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14,念願のオソロ……あんまりお揃いじゃなくなっちゃったけど、ゲットだぜ!

 


「……ねぇ、ブラン。これ、あれと違くないです?」

 2年ちょっと掛けて貯めた目標金額白金貨1枚を手に握りしめ、意気込んでお店にきたものの、「あいよ」と手渡されたそれを見て、私のテンションと眉が下がった。


 ちなみに。白金貨は大金貨10枚の価値がある。大金貨は金貨10枚、金貨は銀貨10枚、銀貨は銅貨10枚である。この下に銅貨の半分の価値しかない小銅貨というものもあるけど、これは今はあんまり使われてない。子供の御駄賃としてくらいなものだ。

 銅貨1枚で大体10円くらいの価値があると思えばいい感じ。

 つまりは私が貯めた白金貨1枚は大体1000万円ということになる。

 まぁね、お金の価値自体があっちと違うし、冒険者って儲かるからね。えへへ。

 轟雷団はお金に関しては平等だったからっていうのもある。新入りで支援しかしてない私の取り分も、リーダーのスカイさんも同額だった。すごい。

 それでも、うん。私がんばった。頑張ったんだよ、私。


 それと。武具屋のオジサン改めブランである。

 お師匠様の一番弟子としてパーティに加入させて貰った異世界人だと自己紹介して、ようやくお名前を教えて貰えた。

 やっぱりこれまでは一見さんモドキのままだったんだなー。

 ようやく名前を教えて貰って、「さんとか付けんじゃねえぞ」と凄まれて、ようやく私も、この街の本当の利用者になれたっぽい。


 ナイフ自体は同じものに見えるものの、お師匠様の使う魔法と相性のよい紅い魔石とそれを取り巻くように黒い石が複雑な文様を描いて埋め込まれていたそれが、水をそのまま固めたような透き通るような美しい魔石を、さらに透明というか、色のない石で取り囲んでいるそれに入れ替わっていた。

 つまり、完全に別物だ。


「そんなこと言っても、おめぇ、攻撃魔法は水系統しか持ってねぇだろうが。紅い魔石の恩恵なんぞうけらんねえだろ」


 それはそうなんですけどー。


 でもでもでもさ。私が欲しかったのは、お師匠様とお揃い、兄弟剣ともいえる一品な訳で。


「それに。あれだけの力を持った魔石はそうそうないんだぞ。それをおめぇの自己満足の為のコレクションになんかさせておけるか」

 モッタイねえ、と言われてしまえば、しぶしぶとだけれど納得するしかない。

 どうやら最初から私に売る時には、別の魔石に入れ替える心づもりだった模様。

 なんか騙された感がヒドイ。

 納得できない気持ちでナイフを見つめる私に、お師匠様が苦笑いしながら声を掛けてくれた。


「すまん。俺もナイフを持つことにしたんだ。そちらに使わせて貰った」

 ぽふん、と頭に大きな手が乗せられる。

「お師匠様! お師匠様が必要とされなら当然です! そうですよね。魔石も喜びます」

「オイ。俺とゼンの扱いが違いすぎねえか? 2年も売らずに取り置きしておいてやったのは俺だぞ」

 ブランが何かブツブツ言ってるけど、キーニーシーナーイッ!

 だって、お師匠様の安全が一番だ。この世の最優先重要事項で間違いないのである。


「代わりのその水色の魔石は俺が冒険で得たものを使っている。それで許してくれ」

「ユルシタ!」

 完全無罪! パーフェクトノットギルティ!


「なんかムカつくんだが。まぁ今更おめぇ以外にそれを売る相手もいねえし、仕方がねえから売ってやる。約束だしな」

「わーい♪ ブラン様、ありがとー」

 思わず抱き着く。ここまできてやっぱり売れないなんて言われたら死ぬるとこだった。

 ブランは、「ふん」と鼻息荒く私をあしらうともう一つ箱を出した。


「んで、こっちがおめぇさんの依頼の品だ。確認しろ」

 お師匠様が、差し出されたその細長い箱を手に取った。

 大きさは40センチくらいだろうか。ブランから受け取ったそれを、お師匠様は中を確認することもせず、何故か私に差し出してきた。

 おもわず受け取ってしまったものの、どうすればいいのかわからずオロオロする。

「開けてみろ」

 お師匠様にそう促されるまま開けてみることにした。


「きれい」

 白く輝くひと振りの枝がそこには納められていた。

 艶々に磨き上げられた緩やかな曲線を描く枝の根本っていうの? それとも頭? ちょっと太くなっている方に、ナイフに使われていたものと同じ水色の魔石が嵌め込まれている。しかし、如何にも加工しました、という感じじゃなくて、まるで最初からこの魔石はこの木の枝の中に存在しているようにみえた。

