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同行者に難ありの予感:ナギ視点

『行軍がこんなに楽だとは思いませんでしたよ。ね、マレインさん』

『油断をしないように。行軍中だぞ』

マレインさんは下で寝る方が良いと言ったので、ロフトは俺が使わせてもらっている。

ああ、マットレスが良い感じの弾力だ。流石侯爵家、俺の家のベッドよりも寝心地が良い。

飯も美味かったし、遊び相手もいる。


『女性がいましたが、あの人がルラン様の憧れの君なんでしょうね』

『軽口を。あの御婦人には連れ添いがいたではないか。ルラン様はゴーアン家のご子息なんだ、下衆の勘繰りは止めるんだ』

『いやあ、お母上がニホン公爵の出ですし。あの女性はニホン公爵家の血筋に偶に現れる容姿に似てましたから、ああいうのがタイプなのかなって』

『止めないか。明日も早いんだ、さっさと寝なさい』

早いと言っても、この快適な馬車に乗って移動するだけだ。ルラン様との打ち合わせも今の所もうする事は無いしな。


『それにしても、この馬車を牽引する荷馬車、早いですよね』

『……』

『馬の休憩も無しにずっと走り続けたんですよ?気になって馬を見に行ったのに、結界が張られてて近づけないし。どの品種の馬を使ってるのかってルラン様に訊いても教えてくれないし』

『寝る気が無いなら、外で見張りでもしたらどうだ』


下の間接照明がふっと消された。


あーあ。快適な行軍だが唯一の問題は、同室がこの頭の固いマレインさんってところだな。

ルラン様なら乳兄弟だし、同年代だから俺と話が合うんだけどなあ。

そのルラン様はこの馬車を牽引している荷馬車の方で寝ている。別にこっちで寝ても十分スペースはあるのに……やはりあの憧れの君、ウララ殿の傍にいたいのだろうな。


ルラン様はあの顔だし、親しみやすい性格だし、何よりも爵位持ちになるのはほぼ確定の人だ。既婚者だろうが落ちない人はいないだろうと思っていたんだが、いやあ世界は広い。


夕食の席でウララ殿はちょいちょい妹達の世話は焼いていたが、それ以外はずっと旦那の事を見ていた。その旦那に至っては終始ウララ殿の事を見ていたが。

新婚なんだろうな、どちらも互いが好きで好きで堪らない感じだった。


しかし旦那……シグラ殿はどういった人物なのだろう。


ルラン様は彼の事を敬っている様子だったが、侯爵家のご子息が敬う人物なんて、そうそう居ないぞ。

外国語を話していたから、外国の要人なのかもしれないな。


目が冴えてきたな。


『ちょっと見張りしてきまーす』


小声でそう言い、天井のハッチを開ける。このロフト部分から馬車の上に登れるのはかなり便利だと思う。というより秘密基地感がしてワクワクする。この馬車の内装を考えた人物は子供か、それともかなり悪戯心のある人だと思う。


ハッチを通って馬車の屋根へと出る。

この馬車は乗合馬車を改造した物のようで、本来なら此処には座席があって乗客が乗っている場所だ。

しかしこれには座席は無く、代わりに俺達の荷物を詰めたコンテナが乗っていた。

そのコンテナの脇でごろんと横になる。


ここは森の中だが、木の高さがそこまで高くないので、夜空が見えた。……膜越しだがな。


『一晩中、このでかさの檻の結界を張るなんて、どんな魔力を持ってんだよ』


檻の結界は中に居る俺達は出られないという難点があるが、その代わりに外からのあらゆるものに対して守ってくれる。だから見張りなんて必要ない。

まあ結界が破られればそれで終わりなんだけど、慎重なマレインさんが大人しく眠るくらいには頑丈な結界なのだろう。俺は魔法学はからっきしだから、よくわからないけど。


『俺にも魔法が使えたらなあ』


ルラン様の弟君であるテラン様は精霊付きで、何度か魔法を見せてもらった事があった。

魔石が無くても火や水、風が出せるのはやはり便利だし、何より楽しそうだ。

そう言えば、テラン様はどこの教会の聖騎士になるおつもりだろう?

ルラン様が代わりに行った任務では精霊オリアスの教会の聖騎士とチームを組んだから、てっきり精霊オリアス教会の聖騎士になるおつもりだと思っていたんだが……。

テラン様は最近になって急に精霊ブネの教会と連絡を取りたがっていた。


精霊ブネは郷のエルフに死者の魂を視て対話する能力を授けると言われている。


だからか、教会の信者の大半が大切な人を亡くした人間らしい。厳かというか、そもそもブネが眠りについているせいもあってか、静かな教会というイメージしかない。

ブネがドラゴンなので、偶に空気を読まない勇者や冒険者が荒らしに行くみたいだが、郷のエルフや教会の聖騎士、或いは寝起きで機嫌の悪いブネに蹴散らされるのがオチと聞く。

まあ自業自得だな。俺も休暇中に気持ちよく寝てる時に叩き起こされたら、ぶちぎれる自信があるし。


テラン様は穏やかな人だから、こう言う静かなところが好きなのかもなあ。俺は嫌だけど。

あ、でもブネはいつも寝ているんだから、我が侭も言わないだろうし世話が面倒じゃなくて良いかもな。


『死者の魂か……。俺、今回も生きて帰れるかなあ』


ガチャン、という音がしたので、上体を起こす。荷馬車から誰かが降りてきたようだ。


『あれ?ルラン様。どうなさったんです?』

手を上げて話しかけると、ルラン様も応えてくれた。

『シグラ様に狼の餌の時間だと言われてな』

『狼ですか?』

何処にいるんだ?と見回すと、ルラン様の視線は馬車の後方部に向けられた。ああ、あの荷物置き場と言う所か。

『大丈夫なんですか?危ないですよ、俺が行きます』

『ああ、いや。給餌はシグラ様がされるらしい。俺達はただの厄介払いだよ』

『俺達?』

訊ねると、ルラン様は俺に背中を見せる。ルラン様は眠っているククルア少年をおぶっていた。

そしてルラン様に続き、エルフの男・アウロ殿も降りてくる。

何だ何だ?何事だ?

『シグラさんが、男は退去だと仰いましてね』

欠伸をするアウロ殿の後から、シグラ殿が降りてきた。


『貴様ら、私がいない間に眠るウララの傍に近づいたら消すからな』


『わかっていますよ。我々はここで待っているので、ナベリウスさんにご飯お願いしますね。シグラさんにしか出来ないんですから』

ひらひらと手を振るアウロ殿をシグラ殿は一瞥し、馬車の後ろへと向かった。


『どういう事ですか、ルラン様。俺、ちょっと意味が解らなくて』

『ああ、それは……』

ルラン様から事情を聞いたところ……


餌をやる為に自分は車から降りるが、そうすると野郎どもがいる室内に自分の妻を置いて行くことになる。

それは許容できない。

しかし妻を連れて行くには狼は危険だ。

じゃあ、野郎どもを外に出せばいいじゃないか、ということだそうだ。


『それ、本気で言っていますか?』

『大真面目だよ。ナギも奥様にはあまり近寄らないようにな。シグラ様が怒るから』

相当拗らせてるな。団体行動にあるまじき我が侭だ。


それから5分もしないうちにシグラ殿は戻って来た。

これくらいの短時間なら、男を締め出さなくても大丈夫だろうに。


……とんでもなく面倒くさい奴だな、この人。


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