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絶対絶命

《地獄なのか?まぁ天国ってのは有り得ねぇだろうな。》


 俺、四元(よつもと)光樹(こうき)56歳は、暗闇の中に居る。思考回路が重く、フリーズしながら、記憶を辿ってみる。

 ひと仕事を終え、遠征先のビジネスホテルでコンビニで調達した弁当と缶ビール。物騒な生活を余儀無くされているが、不特定多数が買う可能性のある弁当に毒物混入の可能性は低いだろう。念の為ラップの状態を確認してから部屋のレンジで温めた。缶ビールの外観をチェックしてから『プシュッ!』耳で味わうグルメでは無く、毒物混入の際一度開けてしまうと缶内の圧力が下がるので、その確認のため音を確かめる。問題無く、一口。味も問題無い・・・ウッ?喉が熱い!油断した訳では無かったが、ここまで精巧な毒入りビールは感心してしまう程だ。

 水を飲んで吐いたが、痺れは全身に回る。ドアが開き、チェーンが張る音がした。3階の窓から飛び降りる。鍛え上げた肉体にとって普段なら平気な高さだが、痺れた身体ではショックを吸収出来なかった。骨折の一つや二つは間違い無いだろう。窓から死角になる所に転がり込む。元居たアスファルトにボウガンの矢が弾けた。逃げ切れずに一本が左の二の腕を貫いた。

 窓からの逃亡は予測していたようで、サーチライトで目眩ましされ、刃物を持った男達に追われた。接近戦になれば、2、3人は道連れにしてやろうと思ったが、ボウガンの矢が止む事はなく、何とか動いていた右手も撃たれ、ほぼゼロだった戦闘力が完全にゼロになってしまった。男達の刃物は、ヒットアンドアウェイでリスクを負うことなく確実に俺の生命を削って行った。逃げる選択肢は、【絶体絶命】【超危険】【危険】の三択で、【危険】を選択しつつ逆転をチャンスを狙う。一か八か、物置小屋に転がり込んだ。

 ガソリン臭が充満した小屋で、満身創痍。腹に刺さった矢傷からは盛大に血液が噴き出している。出血多量は、医者が診なくても生命の危機に肉薄しているのが判るし、盛られた毒による嘔吐で呼吸もままならない。小屋の外は、完全武装の何者かが10人程で囲んでいる筈だ。

 聴き慣れた着信音。持っていない筈のスマホが鳴った。何とか応答すると。

『お前の死に場所はそこだ、我々が誘導した通りだな。』

知らない声だが、俺を潰す事に相当な喜びを感じている様に聞こえた。ここに追い込む事を見越して、俺のスマホを置いてあった。憎まれ口の一つでも叩いてやろうかと思ったが、既に発声出来るチカラは残っていなかった。

 職業柄、恨まれる事は避けられない。主に法で護る事の出来ない事案を請負うガードマン?用心棒的な事を生業にして来た。今回の襲撃は、反社系の組織だろうな。黙っていても数時間後には、生きていない、四元光樹は、ただの死体か、分別に困るゴミになってしまうだろう。

《まあサラリーマンならそろそろ定年の歳だ、引退していないのが奇跡って感じなので、それなりの人生だったと思うことにしよう。》

 そんな先の事を考えていると、リモートスイッチだろうか?真っ暗だった小屋の中が眩く光り、轟音と共に壁に打ち付けられた。爆発の光も轟音も焼ける臭いも直ぐに消え、痛みも熱さも何も感じなくなった。

《そうか、あの時俺は死んだんだな?》

それから時間は経ったのだろうか?とても永くも感じるし、あっという間だった様にも感じられる。


 思えばロクな人生じゃなかった。幼少期は、それなりに裕福に暮らしていた筈だが、となる事件に巻き込まれ両親を亡くした。親戚が少なく、一番近い親族が母の従姉妹達で、中学を出るまでそこを転々とした。寮のある高校に進み、独りで暮らす様になった頃には、両親が遺したモノはほぼ消えて無くなっていた。


 卒業後は警察官になり、奨学金を返済。幸い身体能力が高かったので、特殊部隊に配属された。そこで命のやりとりのノウハウを身に付けた。

 それなりに充実した暮らしをしていたある日、両親の事件について年配の警察官から情報を得た。『四元(よつもと)』という、あまり聞かない姓が運が不運か昔の事件の謎に触れる事が出来た。内部では割と有名だが、証拠になる物は全て行方不明、重要な証人になり得る人物は全員がこの世の人では無い。

 個人的に探って見ようと思い、当時の資料を調べて見た。捜査資料は全く無く、両親は銀行強盗に射殺された事になっていた。育てられたオジ、オバに聞いていた話しと相違無い。強盗事件そのものが、幹部の出世レースに起因していたらしい。ここまで資料が無いなら、残っている事件が全てなんだろうと、自己解決する事にした。

 その直後、身に覚えのない横領事件の疑いが掛かり、正々堂々銀行口座を開示すると、反社組織が麻薬取引に使う隠し口座から大金が振込まれていた。

「懲戒免職、収賄でブタバコ行きだな、何か言い残すことは無いか?」

潔白を主張したが、全く聞き入れられず、謹慎を告げられた。架空の罪を自白する迄の拷問を覚悟したが、取り調べ等は無く、依願退職の処理になっていた。振込まれていた大金もそのままだった。

 どう見ても不自然だった。私物を届けに来てくれた上司は、

「不思議な事を全て解決する事が良い事とは限らない、自分の身を護る事を優先しなさい。殉職したケースの退職金以上は振り込まれていたよね?」

 両親の事件を嗅ぎ廻った事へのペナルティだろうな。争っても仕方の無い相手だろう、明日からの生活に思考を向けて大人しく暮らす道を選んだ。

 警察OBが営む探偵事務所に拾わる。職種は近いが、国家権力が伴わない捜査はハードルが高かった。何とか熟して居ると、3ヶ月程して後輩が入社して来た。警察時代の部下の女性だった。彼女は俺の濡れ衣を晴らそうとして、同じ様な目にあったらしい。

「結婚して下さい!」

久しぶりに会った彼女の第一声だった。悪い冗談と思っていたが、本気だったらしい。数年後婚約する事になるが、俺の担当していた案件で人質にされ、そのまま帰らぬ人になってしまった。

 身近な人に危険が及ぶ事を改めて実感し、その後はボッチを貫いてきた。最後になった案件も、逆恨みだった気がする。黒幕が解らないので、何とも言えないが、経験上、そう判断するのが自然だろう。財産も借金も無い、後始末に必要な程度の現金と委任状をアパートの大家に預けてある。今回の依頼も依頼事項に関しては達成しているので、思い残す事は無い。

 走馬灯?結構鮮明に記憶を辿り、やはり天国行きをあきらめ、意識を手放した。闇と静寂に包まれ、何十年振りにゆっくり眠る事が出来た。

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