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7,誰がお色気要員だっ!!

 


 ずうぅぅん。

 

 ものすごい衝撃が私を襲う。


 大きな音を立てて、それが私のすぐ横に、落ちた。


 それはピクリともしなかった。すでに事切れていた。


「ふえぇぇ。死んだかと思ったでござるぅ」

 思わず口をついて出た言葉に、パテメンが笑いだした。

 腰が抜けたのか、私はそのまま床に崩れ落ちた。


「なんやそれ。どこの方言なん? ミミミの出身地やのん?」

 ユンさんが笑いながら手を出しだし、ツッコんでくるのに、涙目で答える。

「知りませんよ! 勝手に口から出てっただけですぅっ!」

 なんて。最後にやってたゲームの侍キャラだな。懐かしいなぁ。

 そういえばゲームつけっぱなしでこっちにきちゃったけど、どうなっているんだろ。もう2年以上も経つし今更過ぎるけど。


 おとうさんとおかあさんに、会いたいなぁ。

 心配は……してないかな。ふたりとも私以上にノンキだし。

 心配してるとしたら、おにいちゃんかな。

 泣いてはいないと思うけど。でも、探してくれてたら、嫌だな。泣いてないといいな。

 結婚したばっかりのお嫁さんにも悪いしね。

 大丈夫かな。香奈枝さん、しっかりしてる人だし。彼女が傍にいてくれるんだから、安心だ。


 …………。


 ダメダメ。家に帰れるかどうかなんて、いくら考えたって今はどうにもならないんだし。

 まずはここで一人で生きていけるようになってからでしょ!

 それからだ。

 それまでは、考えないって決めたんだから。


「どした? やっぱりあの触手の最後の攻撃、受けたんか?」

 心配そうな顔をしたユンさんが近寄ってくる。

 あー。いかん。どうにも戦闘中に他のことに意識を持っていく癖がついてるな。

 敵を倒すことは怖い。

 殺すときは殺されることを考えてしまうから。

 だから、頭の中で、どこかに、戦闘以外のことへ意識を移す癖がある。

 でも、これが命取りになることだってあるかもしれない。

 自分ではなく、パテメンの命に関わる可能性だってあるんだ。そろそろいろんなことに慣れなくちゃね。


「ううん、大丈夫。なんか、倒せちゃったね? ビックリしちゃった」

 へらへらと笑って頭を掻いた。

 これがゲームならLAボーナスいっぱい貰えたんだろうなぁ、とつい考えちゃった。


 私の言葉に、皆の視線が動かなくなった大蛸に注がれた。

 私の水刃によって開けられた大穴……嘘です。最大出力を出したつもりだったけど、ちーっちゃい穴です。糸が通るかどうかって感じの細い穴は、右側にいた大蛸の、口のすぐ上あたりにできていた。


 警戒しながら近づいたスカイさんが、その穴を覗き込んだと思うと、いきなりその穴の周辺に、腰に着けていたハンターナイフをぶっ刺した。

 ごりごりっと切り開いて出てきたもの。それは、私の拳2つ分よりずっと大きな魔石だった。


「うわー。すっご。ウチ、そんなゴツい魔石初めて見たわ」

「わたくしもですわ。実家で家宝とされる魔石よりデッカくて綺麗なのですわ」

「……すご、い。リッ、パ」

 大蛸と同じ暗赤紫色をしたそれはあやしく輝いていた。

 ちょっとグロいと思ったのは、たぶん私だけじゃない、ハズ。


 スカイさんが何かに気がついたのか、私が持っていた魔石カンテラの明かりのすぐ下で、それを照らし確認する。

 割れちゃった屑魔石に魔力を通すと明るくなるって発見した人ってすごいよね。

 お陰で松明とか他の燃料のお世話にならないで済むし、一酸化炭素ガーとか考えなくていいんだよ。すっごい助かる。


「……魔石に、小さい穴が開いてる」

 スカイさんが示したそこには、確かに穴が開いていた。ただし、本当にちっちゃい穴だ。


 私が咄嗟に打ち出した水刃は、どうやら本当に魔石を撃ち抜くことができたらしい。

 いや、それができていなかったら大蛸まだ生きてるけどね?


