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3,捨てる神あれば拾う神あり?(捨てられてないもん

 


「くそっ。そりゃ攻撃力UP(バトルクライ)を覚えられなかった私が悪いんだよ! そうだよ、防御力なんて要らない人だって知ってるわいっ。くそっ、くそっ。糞だな、ほんと、私の役立たずぅぅぅ」

 お腹空き過ぎたし、なんか安宿でひとりご飯食べるのも切なくて、店の前にテーブル席のあるちょっとお高めの屋台に来てしまった。つっても所詮は屋台だからやっぱりさっきまでゼン様が飲んでいたお店の10分の1位の予算でお腹いっぱい食べられるけど。

「はっはーだ。豪勢にいっちゃうよ! 麺に肉入れて貰っちゃった。あと魚の揚げ物とー、なんか肉団子とー、ベリーのクレープまで買っちゃったぜぃ。ヒャッハー!」

 デザートは後でにすれば良かったかとも思わなくもないけれど、食べきれないほど買って並べた料理は茶色いおばあちゃんのご飯的なものばっかなのでテーブルに彩りでて華やかになったのが嬉しい。

 ついでに慣れないお酒も頼んでみた。なんか思った以上に苦くて舐めることしかできないけど。

 でもいいのだ。今夜という特別な日には必要なのだ。


 だって。今夜は、初めてバフを覚えたお祝いで、Dランクになれたお祝いんだもん!


 あぁ。でも……

 覚えたバフが防御力UPなんかじゃなくて、攻撃力UPでさえあったなら。

 本当は、こうお願いするつもりだった。


『私を、ゼン様のパーティに入れてください』


 ソロのSランク冒険者相手に今日Dランクになったばかりの初心者が何言ってるんだって自分でも思っているけど、それでも入れて貰えるなら土下座でも何でもするつもりだった。靴を舐めろと言われたらソッコーで実行する勢いで。


「あー。なんで攻撃力UP(バトルクライ)覚えられないんだろ」

 まぁね、レアスキルではあるんだって。使える魔獣はいっぱいいるけど、覚えられることは滅多にないらしい。

 たまーに、それ持ってるスライムと遭遇したりした時は、ゼン様が私にトドメを刺させてくれたりする。

 でも、なんのスキルもゲットできたことはなかった。

 今日、アイアン・ウッドを引っこ抜くまでは。


「でもさ! 防御力UP(ハードガード)は持ってる人がもっと少ない激レアだってギルドのお姉さん言ってたのにぃ!!」

 そんな防御力UP(ハードガード)を覚えられたからこそのDランク昇格なのだから。


「はぁ。パーティ入りたい……」

 ソロ冒険者なんて怖すぎる。

 ううん、この異世界でひとりで暮らしていくのが怖い。


 屋台だって、最初は釣り銭を誤魔化された。

 ちゃんとしたお店に見えたとこでも、おのぼりさん丸出しで傷薬を買いに行って、代金をぼられそうになった。(こっちはゼン様が取り返してくれた。おまけも貰ってきてくれたのである意味ラッキーだった)

 なにより宿で、ゼン様に二部屋とって貰って違う階の部屋に案内された夜に、襲われそうになった。

 知らない人がいきなり部屋に入ってきてぎゃーぎゃー泣いた。

 窓は開いてたけど冒険者で溢れる街は夜中でも結構うるさくて、『この街じゃ、夜中に女が泣きわめいても誰も気にしやしねえよ』と言われて絶望した。

 階まで違うゼン様には、私の声は届かないだろう。

 きっと今頃は寝ている。

 誰も助けてくれない、そう思ったのに。


「ふざけんな。俺の連れにフザケタ事をして、生きていられると思うなよ?」

 そう言って、宿の扉を蹴り壊して押し入ってきたゼン様は、男の頭を横から蹴り飛ばしてくれた。

 男をボッコボコにしたゼン様は、その場に駆け付けた宿の主人(ゼン様の顔を知らなくてSランク冒険者だってことも知らなかったんだって)も同じくボッコボコにした後、いろんなとこに報告もして忙しそうだった。