 すっごい綺麗だけど簪には大きすぎる。

 菜箸にしても一本しかないし、たとえ二本揃っていたとしても、こんなに美しい菜箸なんか調理に使うことはできないだろう。

 これは一体?

「魔法使い用の杖だ。お前はいま何も使っていないようだが、触媒となるものがあるとそれだけで魔法は威力が変わる。持っておけ」

 お師匠様に言われて、手の中で不思議なほどしっくりと収まる、艶々とした白い枝に指を滑らせた。

 手に持つと、微かに心が落ち着く柔らかな香りが立ち昇った。


 この2年間、ナイフ代1000万円を貯めることを優先してきたから、それ以外には一切余計なものを持ちたいとも思わずにきた。

 普段着を持っていない理由も同じだ。

 本当は宿代ももっと安上がりにしたいなと思ったこともあったんだけど、冒険者家業っていつ部屋に帰れるのかもよく分かんないし、安い部屋を借りて帰ってきたら他の人が間借り(しかも大家公認!)してた、とか怖すぎるので勇気がでなかった。

 宿に関しては、あのお師匠様の活躍のお陰もあってギルド公認の宿ではそういった不法行為に関してはないと安心できるようになってたしね。

 寝てたら知らん人がカギ開けて入ってきたという自体だけは遠慮したい。体験者だけに。

 私物はバッグひとつに纏められる分のみ。

 クエストに行く時は、宿を引き払い、それをギルドに預けて出る。

 んで、帰ってきたらバッグを受け取って宿で寝泊まりする。それが一番安上がりで安全だった。

 初期投資も要らないしね。うん。


「ありがとうございます。この代金は、分割になっちゃいますけど、自分で支払わせて貰いますね」

 ドラゴン装備だけでも貰いすぎなのだ。

 しかもパーティに加入までさせて貰った。そんな私が、またこれほどの杖を受け取っていいハズがない。


「……俺はまぁどっちの払いでもいいけどよ。ミミミ、おめぇ、この代金払えんのか?」

 ナイフ代を貯めるのに2年掛かった。そこまでは掛からないと思うけど、大丈夫だと思う。だって木製だし。

「はい。ナイフ代の2年よりは早く支払い終えられるとは思います。ガンバリマス」

「一応、伝えとくとよ。ごにょごにょごにょ」

 ?!!!

「え、うそ。なんで金属製でブランが鍛造したナイフより、お高いんですか!?」

 聞き間違いかと思うそれは、ナイフの10倍だった。


 いやん、20年ローン決定☆


 私の節約生活は、これからも続くことになったようだ。

 むしろ永遠に近い。




「馬鹿か。俺が勝手に発注したものの代金を俺が支払うのは当たり前だろう。勝手に決めるな」

 お師匠様がそう言ってくれたけど、反論する。

「私はまだギルドからきちんと認定受けてないけど、それでもAランク冒険者です。いくらお師匠様であっても、自分の武器を自分で誂えることができないような存在ではありません」

 20年間の分割払いケテーイなのに偉そうに言ってみた。

 でも、あれもこれもお師匠様だよりイクナイ。


 しばらくにらみ合っていた私たちだったが、結局、お師匠様が引いてくれた。


「なら、俺が採ってきた石だけは俺から贈らせてくれ」

 落としどころとしてはこの辺かな、と思ってので頷くことにした。

「では、魔石代は、出世払いでお願いします!」

 お師匠様並みに稼げるようになったら、色をつけてお支払いするということでヨロシクですよ!


「期待してる」

 お師匠様も笑ってくれたので、安心した。


 また頑張ってお金貯めなくちゃ。

 今回は家賃要らないからもうちょっと頑張れるハズだしね!



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