしまった。
翌朝、三人からブーイングを浴びたが、
「順番回るのが1日進んだからオーケーね!」
秋穂は眉尻をピクリと上げながらも了承、
「食事当番とズレ無くてわかり易くて良いわね。」
夏果は全然気にしていない様子。
「その代わり、お泊りの時は二人でお風呂、そこからお姫様抱っこだよ。」
冬実は新ルールを発表して、皆んなの喝采を浴びていた。
支度をしてギルドに向かう。四人はギルドで着換えてから会場に入る。俺は、真っ直ぐ現場でも良いが、受付嬢が勧めるので一緒に出勤。何時も気を使ってくれるので、きっと何か考えがあると思って言われた通りにやってきた。四人を降ろして出掛けようと思ったら受付嬢に捕まり魔獣の情報を聞いたりしていると、騒がしいかったホールがしんと静まり返った。全員の視線は、ドレスアップした四人に釘付けで、何時も飛び交う猥褻な野次も全く無かった。何時もは邪魔にならない様に無造作に縛った髪が綺麗に結い上げられ、日焼け止めの代わりに、上品なメイクが施されていた。髪、耳、首、指には輝くモノが散りばめられ、あちこちから生唾を呑む音が響いていた。
「ギルドの馬車も用意出来ますけど、ご自分でお送りになります?」
ぎこちなく頷いて馬車に向かった。