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リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジ

 暗い室内に、ワインの瓶がテーブルへと置かれる。

 その栓を抜き近くのグラスへと注いだ男は、そのグラスを二つ抱えてもう一人の男へと近づいていく。

 彼がテーブルへと戻したワインの瓶には、その銘柄を示す文字が刻まれている。

 それは―――。


「いかがですか、ジーク様?シャトールーベンの三十年物ですよ」


 シャトールーベン、高級な貴腐ワインと知られるその銘柄の、それはさらに三十年物という逸品であった。


「・・・貰おう」


 豪華な燭台には、それと不釣り合いに思えるたった一つのロウソクだけが灯されている。

 その明かりに照らされた壮年の男、ジーク・オブライエンは男の声に重々しくそう答えていた。


「それで、貴様が持って帰ってきたお土産というはこのワインだけか?そうではないのだろう、マービン?」


 男からワインを受け取り、それに一口啜ってから近くのテーブルへと置いたジークは、そう尋ねる。

 その男、マービン・コームズに対して。


「まさか。あれをここに」


 ジークの言葉に肩を竦めたマービンは、指を鳴らすの部屋の奥へと声を掛ける。

 その声に部屋の外からは慌ただしい足音が響き、やがて一人の顔に覆いをされた男が連れてこられてきていた。


「・・・その男は?」

「言葉で説明するよりも、実際に顔を見ていただいた方が早いかと。お見せしろ」

「はっ」


 ジークはどこか無関心そうに、しかし値踏みする視線を連れてこられた男へと向ける。

 彼の質問にマービンはどこかもったいぶった口調で答えると、その男を連れてきた男へと声を掛け、顔を覆いを外させる。


「これはこれは・・・同じ四大貴族と並び称された者同士、このような形でお会いするとは残念ですな、エミール・レンフィールド殿。いや、今はシーマス・チットウッドとお呼びすべきか?」


 覆いを外されて現れたのは、ジークと同じ四大名家と呼ばれるレンフィールド家の人間、エミール・レンフィールドであった。

 そしてそれは、ユーリの元同僚であり、マルコムの相棒でもあったあの黒葬騎士団の一員、シーマス・チットウッドでもあったのだった。


「そうか、では?」

「はい、背後で策謀していたのはこの男でございました。いやはや中々尻尾を出しませんで、誘き出すのに苦労しました」


 ジークとマービンはお互いに視線を交わし、何かを確認し合う。

 そしてそれに頷いたマービンが口にした言葉に、エミール・レンフィールドことシーマスは目を見開いて驚愕の表情を見せると、やがてがっくりと項垂れていた。


「それでマービン、貴様の事だこれだけではあるまい?」

「流石はジーク様、全てお見通しで・・・おい、お連れしろ」


 片方の眉を上げ、そう尋ねるジークにマービンは深々と頭を下げる。

 そして彼はシーマスを連れ出させると、また別の誰かを連れてこさせるように命令していた。


「何ですの、貴方達は!?私がこんな事で屈すると思ったら、大間違いなのですわ!!」


 連れてこられたのは、キンキンと響く甲高い声を響かせながら必死に抵抗して暴れている金髪の少女と、同じく金色の髪を持った背の高い女性であった。


「これはこれは、お二方・・・」


 二人の登場に、ジークは腕を広げ歓迎を示す。

 そしてそのまま彼は、ゆっくりと彼女達へと近づいていく。


「な、何ですの貴方は!?私は、ユークレール家の娘ですのよ!!こんな事をしてただで・・・?」


 彼女達の目の前にまで歩み寄ったジークは、その前に跪く。

 しかしそれは、オリビアの前ではなかった。


「ようこそお越しくださいました、リリィ・ボニアディ様・・・いえ、リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジ殿下」


 リグリア王国、その最高位の貴族である四大貴族の一員、ジーク・オブライエンが跪かなければならない相手は少ない。

 それはこの国の国王、もしくはその王位継承者である王子達、あるいはその娘である王女だけだ。

 そして王位継承権の持つ王の子供は、性別にかかわらず殿下と呼ばれる。

 つまり彼女は―――。


「エルドリッジ?それじゃ、リリィ・・・貴方は、この国のお姫様なの?」


 この国の王位継承者、リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジその人であった。

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