5,Cランク冒険者になりました!(今度は本当です
「防御力UP! 防御力UP! 防御力UP! 防御力UP! 防御力UP!!」
タンクやアタッカーだけでなく、後衛を務めるパテメンにも次々にバフを掛けた。勿論、自分にもね。
ここは、ゼン様に散々連れてこられた、あの多分未踏破ダンジョンだ。
3年ほど前、ヘンドの街のすぐ近くに見つかったこのダンジョンは、実はすでに何度も最終階層にいるダンジョンボスが撃破されている。
そう。そこがおかしい。
通常のダンジョンは、最終階層のダンジョンボスは一度撃破されれば二度とは出ない。そして、ダンジョン内に出る魔獣の数も落ち着く。
しかしこの、通称・多分未踏破ダンジョンは、いくつものパーティが最終階層にいるボスを倒そうとも、まったく魔獣の数は減らなかったし、何度潜っても階層ボスがそこにいるのだ。
なにより、そこにいるダンジョンボスが毎回違うのだ。
一番最初に撃破報告をしてきたパーティがいうには、ミノタウロスだった。
次は、オークキング。その次は、クィーン・アラーニェ。そのまた次は、ジェネラル・ブル。そして、ワーウルフ。
これらのボスが次々と湧いて出てくるが、どの魔獣もダンジョンボスという程は、強くない。Bランクパーティで十分倒せる程度でしかない。
ダンジョン自体もマップ変動がある訳でもなく、20階層しかないので最短コースをタイミングよく巧く通り抜ければ、1日で最終階層までいける。その程度のダンジョンだ。
当初は、実は全く違うルートが存在し、こちらはハズレなのではないかと思われて数多くのパーティにより何度も調査が行われた。
隅々までマッピングチェックが行われたが隠し通路などは一切発見されなかった。
しかし何度最終階層にいるボスを倒そうとも、ダンジョン内の魔獣発言率が下がることもなく、20階層にはボスが出現するということは、このダンジョンは今もって未踏破のまま、ということだ。
だから未だにこのダンジョンには正式名称はない。最初に踏破したパーティに名称を付ける名誉が与えられるからだ。
(ちなみに一度付けられた名前もあるにはあるが、その団の不名誉ともなるので今は使われていない)
しかし、ついにその理由が推測されるに至った。
最終階層のボスは6種類、もしくはそれ以上いる。
6度目の正直とばかりに、5種類すべての階層ボスを倒したパーティが6度目に潜った時、そこにいたのはこれまでとは全く違う次元の強さを持つ魔獣がいたのだ。
地獄の大蛸。Aランク魔獣だ。
10本の触手と強い自己再生能力を持つ、厄介な魔獣である。とても20階層しかないダンジョンのボスにはありえない強さだ。
え? 蛸といったら足は8本だろうって? ここは異世界ですしー。自動チート翻訳機が私にわかりやすい言葉を選んでいるだけっぽいので、所詮、蛸っぽい魔獣ってことでしかないのである。うむ。
もしかしたら、この大蛸を倒した後にまた違うもっと強いボスが出る可能性だってある。しかし、とにかくその全てを倒さねば、踏破したことにはならないのではないかということだ。
ちなみに、その情報を初めてもたらしたパーティはBランクパーティだったため、命からがら逃げだしてきたと報告している。よく逃げられたもんだと思う。
そこで名乗りを上げたのが我が轟雷団だ。
ちなみにこの2年でBランクに上がった。え? 逃げ出したパーティと同レベルじゃないかって?
チッチッチ。あちらはBランク成り立て、こちらはもうちょっとでAになれると噂だってある新進気鋭のパーティである。一緒にされては困るのだ。
まぁなんにせよ、Aランク魔獣と戦うのは二度目である。
地獄の大蛸は、もともと情報が少ない魔獣ではあるんだけど、考え得る限りの備えを整えて対峙することになった。
つまり、とにかくバフが切れないようにだけは気を付けないといけないのだ。
私の役目は、それと回復用の薬を投げつけること。それだけ。
では、なくなった。
「ユンさん、危ない! 水刃」
あれから三年。私は攻撃魔法も手に入れていた。
といっても、手に入れたのはダンジョン内で転んでヒップアタックして倒したスライムからゲットしたショボ攻撃魔法だ。
「スライムが持ってる水魔法って、水鉄砲でしかないと思ってたわ」
私がついに攻撃魔法を手に入れたというのに、パテメンみんなが囃し立てたもんだ。
スライムと対峙した時、ピッて水掛けられる時があって、ただ口の中に含んでる水(もしくは体液?)を吐いてるんだとばかり思われてたんだよね。
それが、私が『スライムを倒して水刃を手に入れました』とギルドに報告した時は、大騒ぎになった。
世界中のスライムが狩りつくされる寸前までいったっぽい。
倒した時の状況とか、いろんな人が何度も何度も聞きに来たし。
まぁ、私以外には未だに誰もゲットできてないみたいですけどね?
