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崩壊した街の二人

 最果ての街キッパゲルラ、そこには今悲鳴と怒号が至る所から響き渡っていた。

 そんな街の片隅、怪物の発生した爆心地からほど近い瓦礫の山の中から、尻尾が一本生えてくる。

 その尻尾はもぞもぞと動くと、やがてその上の瓦礫を盛り上げ始め、いつしかそこから一人の少女が抜けだしてきていた。


「けほっけほっ!うぇ~、口の中真っ黒けだぁ・・・ぺっ、ぺっ!」


 瓦礫の山から抜け出し、その可愛らしい口の中から真っ黒な煙を吐き出している尻尾の生えた少女、ネロはその煤塗れな舌を嫌そうに伸ばしている。

 その汚れっぷりは、如何にそれまでの逃亡劇がギリギリだったかを物語っていた。


「はー、でも危なかったなー。何とか助かって良かった・・・あっ、そうだ!!」


 口の中の煤を吐き出そうと苦労していたネロは、何とか逃れた危機に気が抜けたように先ほど抜け出したばかりの瓦礫の上へと座り込む。

 そのまま足を延ばし、ぐったりと身体を休めようとしていた彼女はしかし、何かを思い出すと慌てて跳ね起きていた。


「プティと一緒に逃げてたんだった!そんな、でもどこにも・・・プティ、プティー!!そんな嘘だよね・・・ボクを置いていなくなるなんて、そんなの・・・プティー、プティー!!」


