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ルランの帰還

馬車の改装が終わり、居住空間が超豪華仕様になっていたのを見て、シグラとアウロに付き添ってもらって慌ててゴーアン侯爵に謝りに行った時の事。


別に謝罪は不要だと侯爵にも夫人にも言われたが、申し訳なさが半端ない。

そんな私にゴーアン侯爵は「それよりも、」と話しかけてきた。


「侯爵さんが、そろそろルランさんが戻ってくると仰っていますよ、ウララさん」

「本当ですか?」

錬金術師からどんな答えをもらってきたんだろう。

侯爵が言うには、現在ルランはゴーアンラにある侯爵本邸にいるそうだ。そこからフラウまで馬車で4日だという。


「どうやら王宮で1つの任務が与えられたと」

「任務ですか?」

「……群雄割拠地近くの治安維持、だそうです」


群雄割拠地。多くの権力者が入り乱れて土地を奪い合っている場所ってことかな。簡単に言えば、戦国時代の日本のような場所だろう。


「現在、群雄割拠地と接しているフィルマ王国の土地が多民族に襲撃を受けているそうです。それを平定しろということだろうと、侯爵さんが仰ってます」

「危険な任務なのでは?」

日本でも自衛官や医者、ジャーナリストが紛争地へ行ったりするが、生死と隣り合わせだと聞く。

「かなり危険だと思いますが、恐らくルランさんはそこで功績を上げて爵位を受けるおつもりなのでしょう」

「あ……、なるほど」

フィルマ王国は長子相続なので、ルランの兄が侯爵家を継げば、ルランは貴族ではなくなる。それを回避する為か。


「ゴーアン家に一度寄ったのは、その任務の準備をする為だそうです。準備を整えた後にこのフラウに戻り、それからすぐに任務地へ行かれるとのことです」

「……」


目の前の侯爵夫妻は、彼らの内心まではわからないが、見る限りでは平然としている。

ゾッとした。

そう言えばジョージも公爵家の嫡男でありながら、危険なドラゴン討伐に向かっていたっけ。

「……厳しい世界なんですね」

「ノブレス・オブリージュというものでしょうね」


侯爵の部屋を後にし、その廊下を歩きながらシグラとアウロとこれからの事を相談する。

「私の目的は錬金術師との面会でした。それはルランさんが叶えてくれました」

「ええ。それで、ルランさんが戻って来たら、ウララさんはどうなさるんですか?」

「……そうですね」

錬金術師のこと、そしてフラウで匿ってくれている事。ルランには沢山の恩があり、私はその恩を返したい。

しかし、キララ達を危険な紛争地に連れて行く事は出来ない。

「その群雄割拠地はどの辺にあるか……距離とかアウロさんは知っていますか?」

「恐らく、南の辺境伯爵領ではないかと。距離など正しくは知りませんが、おそらくこのゴーアン領からは1カ月以上はかかるでしょう。それに、ルランさん一人で動く任務ではないので、大所帯となれば、それなりに遅くなるでしょうし」


そうか、ルラン一人で動くわけではないんだ。


「私は、途中まで送って行ってあげようと思ったんです。そして、私達は安全な区域ギリギリに滞在し、ルランさんへの支援が出来たらと思って。大所帯になるなら送って行くんじゃなくて、それに付き従う形になるかもしれませんが」


シグラとアウロが顔を見合わせる。

2人は私達を危険な場所に行かせたがらないだろうから、落としどころを考えているのだろう。


やがてシグラが「うらら」と話し始めた。

「るらんは、うららを、きけんなばしょに、つれていきたく、ないと、おもうよ?」

「だから、私達は安全な区域に……」

「ウララさん。私は行った事ありませんが、群雄割拠地が近い南の地は難民が多く、治安が悪い場所だと想像がつきます。きっとルランさんは、今回のように我々には此処で待っていてほしいと思うでしょう」

「いつまでもゴーアン家に甘えてお世話になるわけにもいきませんよ。……私だってキララ達を連れて危ない所には行きたくありませんから、本当に安全な区域までの同行です。少しでも力になれればと思っただけなので」

正直な話、これ以上この屋敷に居ろと言われるなら、お屋敷のメイドとして雇って欲しいくらいには後ろめたさを感じている。

「……うーん。なるほど、そうですか。では、そのようにルランさんに伝えてみましょうか」

アウロが仕方ないなという感じで言うと、シグラも頷いてくれた。



■■■



そして4日後―――――


ルランは5人の騎士を引き連れてフラウへと戻って来た。


彼は両親であるゴーアン侯爵夫妻に挨拶をする前に此方に顔を見せてくれた。


「しゃおしゃお」

ふわっと笑うと、胸に手を当てて一礼する。


早速ルランから錬金術師との話を聞かせてもらったのだが……


「20歳の小学四年生回避ならずか」

「どうしよう。深刻な病気になったからってことで、オンライン学習とか認めてくれたりするかな。そもそもお父さんやお母さんに何て言えばいいの。成長が早まりましたって言ったら納得してくれるかな」

