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2,冒険者始めました!(嘘です。荷物持ち係です

 


「ゼン様、聞いてください! ついに支援魔法バフを手に入れましたよ!!」


 この世界には魔法がある。それは初日に十分すぎるほど見せてもらった。

 しかし、漫画とかアニメでよくあるような魔法書を読んで勉強すればその魔法が使えるようになる訳でも、ラノベみたいにイメージ力で何でもできちゃう訳でもない。


 この世界に生まれたからにはすべての命が魔力を持っている。

 ただし、それだけでは魔法を使うことはできない。

 使うには、それぞれの魔法が発動するのに必要な設計図? みたいなモノがあって、それを手に入れないと魔法は使えないのだそうだ。


 その設計図はどこでどうやって手に入れるかというと、その魔法を使える魔獣を倒すことで覚えられるんだって。

 つまり、だ。この世界では、基本的にランダム取得だ。


 説明を聞いた時にはガッカリした。

 魔法取得といえば、魔法書を読むとか魔法使いに弟子入りするとか、ファンタジーな要素があると思ってわくわくしたのに。しょんぼりだ。

 そんな全身全霊でガッカリした私に向かって、ゼン様は言った。

「なぁ。モンスターと対峙するのは怖いよな」

「そうですね。ついこの間も、ホーン・ラビットに殺されるところでしたからね」

 遠目にして、一目で心を持っていかれた、フワフワの長毛可愛い子ちゃん。

 うっすらピンクの毛皮で、なんとなくお揃い気分だったのに。

 視線が合ったその瞬間、甘いバニラジェラートみたいな頭の角を前にして、いきなり突進してきたのだ。

 あれはビビったね。

 ゼン様が瞬殺してくれたけど。本気で死ぬって思ったもん。

「そんな恐ろしいモンスターと対峙して、命のやり取りをすることでしか、魔法は習得することは出来ないんだ。そこにロマンはないというのか?」

「すみません。ロマンたっぷりでした!」

 もう全力で謝罪したね。この世界の理を作った神に。

 ロマンを、魔法をありがとうございます! って。


 ついでにいうと、魔法取得は完全にランダムな訳ではないらしい。

 最初に覚えた魔法と同じ系統のものの方が習得しやすい傾向にあるんだって。

 ゼン様が、炎の矢(ファイヤアロー)爆裂(ビックボム)を使えるように、最初に火属性の魔法を覚えると、次も火属性のものを覚えやすいみたい。必ずって話ではないみたいだけどね。

 その他にも、その人個人が持って生まれた固有魔法スキルと呼ばれるものもあるそうだ。いいよねー。生まれつき魔法使えるのって、なんか選ばれし者って感じでさ。

 しかし多くは魔法を使える魔獣を倒すとその魔獣が取得している魔法の内のどれかが取得できる事があるらしい。でもそんな特殊なスキル持ちの人なんか滅多にいないんだそうだ。

