第六話・窮地
フギンが建物に侵入し、屋上を目指し進み始めた頃、エル・スピネルは窮地に立たされていた。
場所は屋上扉前、スピネルの他には男と女が一人ずつ、フギンを除けばこれがいまこの建物に存在するまともな人間であった。
「生き残りは3人だけ…このままじゃ生還は絶望的ね、もしかしたらフギンさんが助けに来てくれるかも知れないけど、さすがにここに到着するまでに時間はかかるでしょうし、それまで生き残ることができるのかしら?」
そう彼女は弱音をこぼす、周囲を見れば他の生存者たちは絶望に打ちひしがれた様子で震えている。
「扉はとりあえず廃材で塞いだけど…このままじゃ突破されるのは時間の問題ね。」
そんな言葉をこぼしながら、彼女は束の間の休息を得る、心の内で助けが現れることを祈りながら…
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一方そのころ
「やべぇ…ここどこだ?三階…だよな?上に行く階段が見つからねぇ、いったい俺はどこにいるんだ?」
フギンは道に迷っていた。
一応彼の名誉のために解説しておくと、彼は別に方向音痴という訳ではないし、普段ならば道に迷うなどという事はない。
「ここまではスムーズに来られたんだけどなぁ…もしかしなくてもアレをどうにかしないといけないんだろうけど、どうしたもんかねぇ。」
そういうフギンの視線の先にあるのはREMたちの体を構成する肉塊と同じような見た目をしている文字通りの肉の壁というべきものであった。
「あいつらの体に触れるとあいつらと同じものになる、ならばあの壁も同じような特性を持っていてもおかしくはない、どうしたもんかねぇ。」
そんなことを言いながらも、フギンは迷うことなく懐から粘土状のモノを取り出すと、肉の壁の付近に設置し、起爆装置を差し込むとその場から離れ、付近の部屋に入り身を隠した。
しばらくすると轟音と共に建物が揺れる。
「やっぱりこういう時はこの手に限るぜ!」
そう軽く言い放つフギンは元の様子など見る影もない惨状を晒している廊下に意識を向けることもなく、爆破によって開けた道を悠々と進んでいくのだった。
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フギンがそんなことをして先に進み始めた頃、スピネルは本当の意味で窮地に立たされていた。
扉の前に設置していたバリケードは崩され、屋上は一部崩落し、そして何よりも大量のREMたちがスピネルの前に現れていた、スピネル以外の人員は恐怖でまともに動くこともままならず、実質的に戦闘を行えるのはこの場ではスピネルのみ、まさに絶体絶命、もはやこれまでかとは思いつつも、スピネルは愛銃たるS&W M&P9 シールドをREMたちに向け構え、戦闘を始めるのであった。