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がっかり騎士

 太陽が天頂を過ぎ傾き始めた時間、冒険者ギルドには眠たげな空気が流れていた。

 張り出されたばかりの依頼を求めて冒険者達がごった返す早朝、依頼を終えた冒険者がギルド内に併設されている酒場スペースでたむろし自らの冒険譚を自慢げに語り始める夕刻と違い、この時間はやってくる冒険者も疎らだ。

 昼食を終えたばかりのトリニアは、その温かな空気に暇を持て余し思わず欠伸を噛み殺す。

 そんな午睡の空気を切り裂くように、ベルの音が響く。

 それはこのギルドの来客を告げるベルの音だ、トリニアは慌てて背筋を正す。


「あ、オーソンさん。お早いお帰りですね、お仕事順調だったんですか?」

「おぅ、まぁな!俺ぐらいになると、こんぐらいは軽くこなせるってもんだぜ!」


 ギルドの扉を押し開いて入ってきたのは、体格のいい強面の冒険者オーソンだった。

 他の受付嬢がまだ昼食から帰ってきていないギルドに、オーソンは真っ直ぐにトリニアが待つ窓口へと向かう。


「ほれ、こいつ。受け取り頼むぜ」

「あ、はい。討伐の証ですね。少し待っててくださいね、今清算しちゃいますから・・・」

「おー」


 窓口まで歩いてきたオーソンは、腰からぶら下げていた袋の中身をトリニアの前へとぶちまける。

 そこから飛び出してきたのは、魔物の身体の一部と思われる部位であった。

 それに驚くことなく一つ一つ確かめては手元の票と照らし合わし始めたトリニアに、オーソンは気のない返事を返すと何やらソワソワと落ち着かない様子で身体を揺すり始めていた。


「・・・そ、それよりよー。例のあいつは、どうなったんだ?」

「例のあいつ?それって誰の事ですかー?それより後ちょっとで終わるので、少し静かに―――」

「そんなの後でもいいんだよ!!それよりあいつだよ、あいつ!!例の元黒葬騎士団の!!」


 露骨に明後日の方向へと視線を向けながら、ついにそれを口にしたオーソンに、トリニアは手元での作業を止めることはない。

 そんな彼女の態度にオーソンは憤ると、激しく受付のカウンターを叩いていた。


「ユーリ・ハリントン。彼ならいつもの仕事に向かったわよ、そうでしょトリニア?」

「あ、お帰りなさい、先輩。確かにユーリさんなら、いつものお仕事ですね」


 憤るオーソンの疑問に、黒髪の受付嬢が答える。

 意味深な表情を浮かべながら昼食から帰ってきたレジーに、トリニアは振り返ると軽く頭を下げていた。


「いつものお仕事?いつものお仕事っつうと何だ?ドラゴンの討伐にでも向かったのか?いや、そんな依頼がそういつも出てる訳ねぇわな。そうなると―――」


 この国最強の黒葬騎士団の元騎士、そんな人物がこなすいつも仕事にオーソンは想像を膨らませる。


「万霊草の採取、そうよねトリニア?」

「はい、そうですね」


 そんな際限なく想像を膨らませてるオーソンに、レジーは短い言葉で答えを告げていた。

 万霊草の採取、それがユーリがいつも行っている仕事。

 それは―――。


「はぁ、万霊草の採取?そりゃ、お前・・・駆け出し用の超簡単な依頼じゃねぇか!!?」


 駆け出しの冒険者用に設けられた、とても簡単で安全な依頼であった。


「はー、本当がっかりよね。元黒葬騎士団って言うから、どんな依頼をこなしてくれるかってこっちは期待したのに・・・こんな駆け出し用の依頼こなされるなんて」

「んだよ、期待してたのに!見掛け倒しかよ!?いいや、あいつの場合は見掛けもひょろっちかったからな!!肩書倒しだ肩書倒し!!」

「がっかり騎士よ、がっかり騎士。この財政難のギルドの救世主になると思ってたのに・・・」


 期待外れな依頼をこなしているユーリに、オーソンとレジーの二人は思い思いの言葉で好き勝手ユーリの事を貶している。


「ぼ、冒険者としては駆け出しなんだから、駆け出し用の依頼するのは当然だと思います!!そ、それに何か凄い成果を持ち帰ってくるかもしれないじゃないですか!!」


 そんな二人に対して、トリニアだけが一人ユーリの事を擁護する。


「万霊草の採取で?ないない!!ある訳ないじゃない、あははははっ!!」

「ある訳ねぇだろ、そんなの!!そんな事になったらなぁ、素っ裸でそこいらをぐるっと一周してやってもいいぜ!なる訳ねぇけどな、がははははっ!!」


 トリニアの無理やりな擁護に、オーソンとレジーの二人は腹を抱えて笑い出す。


「・・・あるかもしれないもん」


 そんな二人を前に、トリニアは一人憮然とした表情で立ち尽くしていた。

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