 そんな、なんとも不確かな魔法体系だったりする。


 ここでポイントになるのは、取得できることがあるらしい、という点である。

 そう、魔法を持っている魔獣を倒せば必ずゲット☆ という訳じゃないんだな、これが。

 レベルも関係ない。ラストアタックが獲れたかも関係ない。

 その魔獣を倒す時に参戦していた者の中から誰かがランダムで取得できる。

 ……ちょっとちがうか。できることがある、というだけだ。誰ひとり何も覚えられない事もザラにある。

 ランダム取得だから、アタッカーがスロウを覚えたり、神官職が爆裂魔法を得ることも少なくない。

 ただし、発動する威力にはその人のレベルとか魔力量とか修練度が関係することになるんだけど。


 そして、この世界には魔法があると教えてもらってから、ずっと私が欲しかった魔法。それは……



「なんだ? 攻撃力UP(バトルクライ)を手に入れたのか?」

「……防御力UP(ハードガード)です」

「はっ。糞スキルだな。糞いらねぇ」

 ぐぬぬ。

 あのスピードがあれば余程のことがなければ敵の攻撃なんて当たんないですもんね。防御力UP(ハードガード)なんかいらないですよねぇ。


「それにしても。魔法を覚えたということは、戦闘したのか? 昨日今日はいつものように薬草摘みに行ってただけだろう?」

 昨日からゼン様は依頼で指名を受けていていなかった。だからいつものように森の入り口付近で薬草摘みに励んでいたのだけれど。


「へっへっへー。それがですね、なんか見たことない不思議な色をしたツヤツヤした草が生えていたので思わず引っこ抜いて帰ったらですね。ギルドの買取窓口で、『アイアン・ウッドの若木……いえ、若芽?!』って言われて」

 それで、言われるままに冒険者窓口で魔法を確認したら、防御力UP(ハードガード)が使えるようになっていたのだ。

 そういえば、あれを摘み取ったというか土から引き抜いた時、ビリビリビリッって震えた気がしたんだよね、草が。気のせいかなってスルーしちゃったんだけど。

「いや~。はじめて魔法を取得したんで、全然気が付かなかったです。あれって取得すると頭の中で何かが響いて『知っている』ってなるんですってね! 全然気が付かなかったです」

 えへへと頭を掻きながら申告すると、ゼン様が片手でコメカミを抑えていた。うっ。

 そうそう。私が引き抜いたのは若芽だったから土から引っこ抜いただけで倒せちゃったけど、ちゃんと成長したアイアン・ウッドは単体でもAクラスに分類されるとても怖い魔獣なのだそうだ。複数いるとSに分類されるとか。うへぇ。

 防御力UP(ハードガード)を唱えまくり自らの強度と硬度を高めて葉や種を飛ばして遠距離攻撃してくる。それを搔い潜って近距離まで近づいても今度は根で絡めて拘束されたところを、枝で叩かれて撲殺されるのだという。聞いているだけでちびりそうになる怖さだ。

 ギルドのお姉さんからは「そんな魔獣が森の入り口で成長したら大変なことになるところだったわ。ありがとう」と感謝までされた。

 ぐふふ。私、草引っこ抜いただけだけどね!

「そうか。ラッキーだったな。しかし『薬草の採取では根から引き抜くとそこで終わりになるから葉の部分だけを採取すること』『若すぎる草は葉を摘んだだけで枯れてしまうことがあるから手を出さないこと』教えておいたこの2つは覚えているか?」

