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発見

「ふぅ、こんなもんかな?」


 額に浮かんだ汗をぬぐうユーリの指先は、草の汁が滲んで緑に染まっている。

 そんな彼の目の前には、万霊草で一杯の籠の姿があった。


「これだけあれば、トリニアの機嫌も直るだろ・・・しかしあいつら、どこまで行ったんだ?そろそろ探しに行った方が―――」


 一人で作業を行っていたためか、夢中で過ぎた時間はいつの間にか日が傾き始める時刻となっている。

 そんな時刻になってもまだ帰ってきていない二人に、流石に心配になってきたユーリは彼女達を探しに行こうとしていた。


「「おとーさーーーん!!見て見てーーー!!」」


 ユーリが新しい紙を取り出し、そこに何かを書き出そうとしていると、どこかから明るい声が聞こえてくる。

 それは彼の娘、ネロとプティのもので間違いないだろう。


「おっ、帰ってきたか。良かった良かった・・・て、駄目だ駄目だ。ちゃんと叱らないと・・・全く、駄目じゃないか二人とも!こんな時間まで、どこほっつき歩いてたんだ!?心配したん、だぞ?」


 帰ってきた二人に安堵し胸を撫で下ろしたユーリは、それでは駄目だと自らに言い聞かせると厳しい表情を作り、二人を叱りつけようとする。

 そうして声が聞こえてきた方へと顔を向けたユーリが目にしたのは、ボロボロな剣を掲げながら笑顔で走ってくる二人の姿。

 そして、そんな二人を追いかけるようにその後ろを爆走している巨大な魔物の姿だった。




「はー、はー、はー・・・な、何とかなった」


 激しく胸を上下させながら呼吸を整えているユーリは、その体重を地面へと突き刺した剣に預けている。

 その周囲には撒き散らされた万霊草、疲れ果て地面に横になってはぐったりしているネロとプティ、そして完全に止めを刺された巨大な魔物の姿があった。


「はー、装備を新調してて良かったぁ・・・前のおんぼろ装備のままだったらどうなってたか」


 ユーリが体重を預けている剣、それは最近新調したものであった。

 周りをよく見てみれば、ネロやプティが身につけているものも新しい装備であり、それらをもってしてもこの有り様となる相手に、それがなかったらとユーリは冷や汗を垂らす。


「しかしこんな強力な魔物が出るなんて話、聞いて・・・あ、そういえば前聞いたのってもしかして、こいつの事だったのか?何かずっとうやむやになってたけど・・・」


 黄色い表皮をした、ともすればドラゴンにも見えるその巨大な魔物。

 そんな魔物が出るなんて聞いていないと愚痴を零そうとしたユーリは、前にトリニアに依頼されそうになったが、そのまま放置されたままになっている依頼の内容を思い出す。

 その時、見せられた依頼書に記されていた魔物の特徴は、巨大な体躯と黄色い表皮、そしてドラゴンのような見た目。

 それはまさに、彼の背後で地に伏せている魔物の特徴そのものだった。


「うーん、これ報告とかしといた方がいいのかな?そうだな、適当にどこか討伐の証として切り取っておくか。あぁ、万霊草も拾わないと・・・」


 かなり前にチラッと見ただけの依頼書に、その詳細までは憶えていない。

 それでもここまで揃った条件に、ユーリはその魔物の死体から討伐の証を切り取る。

 そして彼は、周囲に散らばった万霊草も拾い集め始めていた。


「「おとーさん、おとーさん!」」

「ん、どうした二人とも?あっ!お前達、駄目だぞ!!こんな危険な事しちゃ!ちゃんと日が暮れる前には―――」


 そんなユーリの背中を、ネロとプティの二人が揺する。

 それに振り返ったユーリは、二人のボロボロな姿に彼女達の先ほどまでの振る舞いを思い出し、お説教を再開しようとしていた。


「そんな事より、これ見てこれ!!」

「凄いよね!?ね、ね?」


 しかしそれよりも早く、二人はユーリの目の前に何かを差し出していた。


「そんな事って・・・えっと、これは?ゴミ?」


 ユーリの目の前に二人が差し出したのは、異常なほどに錆びつきボロボロになった棒状の何かであった。


「違うよ!!聖剣!聖剣エクスカリバー!!」

「そうだよ!見つけるの大変だったんだから!」


 それに思わず本音を漏らしたユーリに、二人はぷんぷんと怒るとこれは聖剣だと主張する。


「えぇ?これが聖剣?ボロボロじゃん、それに途中で折れてるし」


 二人が聖剣だと主張するそれは、確かによく見てみれば剣のような形状をしている。

 正しそれは、途中でぽっきりと折れてしまった剣の形状であった。


「そ、それは最初から折れてたし!ボク達がやったんじゃないからね!!」

「そ、そうだよ!プティ達は、何もしてないから!」


 それを指摘するユーリに、二人は激しく焦り始める。

 必死に言い訳をするその姿は、逆に怪しさを増していた。


「ふーん、まぁそれはいいんだけど・・・で、どうするのそれ?聖剣だとしても、そのままじゃ使い物にならないでしょ?」


 どう考えても使い物にならない剣を大事そうに抱える二人に、それをどうするつもりなのかとユーリは尋ねる。

 それに二人は目を輝かせると、お互いに顔を見合わせていた。


「「妹!!妹が欲しいの!だからこれに名前をつけて、おとーさん!!」」


 そして二人は口にする、妹と。


「あー、そんなこと言ってったっけ。うーん、でもなぁ。正直あの力はあんまり使いたくないというか、そもそもそんな気軽に家族を増やしていい訳が・・・」


 ユーリのスキル「書記」、その能力の一つ「命名」は目の前の二人を生み出した力だ。

 確かにそれを使えば、二人の言う通りその聖剣とやらを彼女達の妹にしてやることは出来るかもしれない。

 しかしそんな事を気軽にしていいのかと、ユーリは悩む。


「「わくわく、わくわく」」


 そんなユーリに、二人は眩しいほどに輝く期待の眼差しを向ける。


「うっ!?じゃ、じゃあ・・・それを綺麗にしたらな」


 その眼差しに、否定の言葉が喉を通らなかったユーリは、思わず妥協の言葉を告げてしまう。


「本当に!?やったーーー!!!」

「やった、やったねネロ!!二人で頑張って、綺麗にしようね!」

「うん、うん!!ボクも頑張る!」


 その言葉に、歓声を上げ抱き合う二人。

 その目には、涙すら浮かんでいた。


「あ、不味かったかなこれ・・・まぁ、どうせすぐに飽きて放り出すだろ」


 そんな二人の様子に、判断を間違ったかと後悔するユーリは頬を掻く。

 しかし二人の事だから、どうせすぐに飽きて投げ出すだろうと彼は高を括っていたのだった。

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