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彼女の為だけに存在する力:アウロ視点

「姉が猛獣に囲まれた草食動物みたいになってる」


そう言ってキララさんが指さしたのは、ウララさんとシグラさんの二人とそれを取り囲む冒険者達だった。


この街の空気はウララさんには合わないだろうなあと思っていたが、やはり合わなかったようだ。

ウララさんはシグラさんの腕に必死にしがみ付き、シグラさんは嬉しそうな顔でウララさんにじゃれ付き……。

そんないちゃつく二人をこの街の住人たちは気に食わなかったようで、何人もの冒険者たちが因縁をつけに行っては、シグラさんの結界に弾かれていた。しかも弾かれる事によって、更に冒険者たちの怒りの炎に油を注いでいるし。


「後で姉に見せてやろう」

そんな事を言いながら、キララさんはスマホでぱしゃりと姉夫婦を撮った。


「よし、ロナ。さっさと見物を終えて車に戻るぞ。こんなヤンキー共がいる街に長居したら、また姉が倒れるからな」

『そうだねー。お姉ちゃんはすぐに倒れるから』

キララさんとロナは念話の魔道具を介する事によって会話が成立するようになった。

それにしても、子供達に弱すぎると思われている事は、ウララさんには黙ってこう。本人は保護者として頑張っているみたいだから、何だか可哀想だ。


『ククルアさん、大丈夫ですか?』

『あ……はい、これくらいなら。でも、良い気配の街ではないですね』

『冒険者には破落戸ごろつきが多いですからねえ。ロナ、ククルアさんもこの街は苦手みたいだから、キララさんの言う通り早めに切り上げるよ』

『はーい』


私達は早足で街の雑貨屋を訪れた。


特にこれと言って欲しい物は無いが、こうして見て回るのがキララさんは楽しいのだそうだ。偶に良く分からないものを買ってウララさんに見せては、困らせている。


「なあなあ、ロナ。これは何だ?」

『これはねー、幸運のキャンディーなの』

キララさんが手に取ったのは、犬の形の飴が入った瓶だった。あのキャンディーはマルコシアスさんの郷が作っているもので、高揚感を与える成分が微量に入っている。ちょっとやる気が出ると言う事で、徹夜作業の友と言われている。