 ぎく。そろそろとゼン様に顔を向けると、なにやらとても難しい顔をしていた。

「葉を摘もうとしたら、根ごと抜けちゃっただけです。でも若すぎるのは……スミマセン、すっごい特別な薬草かと思って浮かれてました」

 しょんぼり。ゼン様の教えを忘れたわけじゃないけど……うん、忘れてた。

「今回は良かったが、毒がある草もある。見たことがない物に安易に手を出すな」

「はぁい。気を付けますぅ」

 ごめんなさいです、と頭を下げた。

 しょぼぼぼん。浮かれてた気持ちがしぼんで項垂れる。

 褒めてほしかったのに、お叱りを受けてしまった。私が悪いんだけど。


 それにしても。どうせなら、攻撃力UP(バトルクライ)が欲しかった。せめて速度UP(クイックプラス)か。

 でもでも! 苦節5カ月、初めて魔法、それも支援魔法バフをおぼえた感慨を、もうっとこう、共有して欲しいというかぶっちゃけ褒めて一緒に喜んで欲しいんですが。


「で、でも、初めての魔法取得ですよ!」

 褒めてください、と続けようとしたところをバッサリと切られた。

「異世界からきてもやっぱり獣人は魔法のセンスないんだな。やっぱり、お前には向いてない。冒険者は諦めろ」

 そう言い放つと、その人はグイッと手に持ったジョッキの中身を飲み干した。

「そんなぁ」

 がっくりと床に崩れ落ちる。悲しいぃぃ。

 うおっ。

 悲嘆にくれて床に座り込んでいた私のキュートなお尻が、誰かに蹴とばされた。

 いきおい、私の愛らしい鼻がきちゃない床にフレンチ・キスをする。痛い。物理的にも、精神的にもだ。

 あ。ここでいうフレンチ・キスは日本の誤訳の方じゃなくてぶちゅっとぐりっと濃厚な奴のことね。ぺっぺっ。


「おい。酒場で蹲ってんじゃねえぞ。邪魔だ、どけ」

「すみません、すみません。今すぐどきます」

 気分はまるで黒いぺったんこ虫でコソコソと床を這いずり逃げようとしたところを首根っこをグイっと掴みあげられた。

 ぐえ、苦しい。



「なんだお前。ピンクの兎獣人だと? 初めて見たな。わかった! あれだろ? エロいことが上手なんだろ、お前」

 この世界では、草食系獣人は奴隷にされていることがほとんどだったりする。でも別に性奴隷って訳じゃないと思うんだけど。

 フツーは茶色い毛皮だったり白・黒・茶色のブチ模様がほとんどで、私みたいなピンク色なんて、たとえ兎以外の種族の獣人さんとだって会ったことはない。

 んで、こっちでもエロいイメージはピンクみたいなんだよね。不思議。

 万国共通というか万異世界共通って事なのか。

 でもそんなトンデモ不思議三段論法で勝手に性奴隷扱い(しかも上級者!)されても困るんだよね。

 彼氏いない歴=年齢の喪女をなめるなよ! 好きなゲームは格ゲーとRPGときたもんだ。

 こちとら男友達はいてもエロい雰囲気にすらなったことはねえんだよ!


 つか、破れるから! あっちから持ち込めた唯一の一張羅なのにぃ。いやーん。はーなーしーてぇぇぇ。


 一応、私がこっちに来てからずーっと獣人扱いされているのにはモチロン理由がある。


 モチロン、私があっちの世界から着てきた、あの部屋着である。


 宇佐見ウサミ三実ミミ。一応あと1か月は10代、のはず。最初の一か月くらいは頭が働かないままだったので、日数数え忘れた。てへ。


『我が家の可愛いお姫様へ贈る人生初のプレゼントはオンリーワンの世界にたったひとつだけの名前☆』とかやらかしてくれたパパンとママンによって名づけられた、確かにオンリーワンの名前のお陰で、これまでずっとウサギ扱いされ続けてきた。

 名前を縮めて宇佐三実ウサミミとか、名字の最後を後ろに持ってきて見三実ミミミとか。まぁモチロン三実って名前で呼ばれることもある。まぁ、なんかテキトーに呼ばれてきたってことだよ。私もテキトーに返事するしね。


 去年のお誕生日に友人達から貰ったピンクのウサギ着ぐるみパジャマは、コメカミから垂れ下がっている紐をひっぱるとウサ耳がカシャカシャと下を向くようになっているのが可愛くてお気に入りの逸品。軽くて暖かくて着心地も最の高。あ。ちなみにまん丸尻尾だけ白いのも可愛いと思う。

 あんまり可愛いから、お揃いになるような肉球付きモコモコルームシューズを見つけた時に即買いした。こっちは尻尾と同じ触り心地で色も白い。セットで着ると、お家でくつろぐにはぴったり最高なんだなぁ。


 それを、そのまま着て来ちゃったんだな、この異世界へ。


 ポケットの中にオープンフィンガーの手袋(但しこれは百均。色はピンクだけどね)が入ってたお陰でこっちでも完璧コーディネートが完成したね。

 