「さあな。でも姉だって人間以外と結婚してるだろ。何て説明するんだ」

「私の方は理解されなくても、既に成人しているんだし、勝手にさせてもらうよ。どんな形になるかはわからないけど、シグラが地球に来るなら、私が養うし」


やはり問題はキララだろう。


「まあ、どうせ10年は向こうには帰れないんだから、その間に名案が浮かぶかもしれないな」

「クールすぎる……」

10年後どうなるかはわからないが、いざとなったら、シグラとキララまとめて私が養おう。


「しゃおお」

私達の会話が一段落着いた事を見計らって、ルランが口を開いた。

それは先だってゴーアン侯爵から聞いていた『任務で南へと行く』と言う事だった。


アウロは私達で話し合って決めていた事をルランに言い、それに対してルランは驚いたように首を振った。やはり反対なのだろう。

「危ないから、気持ちだけで結構ですと」

「途中までですから。私達も移動をするつもりなので、丁度良いと思いましてと伝えてもらえますか?」

ルランは少し考えた後、シグラの方を見る。それに対してシグラは一言「しゃお」とだけ言いった。ルランは眉を八の字にはしていたが、控えめな笑みを浮かべてぺこりと頭を下げた。

「わかりました、よろしくお願いします、と仰っています」


それから少し話した後、ルランは騎士達に呼ばれ、屋敷の方へ行ってしまった。侯爵に挨拶に行ったのだろう。


「さて、今日で此処ともお別れだね」

「どれくらいで目的地には着く感じだ?」

「パルちゃんに訊いたら、直線距離だと大体900キロ程なんだけど、ゴーアン侯爵に訊いたらおよそ1500キロ程あるらしいの」

「随分と違うな」

迂回路や蛇行した道など当たり前にあるから、その辺は仕方ないだろう。直線距離で進むには、空を飛んで行くしかない。

だからと言ってシグラに連れて行ってもらうつもりはないけど。

争いが起きているような混乱した場所でドラゴン騒動が起きたら、止まる物も止まらないだろうし。


「馬では一月半ほどかかるらしいよ。山道も沢山あるけど、それ以上に他貴族家の領に入る時の関所でのやりとりや、野宿ばかりは出来ないから街に入らないといけないでしょ?その時に門番に身分証を見せたりとか時間が掛かるんだってさ」

貴族は優遇されているので、身分提示で手間取る事はないが、代わりに貴族として街に入るにはその街の有力者に挨拶をする決まりがあると言っていたのを思い出す。


「ちなみに、私らの車だったらどれだけの時間で行くんだ?」

「そうだね。馬車を牽引してるし、40キロの速度で進むとして……一日9時間進むなら4、5日くらいだろうね。そこに道や天気の状態、私の疲労度や関所で掛かる時間を考えれば、10日もあれば余裕で行けるんじゃないかな?」

まあ、ざっくりとした計算だけど。


ルランが騎士に呼ばれて屋敷に行く前に、少しだけ彼と行軍について話したけど、彼が連れてきた5人の騎士は、ゴーアン家が保有する騎士隊の部隊長格の人間だそうだ。5人のうち3人は予定通り兵士たちを連れて馬で行軍するが、残りの2人はルランと共に先行して私達が車で途中まで送る事となった。

彼らがあの馬車の最初の使用者達になるだろう。


ちなみに馬車だが、半分を居住空間とし、襖のような引き戸で区切って残りの半分を荷物置き場にしている。その荷物置き場には、ナベリウスを閉じ込めた結界も詰め込んでいる。


ルランと同行すると決めた時から準備は始めていたので、既に着替えやリネン類、食料などの物資は馬車に積んでいるので、いつでも出発可能な状態だ。


バスコンを見上げていると、シグラが「うらら」と話しかけてきた。


「ぜったいに、しぐらのそばから、はなれちゃ、だめだよ?」

「大丈夫だよ、安全な所までしか行かないから」

「おす、いっぱい、いる」


あ、そっちか。


ルランと共に先行する2人はどちらも男性である。


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― 新着の感想 ―
[一言]  メイドとして雇って欲しいって、言葉も文字も分からないのにどうやって働く気なのか。  覚えようともしていないし、第一シグラが離れないでしょ( o´ェ`o) 「最低でも10年異世界で生活しな…
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