「これ食べたら、勉強する時にやる気でるかな?」

『どうだろう?ロナも食べたことないからわかんない』

「じゃあ買ってみるか。なあ、これで足りるか?」

キララさんはポケットから小袋を出し、その袋から数枚の銅片を出して私に見せた。保養地でウララさんから貰った小遣いを全て使いきらなかったようだ。

「銅片5枚で足りますよ」

「そうか。じゃあちょっと会計に行ってくる」

「私も行きますよ。子供だとちょろまかされますから」



■■■



雑貨屋から出た私達は元来た道を急いで行こうとしたが、その前に声を掛けられた。

『よー、チビども。何か良いもんあったか?』

ナギさんだ。山賊の件についての処理が終わった様だ。

『ナギお兄ちゃん、マレインおじさんは?』

『マレインさんならルラン様の迎えに行ったよ』


キララさんは先程買ったキャンディーの瓶をリュックサックから取り出すと、「ほれ」と一粒ナギさんに渡した。続けてロナやククルアさんや私にもくれた。


『幸運のキャンディーだな。俺もこれには世話になったもんだよ。俺は庶民だけど、ルラン様の乳母兄弟だから一緒に勉強する機会が多くてさあ』

キャンディーを口に放り込むと、彼はポケットを探って何かの種をキララさんの掌に置いた。

『お礼にこれやるよ。人工魔種っていって、魔力を籠めたら花が咲くんだぜ』

『魔種なら知ってるよ。少し前にロナ達それで遊んだもん』

『へー』

ロナが自分はオレンジの花だったと言うと、ナギさんが首を傾げた。ああ、彼には言っていなかったか。

『この子はドワーフなんですよ。私の妻がドワーフだったもので』

『ああ、だから魔法が使えるんですね』

俺も魔法使ってみたいんですよねー、とナギさんは笑う。

『ナギお兄ちゃんは魔法使えないんだね。キララちゃんと同じだ』

『人間だったら普通は使えないもんなんだぜ。ルラン様も使えないだろ?キララの姉ちゃんもその旦那も』

ううん、とロナは首を振った。

『シグラお兄ちゃんは使えるよ。結界張ってくれてるの、お兄ちゃんだもん』

『へえ?あの人、精霊付きだったのか。結界はてっきりアウロ殿が張っているのかと』

高品質な結界なので、何なら仲間に勧誘しようかとマレインさんが言っていた、とナギさんが言うので、慌てて首を振った。

『とんでもないですよ。私はしがないエルフです。結界は張れますが、シグラさんのものには遠く及びません』

『お兄ちゃん凄いもんね。あっという間に広場いっぱいに檻の結界を張っちゃった事あるんだよ』

ビメさんが来た時の事だろう。

流石に人間の身体では負荷が掛かりすぎて鼻血が出ていたが、それでもあの程度で済むあたりが、やはりドラゴンなのだと思う。並の人間なら脳みそか心臓が爆発するだろう。


『お。噂をすれば、あそこにいるのは御両人だな』


相変わらず破落戸に囲まれているようだ。ウララさんは私達に気が付いたようで、必死の形相で手を振ってきた。……思わず苦笑してしまう。


「凄い事になってるな、姉ー。サバンナで猛獣に囲まれてる一般市民みたいで面白いけど」

「面白がってないで、早くこっちに来なさいキララ!ロナちゃんやククルア君も!」


キララさんやロナにも破落戸の手が伸びるが、それは常時私達に張られているシグラさんの害意を弾く結界に弾かれた。

冒険者達に睨まれつつも私達は難なく合流をし、そこにナギさんが飄々とやって来た。


『シグラ殿、これ握って貰えますか?』

そう言ってポケットから取り出したのは、また魔種だった。彼は何粒持っているんだろう。

シグラさんは言われるがままそれを握り、青白い桔梗の花を咲かせた。

『あれ?精霊付きじゃなくて、勇者の方でしたか』

精霊付きはエルフ同様に傍に精霊がいる限り全ての属性の魔法が使えるので、虹色の花を咲かせる。対して自立魔法の勇者は、使える魔法が限られているので、虹色の花は咲かない。

シグラさんの正体を知らない者からすれば、人間のシグラさんは勇者ということになるだろう。


今までウララさんやシグラさんを囲んでいた冒険者たちは、シグラさんが花を咲かせたのを見て、さーっと潮が引くように立ち去って行った。

気位が高く傲慢な者が多い聖騎士は嫌われる傾向にあるが、勇者は市民に人気がある。そんな勇者にケンカを売る馬鹿はいないということだ。


一方ナギさんは『まあ、精霊付きでも勇者でもどちらでも良いけど』と呟くと、『俺達の仲間になって下さいませんか、シグラ殿』と勧誘をした。


『シグラ殿の力があれば、南の混乱もすぐに鎮圧出来ると思うんです』

『断る』

『ええー……、ルラン様とお知り合いなんですよね?ルラン様が心配じゃないんですか?』


話に付き合うつもりはないのか、シグラさんはふいっとナギさんから顔を背けると、咲かせた花をウララさんに渡した。

相変わらず甘ったるい匂いの花だ。


『ナギさん、シグラさんは奥様のウララさん以外に興味が無い方なんです。今回我々が貴方がたに同行するのは、ウララさんが手助けをしたいと言われたからなんです』

『では、ウララ殿に言えば……』

ナギさんがウララさんに目を向けたので、慌てて『お待ちください』と声を掛けた。

『シグラさんは他人がウララさんに取り入ったり、彼女を利用しようとするのをとても嫌います』

聖騎士のレオナ、そしてマルコシアス。2人とも危うく殺されそうになっていた。


『悪い事は言いません。あまりあのご夫婦に近寄るのは止めておいた方がよろしいですよ。それはルランさんが良くご存知の筈です』


ナギさんはまだ納得していない様子だったが『わかりました』と引き下がってくれた。



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