細かい事は気にしない二人
「いっくよー、ファイヤーブレイドー!!」
最果ての街キッパゲルラの路地裏、その奥も奥の袋小路に場違いなほど明るい声が響く。
その掛け声と共に自らが手にした剣に炎を纏わせたネロは、近くの黒葬騎士団相手に切り込んでいく。
「ふんっ、予告しながら攻撃する奴がいるか!」
だが彼女が口にした言葉にその攻撃手段も予想出来た相手は、それを難なく躱していく。
「う、動くと危ないですよ?えーい、サンダーストーム!」
「ぎゃああああ!!?」
しかしその逃げ道を塞ぐように、プティが放つ雷が迫る。
ネロの攻撃を避けるのに気を取られていた彼はそれを躱すことが出来ず、もろに食らってしまっていた。
「あー!またプティが取ったー!!」
「ち、違うもん!そんなつもりじゃなかったもん、偶々そうなっちゃっただけだもん!!」
黒焦げになって倒れる敵の騎士に、ネロは獲物が取られたとプティに食って掛かる。
それにプティも譲らず、彼女達は戦いそっちのけで言い合いを始めてしまう。
「・・・この、ガキ共が!」
そんな彼女達の足元で、先ほど倒した筈の騎士がゆっくりと起き上がり、復讐に燃える瞳で剣を掲げていた。
「プティ、前!」
「えっ?きゃあああ!?」
ネロがその寸前に気付くが、もう遅い。
その騎士が振り下ろした刃は、プティの身体に届こうとしていた。
「・・・あれ?何ともない?」
「えっ?本当だ・・・何で?」
蹲り目を瞑るプティを庇うように、ネロがその身体を抱きしめている。
彼女達はいつまで待ってもやってこない痛みに、恐る恐るその目を開く。
「ったく・・・お前らは詰めが甘いだよ、詰めが」
そこには、敵に止めを刺しているオーソンの姿があった。
「おー!何だー、オーソンもやれば出来んじゃーん!」
「す、凄いです!助かりました、オーソンさん!」
オーソンの行動によって命を救われた二人は、その目を輝かせると彼の周りをクルクルと回ってははしゃいでいる。
「へへっ、そりゃそうよ!何たって、こちとら凄腕冒険者のオーソンで通ってるんだぜ?お前らとは年季が違うんだよ、年季が!がははははっ!!」
自らをおだてる二人の言葉にオーソンも悪い気がしないのか、彼は豪快な笑い声を上げながら頭を掻いている。
その三人の様子は完全に戦いの事を忘れた人のそれで、当然それを狙って敵の手が迫っていた。
「『止まりなさい!!』三人とも何やってるの、戦闘中よ!?」
その敵をレジーがその能力を使って、何とか食い止める。
「お、おぉ・・・わりぃわりぃ」
レジーの能力によって硬直した敵を慌てて打ち倒したオーソンは、彼女に対して手を立てて謝っている。
「全く・・・ん?」
ネロとプティの二人はともかく、ベテランの冒険者であるオーソンのその振る舞いに、レジーは頭を抱えて溜め息を漏らす。
「わー・・・ねーねー!さっきのってどーやったの!?」
「はわわっ!駄目だよ、ネロ!そーゆーのを人に聞くのはマナー違反だって、おとーさん言ってたよ!!」
そんな彼女の下に、その瞳をキラキラと輝かせた二人がやって来ていた。
「そ、それよりほら!お礼言わないと」
「あ、そーだった!レジーさん、助けてくれてありがとーございました!」
二人の態度にレジーが戸惑い言葉を失っていると、彼女達はぺこりと頭を下げてくる。
「あ、貴方達・・・その、私のこと恨んでないの?」
二人のその態度にレジーが戸惑っていたのは、彼女には彼女達との間に確執があったからだ。
二人の真っ直ぐな態度にもはやそれを聞かずにいられなくなったレジーは、思わずをそれを口にする。
「恨む?何でー?」
「そ、そうだよ!レジーさん、いつも一生懸命仕事してて凄いなって!」
「なー」
レジーの卑屈ですらあった言葉に、二人は目を丸くすると心底不思議そうな表情を浮かべる。
そして二人で顔を見合わせては全然そんな事ないのにと言い合う二人に、レジーは気が抜けたのか腰を壁につけたままズルズルと崩れ落ちていく。
「そっか、私が勝手に気にしただけか・・・ははっ、本当にどうしようもない」
自嘲の笑みを浮かべゆっくりと顔を上げたレジーは、何か憑き物が落ちたようなすっきりとした表情をしていた。
「ねーねー、それよりさっきのってどうやったのー?教えてよー?」
「ネ、ネロ!だから駄目だって、そういうのは!!」
そんなレジーの心情などお構いなしといった様子で、ネロが彼女の腰へと抱き着くと、さっきののやり方を教えてとせがんでくる。
プティはそれを何とか止めさせようとしていたが、それは結果的に彼女の身体を挟んでやり合う事になっていた。
「ふふっ・・・二人とも、戦闘中よ!もっと気を引き締めなさい!!」
「「はーい」」
レジーの叱りつけるような声に、二人は背筋を伸ばして返事を返す。
それはまるで、先生と生徒のような姿であった。




