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後始末:キララ視点

やばい、姉がシグラの腕の中でぐったりしてる。

音はしなかったが、もしかして背骨が逝ったのか?ドラゴンだもんな、シグラ。

「おい、パル。シグラに姉の拘束を解くよう言ってくれ。気を失ってるぞ」

『了解しました』


シグラはパルに指摘され、漸く腕の中の姉の様子に気がついたのだろう、半泣きで姉と私の顔を交互に見ながら慌てていた。


「うっ血生臭い…」


よく見れば姉は血だらけになっていた。でも姉の血じゃないだろう。暗くてわかりにくいが、近くにきてよく見ると人間の血の色じゃないのが判る。きっとシグラについている血糊が付いただけだ。

キャンピングカーのベッドに寝かせれば良いんだろうが、これだけ汚れていてそれをすると、片付けが大変になるのは目に見えてわかる。

地面は芝生だから、取り敢えずそこに降ろすように指示をした。


姉の様子を見たが、ただ単に気を失っているだけで、背骨は逝ってないようだ。何よりだ。

本日二度目の気絶。多分もう精神がガッタガタなんだろうな。


さて、とにかく血を何とかしなければ。タオルと着替えを持ってこようか。

ああ、それと。

「パル、シグラに水浴びしてこいと伝えてくれ。…そうだな、お前が血だらけだから姉が驚いて気を失ったんだ、とでも伝えてくれ」

そう言っておけば今後血塗れになって帰ってこないだろう。


パルから話を聞いたシグラはすぐに湖に飛び込んだ。うん、単純な奴だ。



感触からして姉の髪の毛にも血がべったり付着しているようだ。シグラの奴、血塗れの手で姉の髪を触ったな…。

これは風呂にでも入れなければならないだろうな。だが、キャンピングカーのシャワーだと部屋が小さすぎて介抱しながら浴びせてやるなんて不可能だ。


うーん…


悩んでいると、湖から上がてくるシグラが見えた。

「おい、股間は隠せ。私は乙女だぞ」

余ったバスタオルをシグラに投げる。

パルの通訳を聞いていそいそと腰にバスタオルを巻くシグラを横目に、もう一度姉を見る。


「……気を失ってるから…大丈夫だろう」


姉は嫌がるかもしれないが、どうやっても私の手で身を綺麗にしてやる方法が無いので、シグラを呼んだ。


「姉を抱いて水浴びをしてきてくれ。髪も頼む。でもくれぐれも顔に水は付けるな、溺れるからな。お前の大事な嫁だろう、丁重に扱え」

指示をパルに通訳させると、シグラはこくこくと頷いた。


私は早速姉の服を脱がせ、ブラとショーツとスリップだけにしてシグラに渡す。

「変な所は触るなよ」

パルを通して忠告しておいたが、いまいち伝わっていない様子だ。ドラゴンのこいつにとってどこが『変な所』なのかわからないのだろう。一応『布で隠してある部分だ』とだけ伝えておいた。


さて、特に寒くはないが水浴びをしたまま放置も駄目だ。

「火…」

姉が準備していたバーベキューコンロの傍なら温かいだろう。近くにはアウトドアチェアが置いてある。

チェアに新しいバスタオルを敷いて、水浴びから戻って来た姉を此処に座らせればいいだろう。


ぐー……


「腹減った…」


テーブルの上に放置してあった飯ごう。私は飯ごうで米を炊いた事が無いが…

「パル、飯ごうの炊き方わかるか?」

『はい』

時空の概念って便利だなあ。パルは大抵の事なら知っている。

なんでも、時空の中で起きた出来事は全て時空が把握しているらしい。

地球にいる私らの親父が今日食べた昼飯の内容も、異世界の賢者がどんな研究をしているかも、貴賤区別なく全て知っている。ただ、人が何を考え思っているかなど、心の動きはわからないとのこと。

あくまで、『その現場を見て知った』事が前提なのだそうだ。


ただ、今のパルは時空が把握した出来事を全て知っているわけではないそうだ。


シグラと勉強をしている時に補足的に聞いたのだが、パルは時空の力によって形を保っているそうだ。

パルは時空であり、時空はパルである。だから時空が…私達のいる世界や異世界が存在する限り、パルが力を失う事はなかったのだ。

しかしパルがシグラとの度重なる追いかけっこをしてしまったせいで、時空が存在するための力まで無くなりそうになったらしい。だから慌ててパルは力の放出先である自分と時空とのラインを切った。その為、パルは例えるならトカゲのしっぽのようなものになってしまったのだそうだ。

だから現在のパルの形を作っている時空の中にある情報だけが、今のパルの知識なのだそうだ。

そして大本の時空と離れているので、新しい情報も追加で知ることは出来ないという。

まあ、それでも十分の物知りだが。


しかしシグラのせいでうっかり世界が滅びてたってことか…。本当、ふざけんなよ。

それにしても、どうしてシグラは異世界に何度も行ったんだろう。何となくだが、シグラの事だから特に深い意味はなさそうだな。


飯が炊きあがった頃、シグラは姉を抱えて戻ってきた。


「げっ」

姉の姿を見た第一声がそれ。


「あー…見たか?」

「う?」

私の言葉にシグラはきょとんとして首をかしげる。

……気にしていないならいいか。私もちょっと冷静じゃなかったから、下着が水で透けるのを考慮するのを忘れていたわ。ブラやショーツの厚めの布部分は守られているから、ぎりセーフだろう、うん。

でも多分真面目な姉が知ったら発狂するに違いないから黙っておこう。


バスタオルを敷いたチェアを指さすと、シグラは思った以上に丁寧な手付きで姉を座らせた。

すぐにバスタオルで姉の体を覆い、拭いてやる。

シグラはそのままチェアの傍にしゃがみ、姉の顔を心配そうに見ていた。


「……ん?」


火の近くで暖かくなったからか、姉は目を開けた。

「気が付いたか、姉。体と髪は洗ってやったぞ」

「あ…きらら。ありがとう。…服、着替えてくる…」

ぼーっとしながら立ち上がり、キャンピングカーの中に行ってしまった。シグラも後を追って行くが、すぐに姉の悲鳴が上がった。


やっぱり誰が体を洗ったのかは言わない方が良いだろうな。


さて、飯を食おう。

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