「オイ、聞いてんのか?!」

 私をさらに高く持ち上げ、おっさんが酒臭い息を顔に吹きかた。

 ぐえっ。苦しいぃぃ。爪先しか着かない高さだし、酒臭い+歯磨いてないオッサンの吐く臭い息の破壊力よ。

 吐き気(こうか)はバツグンだ。

 ……なんて。現実逃避しても意味はない。知ってる判ってる。

 どうしようかなぁ。お財布の中身をすべて差し出したら解放しては貰えるかもしれないけれど、暮らしていけなくなるからどっちにしろ身を売らねばならなくなる。

 どっちにしろ、ツンデル。

 思わずいろいろ諦めそうになった時、その声が聞こえた。


「うるさい。それは(一応)俺の(荷物持ち(ポーター))だ」

「んだぁ、こら。俺とやるの ……ひぇっ。神速のゼン」


 びょんっ、ってオッサンの巨体が飛び上がった。その拍子にオッサンが私を掴みあげていた手を慌てて放した。

「ぐえっ」お陰で、今度は汚ちゃない床に尻もちをついた。


 くそう。覚えておけよ。この着ぐるみパジャマ、表面だけならともかくそうそう本格的には洗えないんだからな? 生乾きの臭いとか軽く死ねるんだぞ? 

 オッサンを睨みつけつつ、心の中では悪態を吐きながら、慌ててゼン様の後ろに隠れた。


 ハンターランクは燦然と輝くSランク、神速のゼン。

 それが私があの日助けてもらった人の名前だった。

 そうして、何にもせずに取って貰った宿の部屋の隅っこで膝を抱えて1カ月過ごした。

 いつまでもそんなことしてても家にも帰れないし、落っこちてきたところに居合わせただけの善意の人のお世話になり続けるのも恥ずかしくなってきたので、この世界で働く方法について相談した。


 そうして、指名依頼がない時のフツーの日に、ゼン様のポーターとして後ろについていくことになったんだけど。まぁ、難しい指名依頼のない日にだけなんだけどね。

 連れて行ってくれる時は、普段なら相手すらしない雑魚敵を倒すのを横で見ていてくれたり助言してくれたりとずっと面倒を見てくれた。

 ぶっきらぼうだし言葉が強いから怖がられることも多いけど。でも。


 本当は、優しい人。


 Sランクの冒険者がこんな田舎街に長逗留を続ける訳がない。

 依頼されていたクエストは私が落ちてきたあの日に終わったんだし、王都に戻るなり、次の高難度依頼を受けにいくのがフツーで当たり前のことだ。

 なのに、この街からいける、未踏破とはいえあまり美味しいものが出る訳でもないダンジョンをチマチマ攻略している。それも浅い階層でお茶を濁すような毎日を半年も過ごしてのは、全部私のためだって知ってる。さすがに気が付く。

 いつまでもSランクのゼン様のお荷物でいる訳にはいかない。

 お情けで貰っている私の仕事は荷物持ちだけど。


「え、その……すんませんっ。まさかゼンさんの物だったとは思いませんで。さすが、Sランカー様は従えている奴隷もレアなんすね」


 涙目になっている私と、嫌そうな顔をしているゼン様のご尊顔を何往復もさせながら、オッサンはすごすごとテーブルから去っていった。

 もうその言葉は届かないんじゃないかなーと思うほどの距離が開いてたけど、ゼン様が嫌そうに呟いた。

「物じゃないし、奴隷でもない」

 ですねー。単に、雇用しているだけ。使用人ですー。荷物持ちでしかないですわー。

 身も蓋もないゼン様からの説明のお言葉に、おもわずスンとした顔になってしまう。

 知ってる。知ってたけどー。くーっ。


「はぁ。興覚めだ。帰って寝る」

 そんなぁ。私はまだご飯食べてない……いや、いいか。なんかその辺の屋台で買って宿で食べよう。それが一番安上がりだし、薬草集めることしかできないビギナー冒険者の私にはお似合いだ。

 テーブルにちょっと多めのチップと代金を置いて、酒場の視線を一身に集めているのにもまったく気にすることも振り返ることなく店から出ていく。


 その後ろ姿を、ちょっと恨めしい気分で見ながら私も店を後にした。



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