「おぉ、すっごいやん。ミミミ! お手柄やで~。おそてくる触手と全然ちがう方向に向けてぶっ放しとるから、なにやっとんのやおもたのに。やるやないか」

 ユンさんに、思いっきり背中を叩かれ、祝福された。

「うっす、光栄であります! まごうことなき、まぐれです!」

 敬礼しながら答えてみた。だって、なんかあそこに向かって魔法を撃たなくちゃって考えたのか全然わかんないし。まぐれもいいとこですわ。

「お色気要員の癖に生意気ですの。でも、パンチラ見せてくれたら許して差し上げますのよ?」

 意味わかんねぇよ! そんなキャラだったなんてもう2年も一緒にいるのに、今日はじめて知ったよ。

「……ジー」

 異様な視線を感じて振り向くと、ヨルンさんが、私の後ろにしゃがんでいた。

「……ヨルンさん? 何をなさっているんですか」

「……チラ、待ち?」

 首を傾げる美人さんは眼福ではあるけどさ。なんで疑問形?! というか、いつから轟雷団は女子による女子へのセクハラ団になったの?!


「……ナン、チャッテ。ココ、汚、れてる」

「うそ?! ヤダヤダ。落ちるかな。落とせる汚れかな?!」

 私は焦って自分のお尻のところについているという汚れを確認しようと振り返った。

 ううう。見えないー。

 焦ってジタジタする私のお尻がユンさんの手でポンポンと叩かれる。

「大丈夫や。ちーっと、焼き蛸の焦げが移っただけや。超高級ドラゴン製の軽鎧に、軟体動物ごときが傷跡付けられる訳あらへんやろ」

 けらけらと笑い飛ばされて、つい赤面する。

「ウチらのお色気要員さんは、愛しのSランク冒険者様から贈られたエロ可愛い軽鎧一式にほんのちょーっとでも傷がついたら、ショックで死んでしまいそうですの」

 にま~っとイヤらしい笑いでアリアさんまでそんなことをいうので焦った。

「ちょ……違いますって! ゼン様はそういうんじゃないんですよ! あの御方は至高の尊き存在で」

 至高の憧れの存在を、下賤な存在に貶められるなんて許せない。

 それをどうにか伝えようと私は日夜頑張っているのだけれど、何故かパテメンたちの同意を得られたことはない。

 でも、今日こそは、伝えきってみせる!

 私は握りしめた拳を振り回しつつ、ゼン様がどれだけ偉大で、お優しいかお強くて格好いいかを語り出すことにした。


 ド田舎から空を飛ぶ魔獣に連れ去られている最中に(ってことにしとこうとゼン様と話し合って決めた)、この街の近くの山中に落っこちたらデッカイ魔獣の目の前で、今にもご飯にされそうだったところに颯爽と現れて助けてくれた完璧ヒーロー。

 その後も、どうやって元の村に戻っていいのか分からない私を、ポーターとして雇ってくれて、衣食住の面倒だけでなく、生きていくための手段として冒険者としての基礎も教えてくれた。

 ポーターとして雇ってもらいながら、ゼン様と同じスピードで歩くこともできない私を、急かすことなく罵倒することもなく足元に生える薬草や毒草、ちいさなモンスターの弱点や危険を一つ一つ教えてくれるという形で休憩を取らせてくれたりする心配り。配慮の人。

 ユンさんからスカウトされたと相談したら、お祝いに最高級武具を一式揃えてくれた。

 そうして贈られた言葉は、「いつか俺より金持ちになったら恩返しに来いよー」と「次に会うまで絶対に死なないでいろ」。

 ありとあらゆる庇護を与えながらも、最後まで、何も求められはしなかった。


 そんな強くて優しくて素晴らしいゼン様についてなら、私はきっと丸一日でも話していられる。いや、三日くらいはイケるかもしれない。


「あぁ~。ダメやろ、アリア。ミミミにその名前を出したりしたら、しばらく使いモンにならんくなるやんか」

「……ひゃく万、回、以上、同、じコト、聞かさ、れて、る」

「ミミミは、ゼンさんのFANだからな。仕方がないさ」

 おぉう。さすがスカイさん! 分かってくれるのはあなただけですっ。

「ハイハイ。わたくしが悪うございましたですの。ホンット、恋に恋する乙女ウゼェですわ」

 失礼な!

「私のゼン様への真摯な想いを、恋だなんて貶しめないで下さい! もっとこう、崇高で、純粋で、ピュア…… そうです! 信仰心というのが一番しっくりする……」

 うっとりと、心の中にあるその人の記憶をぎゅっと胸に抱きしめる。

 そうだ、信仰すべき存在なのだ。ゼン様は神様だったのだ。

 最高神ゼン様。

 信者になろう。朝な夕なと祈りを込めて、あの方の活躍とご健勝をお祈りするのだ。


 私たちが、ワイワイと馬鹿な会話をしている間も、スカイさんは黙々と素材回収作業を進めていた。


 さすがです、リーダー!



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