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結界

「あの鹿、いつからいたの?」

「さあな。私が顔を上げたら居たぞ。翼が生えてるが異世界だしなあと思ったし、それに見た目が鹿だから大丈夫だと思ったんだ」

妹がクールかつ順応力高すぎて困る…。


「正直、ドラゴン見た後だから感覚がマヒしてるかもな」

「そうだよ、しっかりしてよ、キララ!あんなのSNSに上げたらバズるでしょ!」

「んじゃ写真撮っとこ。夜だけど綺麗に撮れるかなあ?」

ぱしゃりと呑気にスマホで写真を撮る妹に頭を抱えたくなった。


「危機感持ってってば。あれ人を殺す習性があるってパルちゃんが言ってたんだよ!」

「でも奴はずーっと私を見ていたが襲ってこなかったぞ?」

んー?どういうことだ?

パルの情報に間違いはないだろうけど…。

「パルちゃー…」

詳しい説明を訊こうとパルを呼ぼうとしたが、その前にキララが「ひっ」と息を吸い込んで私の腰に抱き付いてきた。

「どうしたの?」

「お姉ちゃん、あの鹿、増えてる…しかも、全部こっちをジッと見てるぞ」

言われて窓の外を見ると、鹿と鳥の化け物は3頭に増えていた。よく目を凝らしてみると、後ろから更に何頭か歩いて来ているのがわかる。

化け物は全てこっちを見ている。

地球の野性の鹿も人間と遭遇するとじっと此方を観察してくるが、あれは草食動物ゆえに危険からの適切な回避行動をとる為の措置だろう。

でもこいつ等は違う。どう言葉で表したらいいかわからないけど、獰猛な肉食動物に獲物として見られているような…息苦しさ?プレッシャーを感じる。


このバスコンはもうパルに守られていない。

戦力になるだろうシグラも今は此処に居ない。

あの鹿鳥の化け物の力はどれくらいのものなのだろう…、このバスコンの壁を突き破ってくるだろうか?


「!」

キイィン、という耳鳴りがして思わず耳を塞ぐ。

見れば、あの化け物たちが一斉に此方に突進してきていた。


「…っ!!」


来るであろう衝撃に備え、私は腰に抱き付いているキララを抱え込むようにしてしゃがんだ。


………

……

…?


想像していた衝撃が一向に来ない。


「何?」


様子を見ようと立ち上がり、また窓に貼りついた。

すると、外…バスコンから3メートルくらいだろうか?そこに向かって化け物たちは何度も頭突きをしていた。

だがどう足掻いても此方に来れないのか、今度はバスコンの周り…やはり3メートルくらいの間を開けて…をぐるぐると取り囲みだした。

『あれは結界の効果です』

「ん?」

壁からにょいんとパルが現れる。


『ドラゴンは求愛が成功すると、つがいとなった雌に結界を張るのです』

「結界?そ、そんなファンタジーなこと…」

「姉、魔法があるならそういうのもアリだろ」

『ドラゴンが張るのは番に他の雄を近寄らせないようにする結界です。そして貴女は何の抵抗力も無い人間なので、シグラは物理攻撃・魔法攻撃・害意を持つ者を弾くといった、いくつもの結界を追加で張っています』


んん?

パルの言葉を反芻する。


「物理や魔法攻撃云々は何となくゲームとかでよく聞くんだけど…雄を近寄らせない…って言った?」

『ドラゴンは番不足なんです。別に雌の個体が少ないというわけではなく…求愛行動を体験した貴女ならわかると思いますが、余りにも強い個体の雄に対しては雌の方が逃げましてね』


求愛の仕方変えろ!!


私だってパルに助けられたから無事だったけど、普通は跡形も無く消し去ってるわ!!


『ということで、一度手に入れた番を誰にも奪わせないようにという措置ですね』

「……まあ、今回はそれで助かったけどね。ちょっと後でシグラ君とは話し合わないといけないわ…」


攻撃だけなら良いけど、『雄』だったら敵意の無い者も問答無用に弾き飛ばすのは困る。

私の脳裏に、私に笑顔で駆け寄ってきた父が吹っ飛ばされる光景が過る。そう、磨き過ぎて見えなくなったガラスに激突する鳩の如く。

「あはは…父さん…吹っ飛ぶとか…」

普段なら想像しただけで終わるのに、今は笑いが出てくる。恐怖やら安堵やらで頭がいっぱいいっぱいになっていて、感情の自制が効かなくなったのだろう。

「大丈夫か、姉よ…」

キララはもう恐怖心が無くなったのか、私の背中をぱしぱしと叩いて心配してくれる。その順応力、少しで良いから分けて欲しい。


スパンッ!


そんな時に破裂音が聞こえてきて、漸く我に返る。

何?新手の敵?

「おい、姉。姉の半径3メートル以内だったら安全なんだろう。だったら外に出るぞ、何が起きているかここからじゃわかりにくい」


順応力!


私の方はまだ対応できてなくて、情けない事にキララに引っ張られて震えながら外に出た。


ウウウウウウ……


外に出ると、低音の唸り声が聞こえた。明らかに不機嫌な声だ。

新手の敵かと見回せば、シグラだった。


貫頭衣を血に染め、金目をランランと光らせ、化け物を威嚇していた。


一方、化け物たちはシグラを見つめたまま微動だにしない。だが、先程私達をじっと見ていた時の『それ』とはまるで違う。地球の鹿のように強敵を前にどう動けば被害が少なくなるか観察しているだけのようだ。


私達が出てきたのに気がついたのか、シグラは唸るのを止めて私に突進して抱き付いた。

ひえええ、血だらけの貫頭衣が私の顔にべっちゃりくっつくううっ!

「うららっ!うららっ!」

「うん、大丈夫。大丈夫」

だから放してほしいのに、シグラは体を擦りつけるようにしてくるので、更に顔に血がががが!!


多分全身血塗れになってんだろうなあ、と思いつつ…すまんがギブアップだ。


意識が遠のいていった。

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