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筆頭王宮錬金術師リッジ・リッジ視点

ドラゴンの祖先はそれこそ、小さなトカゲのようなものだった。


そんな小さきモノではあったが、擬態という特殊能力があり、次々と自分よりも強い種族と交配していき、進化してきた。

ドラゴンとは色々な魔獣の遺伝子を持つ生き物である。

つまり、ドラゴンの血液による治癒力については、多種多様な魔獣の血を調べるところから始めるべきではないだろうか。


はあ、と溜息を吐きながら、そんな仮説を紙に書いていく。


本当はドラゴンの血そのものを研究したい。

数週間前にユーケー公爵の子息が勇者を伴ってドラゴン討伐の為に子爵領キーグへと向かったと聞いたが、あれはどうなったのだろう。

もしもドラゴンの討伐に成功したら、血液だけでも譲ってもらえないか交渉してみよう。

研究費程度の金だと駄目だと言われるかな。言われそうだなあ。だって凄く高いもんなあ、ドラゴンの血。

うちの研究室の予算をもう少し上げてもらえれば良いんだが、最近はこれといって実績を残せていないから無理だろうなあ。


王家も貴族も精霊教会も目先の利益ばかりを追って、俺達の研究を蔑ろにしている。


『ドラゴンの血液がどれだけあるか知らないが、大きい種類の成体ならば60万リットルはあるだろう!少しくらい分けてくれても良いじゃないかあああ!!』


机を叩くと、ガサリと紙の崩れる音がし、ドサドサドサと俺の上に書類が雪崩れてくる。

『もうやだ……また部屋が散らかった……』

面倒な事になった。うんざりしていると『師匠ー』というのんびりとした声が聞こえてきた。


『ノーク卿が来てますよー』

『ノーク卿?』

参議にそんな爵位を持った人が居たような気がする。

『俺に何か用か?』

『面会の約束は既に取り付けていると仰ってましたけど』

『えー……?』

そんな約束したっけ?

まあ良いや。


『スズラ君、これ片付けといて』

『こういうのは自分でしとかないと、分らなくなっちゃいますよ、師匠』

『適当で良いから、その辺に積んどいてくれ』


立ち上がると、眩暈がした。久しぶりに椅子から立ったからなあ。

『スズラ君、俺臭くない?大丈夫?お貴族様に怒られない?』

『消臭剤頭から掛けときます?それとも今から風呂に行ってきたらどうですか』



■■■



『……お待たせして、申し訳ないです。筆頭王宮錬金術師リッジ・ラザー・サイルです』

息も絶え絶えに客間へ行くと、キラキラした男が2人座っていた。ノーク卿ってどっちだっけ。

『師匠、右の方がノーク伯爵のセラン・ゴーアンラ・ゴーアン様で、左の方がゴーアン侯爵のご子息でいらっしゃるルラン・フラウ・ゴーアン様です』

スズラが慌てたように耳打ちをした。

『セラン・ゴーアンラ・ゴーアンだ』

『ルラン・フラウ・ゴーアンです』

同じ家名なので、親戚だろう。貴族の事はよくわからん。


『先程倒れられたと聞いたが、平気なのか?』

眼鏡をした男、セランが表情も変えずに訊いてくる。

久しぶりに風呂に入ったせいで、湯疲れして倒れたなんて馬鹿正直に言ったら殺されないだろうか。

ここは無難に答えておこう。

『よくある事です。お気になさらず』

『そうか』

セランはそこまで俺に興味があるわけではないようで、特に追及はしてこなかった。

はー……、お貴族様に嘘つくの怖い。俺も一代男爵とは言え、一応貴族だけど。


『早速本題だが。手紙にも書いたのだが、ドラゴンの血について尋ねたい』

『ど、ドラゴンの血ですか!それはどのような事を』

ドラゴンの血と聞いただけで心臓がきゅんっとする。最早恋だな。

『それは弟に訊いてくれ』

ああ、弟だったのか。ただの親戚だと思った。

兄の方はこげ茶の髪に青い目で、弟の方は赤茶の髪にくすんだ金色の目。兄弟にしてはまるで色が違うからな。貴族特有の複雑な家庭事情だろうか。あまり突っ込んで訊いたら怒られそうだから放っておこう。