それにしても。おかしいよね?
魔法手に入れるのってすっごく難しいって言われてるし、成し遂げた時は感動するものだっていうんだけど。
私、偶然とかなんかゲットできてたとかばっかりだよ?!
まぁね。どんな切っ掛けでゲットしようが関係ないんだけどね。でもなぁ。もっとこう……恰好いい戦闘の成果としてとかさ、あってもよくない?!
まぁ結局、せっかく手に入れた攻撃魔法ではあるんだけど、水刃の攻撃力って正直微妙で。
小さな穴はあけられるけど、切れる訳でもないし、衝撃によるノックバックを期待できる訳でもない。
主力ではなくあくまで牽制とか、誰かが攻撃を受けそうになった時に気を引き付けたりするっていうのメインでしか使ってないけど。んー、ちょっと見栄入ったかも。正直なところそんな程度でしか使えないんだよねー。
穴はあけられるし痛くはあるんだろうけど、殺傷力としてはかなり低いんだな。
今回みたいに、一瞬の怯みが取れたらラッキー。
酷いと無視される程度でしかない。とほほ。さすがスライム産スキルだ。
「ミミミありがと。助かった!」
ウインクひとつ私に送ると、ユンさんが自らの手に属性魔法を付与すると、襲ってきた触手へ殴りつけた。
「金剛刃付与うおぉりゃああああぁあ!!!」
金剛刃を付与されたユンさんの拳は、打撃攻撃でありながら切断を可能とする。
切断面から紫色した粘液みたいなものが飛び散る。
さらに魔法を帯びさせたユンさんの打撃は、すこし位なら離れた場所にあるものまで斬ることができるのだ。すっごい。
ぼとぼとと落ちた触手の先は、地面に落ちた後もうねうねとうねって動き回っていて気持ち悪いことこの上なかった。
「くっ。なんだ、こりゃ。切り落とした先から増殖したり、根本から生えなおしたりするってぇのは遠慮したいとこやねぇ」
ここのダンジョンボスであるAランク魔獣、地獄の大蛸から距離を取り直したユンさんが嫌そうな顔をして呟く。
「やめろ。言葉で最悪を呼び出すのは、やめろ」
リーダーである轟雷のスカイさんが、心の底から嫌そうな顔をしてそれに応えた。
たしかに。ユンさんが言った言葉って、なぜか実現することが多いんだよねぇ、と笑った時だった。
「うぎゃー。馬鹿バカ莫迦ばか! ほんとに動き回っちゃったじゃないですかぁ」
愛らしい鈴を転がすような声がホールに轟いた。
その声が、続いて連続でそれを詠唱する。
「炎の矢! 炎の矢! 炎の矢!!」
炎でできた矢が連続で現れ、大蛸の足を床へと突き刺した。
蛸の焼けるいい匂いがホールに充満する。
「おい、力が抜けるから飯テロやめえや」
「うっさいですわ。こんな気色の悪い生き物は灰になるまで焼き尽くすべきですの! 地獄より解き放て”天国と地獄をつなぐ門”」
いきなり魔術師のアリアさんが最大魔法をぶっ放した。
「うあっっちっ!! こら、ウチらまで巻き込むんやないっ!」
「うっさい、うっさい、うっさいのですわ!! ちゃんと当ててないのですから、感謝なさいませですの」
黙っていればお人形さんに見えるじゃないかと思うような一つ一つのパーツがすべて完璧すぎるラインを描く白皙の面をした愛らしい少女は、口を開くとかなりの暴言少女だった。
でもいや、言葉遣いは上流階級のそれっぽくはある。んー、それを心がけている、ていうのが正しいのかな。
そんなマイナスポイントを差し引いても、ストロベリィブロンドのクルンとした美しい巻き髪に縁取られた愛らしい顔は一見の価値があると思う。精巧なビスクドールのような合法ロリ少女だ。ちなみに、私より……おや、誰か来たようだ。
「うる、さい」
