21,しつこい男は嫌われるって知らないんですか? ふむ。ぶっ飛ばすか(私以外の誰かが
「そういえば、今日はどのような件で冒険者ギルドなどへ足を運ばれたのですか?」
お上品で丁寧な言葉遣い。新鮮だわー。
こっちの世界ではほとんと耳にしないもん。自動翻訳機能が私の日常会話にレベルを合わせてくれているのかと思うほど、みんなタメ語というか粗雑な言葉遣いする人だらけだったからなんか新鮮だわー。
あ、ひとりだけいたか。……みんな元気にいしてるかなぁ。
そっか。いっそのこと、轟雷団の皆と合流しちゃうって手もアリか?
「あの?」
うぉっと。しまった。また自分の思考に陥ってた。
うわー、その上目遣いやばすぎる。深みのあるグレイの大きな瞳に光がいっぱい差してきらきらしてる。すごい。少女漫画のヒロインみたいだ。
「あーっと、すみません。実は今日は、冒険者ギルドへ、パーティメンバーの斡旋をお願いしようかと思ってて」
間近に迫る胸の谷間の圧力に、同性ながらどきまぎしてしまう。
私の、コルセットで強引に作ったそれとは明らかに違うまろみが眩しい。
やわらかそうだし、なにその肌のハリと艶。毛穴も産毛もまったく見えないんだけど、どうなってるん? 永久脱毛とかこっちにはあるんだろうか。お高いのかしら。
こちとら日本人ですからね。こっちにきてコルセットの力で初めて自分に谷間ができましたが、なにか?
「パテメンを、募集されるのですか?」
「えぇ、そうなんですよ。今朝、急にリーダーが言い出して」
突然すぎて困っちゃってます、とへらりと会話を続けたところで、聞き覚えのある声が掛けられた。
「あれ、ミミミさん。珍しい。今日はゼンさんと一緒ではないんですね」
青紫色の髪に、きりりとした銀縁眼鏡がとても映えるスレンダーさんは、ギルドの冒険者窓口係のおねえさまこと、ミスティさんだ。モチロンかなりの美人さんだ。私は好き。
「それが、今朝になって突然、『新しいパテメンを募集してこい』って言われちゃって。なのに自分は先約が~とか言って、どこかに出掛けちゃうし。ホント秘密主義で大変ですよー」
たはは、と頭を掻きながらミスティさんに告げ口……じゃない、説明をした。
うん、いま私は今日ここに来た目的を説明しただけですよ。やだな。ははは。
「あら。ミミミさんをお迎えして、ゼンさんもようやく冒険者にとってのパーティメンバーの重要性に気が付いたのね。良かったわ」
明らかに表情が明るくなり、ホッとした様子のミスティさんに首を傾げる。
もしかしてソロのままでいるお師匠様を、ずっと気に掛けていてくれたのだろうか。
「意外に思う? ギルドで受付なんてやってるとね、色々見ることになるのよ。いくら本人が強くても……ううん、その人が強ければ強いほど、ソロでいる冒険者は心配になるものなのよ」
眉を寄せるようにして言い難そうにそながらも、口元だけは笑顔の形をとるという、とっても複雑な表情をしてミスティさんが教えてくれた。
確かに。強ければ強いほど、その冒険者が受ける依頼は難度が高いものとなる。
ふたりなら助け合って何とかできることでも、ひとりではお手上げになることだってあるはずだ。
依頼の受付を担当したギルドの窓口にいるお姉さんが、帰ってこないかもって思う不安な気持ちは分かりすぎるほど分かる気がした。
私も、お師匠様が怪我をしたっていう誤報がもとで、パテメンにしてくれって懇願したんだしね。
「それで? もしかしてそちらの美人な方が、新しいパテメンなのかしら?」
クィッと眼鏡の縁を持ち上げるようにして私の横に立っていたその人を上から下まで確認していた。
おっと。如何いかん。
「違いますっ。こちらは、この建物の入口で絡まれていたところを助けてくれた親切な方です」
ん? そういえば、ミスティさんはこの冒険者さんのことを知らないみたい?
このギルドの中でもどちらかというとベテランといえる窓口係のミスティさんが知らない冒険者なんて、王都にいるだろうか。
「初めまして。私はエルルゥと申します。こちらで冒険者登録をさせて戴こうとしたところで入口での騒動に行き当たり、綺麗な女性をお助けしたつもりだったのですが。貴女様も冒険者の方だったのですね。余計な手出しをしてしまったようです。失礼しました」
視線を移したところで、片足を後ろに引いて左手に持った長い魔法使いの杖を胸に抱きよせ反対側の手で長いスカートの裾を摘まんで腰を落とすという、お貴族さまですか? と聞いてみたくなるような美しい礼をされて、思わず半歩後ろに下がった。
周囲にも、どよめきが走る。
荒くれ者だらけの冒険者ギルドには、こんな正式で美しい所作の礼を取る女性なんかいないのだ。フツーは。
というか、まだ冒険者は登録してなかったんだ。ビギナーさんの割りに、魔法の使い方とか堂に入ってたなぁ。コントロールもバツグンだった。
「いえいえ。助けて下さってありがとうございました! 私はミミミといいます。支援魔法担当であまり腕っぷしに覚えはないもんで、助かりました」
王都内で無暗に水刃使う訳にもいかないしね。大男の装備を壊しただけで済めばいいけど、貫通しちゃって、その先にいただけの一般の方々にまで被害を及ぼすようなことになったら目も当てられないもん。
最初はギルド内に駆け込めばいいと思ってたけど、あの大男ってばついてきちゃいそうだったし。そうしたらギルドに迷惑かけちゃうところだったから助けに入って貰ってとってもありがたい。
一応、お師匠様とお揃いナイフの為に訓練はしたから、誇るほどではないけどAランク冒険者として最低限は使えるようにはなってるし、勝てそうな気もちょっとはしたけど、でも一番弟子として派手に負ける訳にはいかないのだ。
直接戦わないで済んで本当に良かったー。
「支援魔法担当……ですか。ということは、幾種類か持たれている?」
それまでとはちょっと違う視線に気をよくする。
ふふん。美人さんに尊敬の念で見つめられるのは気分がイイネ!
「ふふふ。自慢ですけど、防御力UPとぉ、あと……」
気持ちよく自慢を続けようとしたのに。
なんと吃驚。私の肩に、大きくて強い力の腕が掛かった。
「おい。俺のパテメンに大怪我を負わせたのは、おめぇか?」
いやん☆ 更なる試練が私を襲ってきた。
私の肩を掴んでいるオッサンの後ろには、見覚えのある大男。なに自分より身体の小さいオッサンの後ろに隠れてるんだ。コラ。
まぁね、パーティのリーダーなんだろうけどさ。でもよくやるよねぇ。ギルド本部の建物内まで追ってくるとかさ。恥ずかしくないのかな。
「俺が聞いてんだよ、お嬢ちゃん」
ぐいっと、肩に掛けられた手が引かれた力を螺旋の方向に逃がして掴まれていた手を外して逃れる。
いなした力の分だけ、リーダー(仮)の身体が前方へと泳いで、そのまま足を縺れさせて派手に床に転がった。えーっと?
「もう、許さねぇ。ぶっ殺してやるっ」




