事務員ユーリの実力
「マスター、私をお使いください」
「エクス、お前・・・」
目の前の強敵に自らの力だけでは敵わないと判断した少女は、そう自らの主人に託す。
「あぁ!来い、エクス!!」
エクスと呼ばれたその少女、聖剣エクスカリバーに彼は手を伸ばした。
「ふっふっふ、今更なにをしようともこの邪龍グルンガルドには・・・な、なにぃ!!?」
勝ち誇る邪龍は、そんな彼らの姿に悪あがきだと笑みを漏らす。
「エクス、君の力を貸してもらうよ」
その目の前で少女は彼女本来の姿、聖剣エクスカリバーへと姿を変えていた。
「エクス、カリバーーー!!!」
「ぐわあああぁぁぁぁぁ!!?」
そして彼は、その圧倒的な力を解き放つ。
全てが光に包まれた。
「あぅ!?痛いよぉ、ネロ~・・・」
「あははっ!ごめんごめん!止めるの忘れちゃってた!」
「もー・・・次はプティがおとーさん役ね!」
そこら辺で拾ってきたのであろう木の棒でその頭を叩かれたプティは、涙目になりながらそれをやったネロへと抗議している。
それにネロは両手を後ろ手に組むと、けらけらと笑っていた。
「おーい、二人ともちょっとうるさいぞー。遊ぶんなら、もうちょっと静かになー」
「「はーい」」
どうやら二人は、ごっこ遊びに興じていたようだった。
ユーリの注意に二人して素直に答えた彼女達は手にしていた小道具を放り捨てると、またどこかへと駆けていく。
「ふふっ、可愛いですよね二人とも。元気一杯って感じで」
昼下がりのギルド内、冒険者の姿も疎らなその建物の中で、二人の騒がしい足音はドタバタとうるさく響く。
そんな二人の姿に、トリニアは微笑みながらユーリへと声を掛けていた。
「そうでもないですよ、最近は振り回されてばっかりで・・・あ、これ終わりました」
「そんな所も可愛いじゃ・・・えっ!?も、もうですか!?」
トリニアの声にユーリは溜め息を吐きながら振り返ると、手元で書いていた書類を彼女へと差し出している。
それを受け取りながらニコニコと会話を続けようとしていたトリニアは、驚きの声を上げると思わず受け取ったその書類を二度見してしまっていた。
「本当だ、ちゃんと出来てる。これも、これも・・・嘘!?去年の活動実績報告書まで!?」
ユーリから受け取った書類を次々と捲りながらその内容を確認しているトリニアは、それがどれも完璧な事に逆に顔を青くしてしまっていた。
「へー、大したもんだな。正直、最初は元騎士の冒険者に事務仕事なんてって半信半疑だったが・・・」
「そんなそんな!自分なんてそんな大したものじゃ、ははは」
「いやいや、大したもんだよ!いやー、ギルドの書類が全部燃えちゃったばっかだからさぁ・・・助かるよ、本当!」
「はっ・・・!?」
ユーリの仕事ぶりを後ろから覗き込んできたギルド職員は、それに感心の声を漏らす。
それに嬉しそうに顔を綻ばせては照れくさそうに笑って見せていたユーリは、そのギルド職員がある事実を口にした途端、顔を引き攣らせていた。
「あー、大変でしたよねあれ。結局、何だったんですかね?」
「なー?本当、意味が分からない―――」
「さーて、仕事仕事!!早く続きをやらないとなー!!!」
彼らが口にしているのは、ユーリが以前引き起こした事件の事であった。
その原因不明の発火現象を振り返り不思議だと首を捻っている二人に、ユーリはそれを誤魔化すように大声を上げては、更に仕事へと励んでいた。
「お、おぉ、頼んだ。しかしあれだな、こういう人って実際にいるんだな。一回見たものを忘れない記憶力があるんだろ?前に書類の片づけでも手伝ってもらったんだろうが・・・良かったな、トリニア!」
「えっ?先輩が何か手伝ってもらったんじゃないんですか?」
「は?何で俺が?そんな事する訳ないだろ!?」
「私もそんな事してませんよ!?」
謎の発火現象で全て燃えてしまったギルドの書類を、ユーリは物凄い勢いで復元していく。
その様子に、二人は彼が一度目にしたものを忘れない写真記憶の持ち主だと考えていたようだった。
「えっ!?じゃ、じゃあどうやってユーリさんは書類の復元を・・・?」
「そ、そんなの俺が知るかよ!?」
しかしその能力であれば必要な一度書類を見るという過程に、二人は心当たりがなかった。
にも拘らず、ユーリはスラスラと書類を復元していく。
一度も、目にした事のない筈の書類を。
二人の顔から、血の気が引いていく。
「あのー、少しよろしいですか?」
「ひゃ、ひゃい!?な、何か御用ですかユーリさん!?」
「あ、頼まれた書類全部終わったんで、他に何か仕事ありませんか?」
「ぜ、全部!?あれだけあったのが、全部ですか!?」
「えぇ、まぁ・・・それで暇になったので、何か仕事をと思ったんですけど」
そんなタイミングで声を掛けてきたユーリに、トリニアは思わず背中を跳ねさせる。
そして彼が示した背後に、復元された書類が山積みになっているのを目にして、さらに動揺した様子を見せていた。
「は、ははは・・・そ、そうだなー仕事かー・・・あー、そういえば最近街の近くで皇龍が目撃されたって話があったな。あれを何とかしてもらおうかなー、何てな!」
「先輩!?流石にそれは無理が―――」
ユーリの仕事ぶりにドン引きしているギルド職員は、乾いた笑いを漏らしながら冗談めかしてそう告げる。
それにトリニアは、流石に冗談が過ぎると焦った表情を見せる。
「あ、それなら多分出来ますよ」
「・・・は?」
しかしユーリは、それにあっさりと頷いていた。
「お、おい・・・嘘だろ?」
「き、きっと冗談ですよ!私達に合わせてくれたんですって!」
「そ、そうだよな!流石にそれは・・・冗談、だよな?」
ユーリの反応に言葉を失い固まる二人は、それを冗談と言い合う事で何とかそれに納得しようとしている。
そんな彼の目の前で、ユーリは淡々と作業に入ろうとしていた。