『貴殿はドラゴンの血の研究に関して第一人者だと聞きました。間違いはありませんか?』

『……さて。確かに半世紀はドラゴン研究に費やしましたが……そういった評価は他人がつける物ですので、自分ではわかりません』

ルランは『そうですか』と頷いた。


『では、お訊ねします。ドラゴンの血には不老の効果はありますか?』

『お答えしましょう。恐らく効果はあります。ただし、証明するにはサンプルが少なすぎて、仮説の段階です』

『では、成長を止めるという効果はありますか?』


成長を止める?

そんな事は知らない。知らないが、

『恐らくその効果はありません』

『何故です?』

『そもそもドラゴンの血が何故不老不死だと言われるか。それは治癒力の為です。老化については色々複雑な話になるので省きますが、ドラゴンの血の治癒力をもって、体の中の全ての細胞が常に損傷もなく機能低下もない綺麗な状態で有り続けられる為、老化しない身体を手に入れられるのです。しかし、成長は老化ではありません』

『そうですか……』

ルランが何やら深刻そうな顔をしている。場を和ませないといけないかな?よし、軽口をたたいてみるか。

『まあ、全ては仮定の話ですよ。サンプルが少なすぎて、解明できていない部分が多いのです。手っ取り早いのは、ドラゴンに直接訊ければよろしいのですが』


場がシン……とした。

何だ?この空気は。このジョーク、面白くなかったか?


『ドラゴンに訊いても知らないと言われそうですが……』

とルランは苦笑し、こほんと咳払いを一つして言葉を続けた。

『話は変わりますが、仮に人間の老いを……そうですね、10年ほど止めるには、どの程度の血が必要だと思いますか?』


えらく具体的な数字だな。誰かに飲ませたいのか?年上の女か?

そんな下らん使い方をせずに、俺にくれたら人類の為に活用してやれるのに。

『一概には言えません。ドラゴンによって治癒の強さが変わりますから』

研究してえなあ。

そんな事を思いながら内心溜息を吐いていると、ルランがポケットから何かを取り出し、テーブルに置いた。


やけに綺麗に飾りつけられている茶色い瓶だった。


『これは?』

『ドラゴンの血です』



思わず立ち上がり、テーブルに両手を付けてそれを凝視した。

ど、ドラゴンの血!!

瓶が茶色いので中身の色は分らないが、この液体が全部血だとすれば、かなり多い。


『これは採取してから一月ほど経ちます。これを調べてはいただけませんか?』

『し、調べる?これを、全て使って良いと!?』

『持ち主からは許可を得ていますので構いません。私が知りたいのは、どれだけ服用すれば安全に10年間老いなくなるか。そして加護がつかないか、です。可能ですか?』


そんなもの、確約できるものではないぞ。


だが、ドラゴンの血が目の前にある。喉から手が出る程に欲しかった物だ。


『か……―――可能、です』


い、言ってしまった!お貴族様相手に適当な事を言っちまった!下手をしたら命が無いかもしれない。

しかし、しかしだな!ドラゴンの血だぞ!


『出来れば早くに結果を知りたいのですが』

『……そこまでは、何とも……』

『では……』


ルランが何かを言っているが、目の前のドラゴンの血に集中しすぎて、彼の言葉は右耳から入って左耳へ通り過ぎていく。




「師匠ー、もうお客様はお帰りになりましたよー」


気が付いたら、既に目の前にはゴーアン兄弟は居なくなっていた。代わりに、テーブルに血の入った瓶と一枚の紙が置いてあった。


紙は血の入手先について極秘にするという割印が捺された契約書だった。



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