 彼女は双子の姉妹であるプティと一緒に、ここまで逃げてきたのだ。

 しかし今、彼女の姿はどこにもない。

 生まれた時から一緒で、これからもずっと一緒に生きていくと、そう当たり前に考えていた片割れの姿がない。

 その不安にネロは唇を震わせると、真っ青な顔で彼女の姿を探す。


「ねぇ、どこなの?どこに行ったんだよぉ・・・ボクを、ボクを一人にしないでよぉ・・・プティー!!!」


 瓦礫の山の上をふらふらと彷徨うネロは、その頬に涙を流しながら叫ぶ。

 しかしその声は、空しく響くばかりであった。


「こ、ここだよー」


 たった今までは。


「プティ!?今、どこから聞こえた!?プティ、プティー!!」


 どこからか聞こえたその消え入りそうな声は、確かに彼女の双子の片割れ、プティのものであった。

 それに弾かれるように顔を上げるネロ、彼女は慌てて周囲を見渡すが、そこに彼女の姿はない。


「ここ、ここだよー!ネロー、早く助けてー」

「あそこだ!!待ってて、今助けるから!!」


 もう一度、聞こえた声。

 今度は確かにその方向を確かめたネロは、瓦礫の山の中から突き出ているプティの細い腕の姿を見つけていた。


「けほっけほっ!!えへへ・・・真っ黒けだ。お揃いだね、ネロ」


 ネロの手によって瓦礫の中から引っ張り出されたプティは、その真っ白の髪の毛を真っ黒に汚してしまっていた。


「プティ・・・ひっく、ぐすっ」

「ネロ?」


 照れくさそうにはにかむプティの笑顔に、ネロは鼻をすすり嗚咽を漏らす。

 そんな彼女の態度に、プティは不思議そうに首を傾げていた。


「うわああああああぁぁぁぁん!!良かった、良かったよぅ!!」

「わぁ!?い、痛いよネロ・・・よしよし、怖かったんだね。良く一人で頑張ったね、偉いよネロ」


 やがて感情は決壊し、ネロはプティへと抱き着くとわんわんと涙を流しながら泣き叫ぶ。

 初めはそんなネロに戸惑っていたプティも、やがて彼女を優しく抱きしめ返すと、その頭を撫でてやっていた。


「ネ、ネロ・・・立てる?」

「うー・・・もうちょっと」

「ごめん、ネロ!早く立って!じゃないと・・・!!」


 涙を流すほどにお互いを必要としあい抱きしめ合う姉妹、その微笑ましい光景をその姉妹の片方がぶち壊してしまう。

 何やら引き攣った表情で彼方へと視線をやり、ネロへと立ち上がるように促すプティに、ネロは彼女の身体を強く抱きしめては抵抗を示していた。


「何だよぅ、もうちょっとぐらいいいじゃん・・・か?」


 プティに激しく促されたネロは渋々ながら彼女の身体を離すと、その視線の先へと自らも顔を向ける。

 そこには彼女達に狙いを定めたように視線を向ける、邪龍の巨大な顔の姿があった。


「逃げるよ、ネロ!!」


 明らかにそれは、こちらを狙っている。

 プティはそれに、慌てて逃げ出していた。


「・・・ごめんプティ、腰が抜けちゃって動けない」


 しかしプティが生きていた安堵に腰を抜かしてしまっていたネロは、その場を動くことが出来なかった。


「だからさ・・・ボクを置いて、プティだけでも逃げて」


 プティを失ったと思った先ほどの痛みに比べれば、自分が死ぬことは怖くない。

 そう笑うネロの頬には、一筋の涙が伝う。


「そんな・・・そんなの出来る訳ないよ!!一緒に逃げるよ、ネロ!!」

「駄目!それじゃ間に合わない!!お願いだから、プティ!!」


 そんなネロを、プティが見捨てられる訳もない。

 彼女は慌てて引き返してくると、ネロの肩に担いでその場を離れようとする。


「あぁ・・・もう」


 ネロを抱えてその場から離れようとするプティの足は、遅々として進まない。

 彼女の頑なな意思に、もはや拒絶することも出来ないと悟ったネロは後ろを振り返る。

 そこには、こちらに向けてその巨大な顎を開き、その奥を眩く光らせている邪龍の姿があった。


「助けて・・・助けて、おとーーーさーーーん!!!」


 そして彼女は叫ぶ、彼女がこの世で一番信頼している人の名を



「マスターに代わり、私が承ります・・・もう大丈夫ですよ、ネロ、プティ」



 視界を真っ黒に塗りつぶすようなブレスが、邪龍の口から放たれる。

 それは周囲の空気を全て焼き切り、そこに存在する音すらも消し去ってしまったようだった。

 しかしネロは確かに聞いたのだ、その直前に響いたその声を。


「少々、厄介ですね。マスター、お下がりを」

「えっ、えっ!?今なんて言ったの!?ひぃ!!?」


 彼女達の目の前、ブレスが迫る空間に金色の髪を棚引かせた美しい少女が降り立っていた。

 そして彼女はその脇に抱えていた何かを放り捨てると、その手を振り払う。

 彼女のその手は邪龍の放ったブレスを弾き返し、それを虚空の彼方へと追いやっていた。


「ネロ、あれ・・・」

「うん」


 その姿、その声を憶えている。

 彼女達にとって誰より大切なその人が今、ここに現れ守ってくれたのだ。


「「おとーさーーーん!!」」


 彼女達は駆け出し、その人物の下へと向かう。

 その人物、彼女達のおとーさんであるユーリの下へと。


「ねぇ!?今、俺死にかけなかった!?死にかけたよね!!?」

「おとーさんおとーさん、ボクね頑張ったんだよ!!」

「おとーさん、エクス!助けに来てくれたの!?良かったぁ、これでもう安心だね!」


 一気に集合した四人、彼らはそれぞれに言いたい事を勝手に喋り始め、もはや誰が何を言っているのかも分からなくなってしまう。


「今は、あれをどうにかするのが先決です。マスター、ご指示を」


 しかしエクスだけは冷静に、今何より優先しなければならない課題について口にする。

 彼女が視線を向けた先に存在する、邪龍を何とかしなければと。


「あー・・・確かにそうだな。んー・・・エクス。お前さぁ、もしかしてあれいけたりする?」


 エクスのもっともな意見に頭を掻いて納得を示すユーリは、散々頭を悩ませると彼女に無茶ぶりを吹っ掛ける。


「ご命令とあらば」

「えっ、マジで?じゃ、じゃあお願い出来る?」

「畏まりました」


 それに膝をつき、あっさりと了承を示したエクスに、ユーリは逆に呆気に取られてしまう。

 そして彼によって邪龍討伐を任せたエクスは、何の躊躇いもなくそちらへと向かっていく。


「で、でもエクス。それだと街の皆が大変だよ!」

「あー、そうかも。あんなのに街で暴れられたら、こんな街あっという間になくなっちゃうなー」


 振り返りもせずに去っていこうとするエクスに、ネロとプティがそれでは街の住民が巻き込まれてしまうと心配を口にする。

 確かに彼女がこのまま邪龍と戦えば、例え勝利したとしても街は、特にそこに住んでいる住民は無事では済まないだろう。


「心配は無用です、二人とも。それはマスターが何とかしてくれますから」


 エクスは一度立ち止まり振り返ると、その心配は無用だと口にして去っていく。


「えっ、俺が?」


 その無茶ぶりに、ユーリは自らの顔を指差しては口をあんぐりと開けている。


「あー、なら安心だね」

「うん!おとーさんならきっと何とかしてくれるもん!」


 ユーリ自身がそんなの無理だという反応を示しても、それとは裏腹にネロとプティはまるでもう勝ったも同然だと安心しきった様子で、そう口にする。

 彼女達の表情からは、ユーリに対する絶対的な信頼が窺えた。


「いやいやいや、流石にそれは・・・マ、マジで?」


 娘達からの絶対的な信頼にも、ユーリは有り得ないと首を横に振る。

 しかしそれでも二人の態度は変わらず、何よりその場に彼に以外それを任せられる人物も存在しないのであった。

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