 私を襲ってきた男はAランク冒険者だったんだけど最低ランクEからやり直しさせられるそうだ。というか、まだ多分、強制労働中だと思う。

 実は奴は常習者で、過去にも新人冒険者が襲われて金目のものも奪われた挙句に売られていったとか余罪がいっぱい出てきたらしい。

 宿もグルで、私が案内された部屋はそういう目的の為に用意されていた部屋だった。角部屋のそこの隣は絶対に空室にされていたらしい。ブルブル。用意周到がすぎる。

「報奨金すくねえ」

 ギルドを通して支払われた街の治安協力に対する報奨を受け取って、ゼン様は不満を口にした。

 なんでも悪いことをした人を捕まえて街の治安に協力するとお金が貰えるようになっているんだって。これは国が違ってもどこも同じシステムらしいよ。

 警察組織っぽい物はあっても捜査機関じゃないみたい。

 その街に住んでる人が頑張ってね、ということらしいんだけど報奨金が少なすぎて危険を顧みず行動に移す人は少ないっぽい。ダメじゃん。

 でも、その報奨金が目当てであろうとなんであろうと。

 ──助けてくれた。

 それだけが、私の中の、事実だった。


 そうだ。ゼン様は優しい。これは間違いない。でも、その優しさだって有限じゃん。

 今の私は、異世界から落っこちてきたばっかりだからと、手を差し伸べて貰えているけど。それだっていつまでもって訳じゃないだろう。というかあの運命の日からもう半年だ。


 手を離されるのは、一年後? 一か月後?

 ……それとも、明日?

 じんわりと嫌な汗が手に滲んできて、慌てて手を拭いた。


「パーティ入りたいなら、ウチとこ入らん?」

 それは、酔っぱらいのミミミにとって、まるで天からの声のように聞こえた。


 俯けていた顔を上げると、そこには面白そうに目を眇めたきれいな女性が立っていた。

「ギルドで何度かすれ違ってるんやけど、わからへんかもしれんから自己紹介しとくわ。Cランクパーティ轟雷団所属のユンや。Cランク冒険者で、盾役タンクだけど魔法と剣も使える。まぁ基本殴っちゃうんやけどなぁ」

 おぉ。万能タイプだ。すごい。

 でも、たしかに筋肉質ではあるもののいわゆるタンク役にしては女性らしい細身の姿に、疑問が浮かぶ。大盾持って歩くのも大変なんじゃなかろうか。

「えっと。人違いじゃないですかね? 私、今日Dランクに上がったばっかりのビギナーなんですが」

 轟雷団なら知ってる。最近売り出し中の4人パーティだ。女の子ばっかり所属してて、リーダーさんはBランク冒険者の人、だったハズ。たぶん。


 あ。そうそう。なんかね、不思議なんだけど異世界こっちでも日本語通じるんだよ。

 文字もそのままだった。

 でも、なーんか変な時があるから、転移チートみたいなのが発動してて自動変換して脳内に流れているのかもしれない。たまーに、会話中に齟齬みたいのが生じる時があるんだよねー。何度か言い直していると、正しい言葉になるみたいで意味が通じる。

 相手には違う言葉で聞こえてるのかもって思ってる。書いてる文字も同じだ。

 

「面白いこと言うねえ? Dランク冒険者がビギナーな訳ないやろ」

 けらけらと笑い飛ばされて、困惑する。なんでDランクだって知ってるんだろ。

 今日の夕方、集めてきた薬草とか蜘蛛の糸という初心者でも楽々お小遣い稼ぎクエストを納品して帰ってきた時に、昇格して貰ったばっかなのに。


「納品窓口の隣にウチ等いたん気が付いてなかったんやね? 隣から『おめでとうございます! 激レアスキル防御力UP(ハードガード)取得できるなんて。すごいですね!』なぁんて、ピリちゃんのおっきな祝福の声が聞こえて注目されん訳ないやろ」

 あの時すぐそばにいたのか。興奮してたから周り見えてなかったわ。

「ホント、スゴいわ。激レアスキルゲットも、ランク昇格もおめっとさん!」  

 今日、一番言ってもらいたかった言葉。

 言って欲しかった相手じゃなかったけど。

 それでも、欲しかった言葉を、今、貰えて嬉しくて。嬉しすぎて泣けてきた。


「あ、ありがと……ござま、す」

「なんや、なんで泣くん? 可愛いなぁ、あんた。なぁ、やっぱウチのパーティ入ろうや?」


 な? と微笑みかけられて、私は断れなかった。



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