シュバッとヨルンさんが弓を弾くと、そこから一斉に複数の矢が飛び出していく。
複数速射。ヨルンさんの得意技で、複数の矢が、それぞれ狙った場所を打ち抜く必中の技だ。すごい。
何属性なのかは「ひ、みつ」とのことだったから分かんないけど、魔法をエンチャントされたその矢は、刺さったら最後抜けることはないらしい。
実際に私が目撃した限りでは本当に抜け落ちるところを見たことはない。
清楚美人なヨルンさんの使う技は、その見た目とは裏腹にかなりエゲツナイのだ。
今も、大蛸の目を何本もの矢が射貫いていた。
「キシャアァァァァァアァァァ!」
激おこになった大蛸が、その大きな体躯をくねらせ触手でなんとか引き抜こうとしているがまったく抜けようとしないそれに苛ついたのか空間がびりびり震えるような大きな声で叫んだ。
──蛸って、キシャアって鳴くんだなぁ。
パンダはぱんぱん鳴くのって唄があった気がする、なあんて阿呆なことを考えていたから、反応が遅れちゃったんだよ。
「ぎゃあっ」
さっきユンさんが切り落とした足先が、私の左足に巻き付いた。
ぎゃー。生温かいのやめぇえぇえぇっ。
ぬるぬる這い登ってくるのは、もっとらめぇぇぇ! お嫁に行けなくなっちゃうぅぅぅ。
とりあえず掴んでみたけど、そのグニっとした感触に手を放してしまった。
うぎゃあぁぁぁぁ。
「だ、だれか。誰か取ってくださいいぃぃい」
先日、ついにCランクに上がったプライドをかなぐり捨てて、私は助けを求めて泣き叫んだ。
「つか、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいぃぃぃ。怖いのもだけど、蛸の吸盤痛すぎなのよっ」
私が怖気っている間にも、ぐにぐにした触手が私の足を、らせん状に這い登ってくる。
やだやだやだやだ。
触手プレイがこんなに痛くて、気持ち悪くて、痛いとか。誰得なのよ。
あ、痛いのがメインだから。とても重要なことなので二回書きましたっ!!
大体ね、ここにはギャラリーなんていないんだからね?!
美少女の足に纏わりつく大蛸の足とか。こんなキモ絵面がサービスになると思ったら大間違いなんだから。
懸命に首を横に振りつつ、足から振りほどこうとして足掻いているウチに、思わず転倒してしまう。うぎゃー。
「わたくしの炎魔法で焼き落としたら、ミミミの足もこんがり丸焼きにしちゃうかもですわよ?」
「わ、たしも。ミミミと一緒に、串刺しになら、できる」
「あー。ウチもミミミのぱつぱつの足ごと切り落としちゃいそうだねぇ」
パニックを起こす寸前の私に、パテメンから次々となんとも無情な回答が返されてきて泣きそうだ。
むしろ途中になにややらデヴだとディスられてすらいた気がする。
みんな、ヒドい。
こうなったら同じ怪我するなら自分でやった方がいいかもしれない。
水刃で穴だらけにすればいつかは剥がれる、よね?
その時だった。
「細やかな雷」
その小さく生まれた雷は、瞬く間に私の左足へと届いて、そこで蠢いていた触手を貫いた。
麻痺状態になったそれが、床に落ちる。そこに「炎の矢」アリアさんの魔法が襲い掛かる。
あっという間に焼きダコの出来上がりだ。
「お前ら、油断し過ぎだ。いい加減にボスへ集中しろ」
「リーダーぁぁ。ありがとうごじゃいますぅ」
「その言葉はこの戦いに勝ってから、もう一回言ってくれ」
にやりと不敵に笑って、スカイさんが手にした大剣を掲げた。
「雷属性付与」
スカイが、パリパリと音を立てながら光る大剣を、大蛸に向けて放った。
「ギッシャアァアァァアァ!!!」
黒コゲだらけだった大蛸が、スカイさんの剣を受けて真っ二つになって床へ崩れ落ちた。




