メリッサ・キャロルは勝ち誇る
「ついに、ついにあのジーク・オブライエンの排除に成功したわ!これで、これでこの国は私のものよ・・・ふふふ、はははは、おーっほっほっほ!!」
ジークが立ち去った後の沈黙は、その部屋の主人の手によって破られる。
自らの身体を抱きしめるようにして成功を確かめていたメリッサはやがて、その手を解放されたように広げると大声で笑い始めていた。
「・・・も、もう終わったのか?」
そしてそんな母親の声に、その部屋のクローゼットに隠れずっと息を潜めていたジョンが、恐る恐るといった様子でそこから顔を覗かせる。
「誰!?」
恐る恐るクローゼットの戸を開けたジョンが、立てた物音は小さい。
しかしそんな小さな物音でも、興奮に神経が高ぶっているメリッサは聞き逃さない。
「誰であろうと・・・今の話を聞いていたのなら!!」
先ほど彼女がジークとしていた話は、まさにこの国を裏で支配しようとする密談であり、それを知られることは彼女にとって致命的となる類いのものであった。
それを聞かれたとあれば許せぬと、彼女は髪に刺してあった金属製の櫛を引き抜くとクローゼットの戸を開き、その中の人物を引きずり倒す。
「死ね!!」
「や、止めてよ母上!!僕だよ、ジョンだよ!!」
床へと引きずり倒したジョンに、メリッサは櫛を突き刺そうと振り上げる。
自らの母親によってその命を消し去られようとする最中、ジョンは訳も分からずに必死に助けを求めて泣き叫んでいた。
「・・・ジョン?貴方だったの?」
ジョンの眼球を狙って振り下ろされた櫛がその先端をそこへと届かせる寸前に、メリッサは目の前の人物が自らの息子だと何とか気付いていた。
「さっきからそう言ってるじゃないか!王である余に向かって、こんな事・・・幾ら母上でも許せぬ!死刑だ、死刑にしてやる!!」
止まった手に緩んだ拘束、ジョンはそこから抜け出すとまだ放心状態のメリッサに向かって涙目で怒鳴りつけていた。
「っ!ま、待ってジョン!お願いだから―――」
例えそれが子供の癇癪だとしても、それが王の言葉であれば実行力が生まれてくる。
その口から出た死刑という言葉に、メリッサは顔を青くする。
「み、見つけたんだな!お、王様、見つけたんだな!」
「はははっ、こいつはいい!どうです、王様?これで今度の鬼はそっちに・・・って、おや?太后陛下、一体どうなされたので?」
彼女が慌ててジョンへと縋りつこうとしていると、どこか間の抜けた声が部屋の外から響いてくる。
それはジョンの召使の二人、ヌーボとガララのものであった。
「もーーー!!母上のせいだから!余はちゃんと隠れてたのに・・・死刑だ!やっぱり母上なんか死刑にしてやる!!」
ジョンを見つけたと騒いでいる二人の姿に、彼の怒りはかくれんぼを邪魔された事に移っている。
「ご、ごめんなさいねジョン。そんなつもりじゃ・・・そ、そうだわ!彼らとお外で遊んで来たらどう?きっと楽しいわよ?」
「いいの!?」
同じ怒りでも、殺されかけた怒りよりも遊びを邪魔された怒りの方が軽いだろう。
ジョンの怒りがそちらに移ってくれた事に喜ぶメリッサは、彼に新たな遊びを提案する事でその怒りを完全に払拭しようとする。
「えぇ!だからね、さっき話していた事は忘れてちょうだい?」
「さっきの話・・・って、何の話だっけ?」
「ううん、忘れてしまったのならいいの。ほら、遊んでいらっしゃい」
「うん!お前達、行くぞ!!」
すっかり外に遊びに行く話に夢中なジョンは、先ほどメリッサとジークがしていた話の事など頭になかった。
そんな彼の態度に安堵したメリッサは、彼を送り出す。
それに促されたジョンは、二人の召使を連れてこの部屋を飛び出していく。
「ふ、ふふふ・・・この程度の事で、私の野望が邪魔されてなるものですか。あぁ、あの子の警備の手配もしておかないと。まだまだあの子には生きていてもらわねばなりませんからね・・・そう、私の野望のために。ふふふ、はははは、おーっほっほっほ!!」
息子のいなくなった部屋で一人、メリッサは顔を歪めると嗤い声を響かせる。
その表情は決して、息子の身を心配する母親のそれと呼べるものではなかった。




