5人の勇者
約2000年前、この世界に神という概念が生まれていない頃。人間たちはある種と出会う。
魔者。
5体があり、仮面を着け、人にしては大きすぎる体を有し、人ならざる力である魔術を使い、人間よりも高度な文明を持つ国から来たという彼は、人間に対しその恩恵を与え、文明の発展した人間は瞬く間に数を増やしていった。
しかし、魔者は神にはなれなかった。その仮面の裏には残虐な獣の顔を隠していたのだ。
人間の数が増えると、魔者は人間を食べ始めた。人間はなす術もなく逃げるばかりで戦いに挑んだ人間たちは皆、魔術によって炭と化した。
逃げ続けた人間たちは、森にたどり着いた。そこには森の主、精霊がいた。かつて魔者に聞いていた、この世の力の根源だ。
人間は懇願した。「どうかあの魔者を倒してください」
精霊は光り輝くと、人間の胎児の姿になり、こう言った。
「私に触れよ」
人間はそれに触れればこの世の理から外れることを理解し恐れた。しかし、その恐れを克服した勇者が5人いた。
1人は右手に触れ、常人ならざる剣術を得た。
1人は左手に触れ、常人ならざる弓術を得た。
1人は腹に触れ、癒しの力を得た。
1人は頭に触れ、あらゆる知識と魔術を得た。
そして5人の中で唯一女であった最後の1人が触れようとすると、胎児はまた光り、その姿を消した。
周りにいた人間は騒然としたが、女曰く「この身に宿した」と言う。
勇者たちはそれぞれ”剣の勇者“、“弓の勇者”、“癒しの勇者”、“賢の勇者”、“母なる勇者”と呼ばれることになった。
”剣の勇者“は森で採れた珍しい鉱石で、唯一その造り方を知る”賢の勇者“に剣と盾を造らせ、”弓の勇者“はいままで誰も引くことのできなかった剛弓を携え、稽古で疲れれば“癒しの勇者”がその体を癒し、また稽古に励んだ。
“母なる勇者”は身重で稽古に励むことはできなかったが、勇者以外の人間を統率し、やがて集落の長となった。
そして“母なる勇者”もまた、特異な力を持っていた。その体に触れると癒しの勇者でも治せなかった病人は癒え、死にかけていた者がその血を飲むと、息を吹き返した。
ある日、魔者が勇者たちの前に現れた。数に優位があった勇者一行は先手を打ったが、魔者はそれでも圧倒的であった。
しかし、癒しの勇者が傷ついた他の勇者を癒すと、途端に勇者が魔者を圧倒し始めた。
賢い魔者は先に癒しの勇者を殺した。しかし、その隙をついて剣の勇者の剣が魔者の胸を突き刺し、弓の勇者が放った矢が仮面の目を貫いた。
魔者はそれでも死ななかった。
賢の勇者は知っていた。剣の勇者によって心臓を貫き、弓の勇者によって脳を貫き、自らの魔術によって魔者を焼くことで初めて殺すことができるのだと。
賢の勇者が使う魔術は、かつて魔者が人間を焼いた炎よりも大きく、そして熱かった。
戦いの後、癒しの勇者はその場で葬られ、賢の勇者によって神殿が建てられた。