ククルアの能力:ロナ視点
『お父さん、お兄ちゃとお姉ちゃんは?』
今朝はキララちゃんだけがお部屋に来た。キララちゃんとはお話が出来ないから、お父さん経由で聞かないといけない。ロナに念話が出来ればいいんだけどなあ。あ、でもロナが念話出来たとしても、そもそもキララちゃんは念話どころか魔法じたいが使えないから、ロナが一方的にキララちゃんに話す事になっちゃうのか。つまんない。
楽しい時は雰囲気で一緒に笑えるけど、やっぱり会話してみたいなあ。ルランお兄ちゃんのあのイヤリング、ロナも欲しい。
『シグラさん達はここのお屋敷のお嬢さんと街に行かれたそうですよ』
『デート?』
『お嬢さんも一緒だから、デートではないだろうね』
『そのお嬢さんって気が利かない人だね』
ロナはこのお屋敷の人は嫌い。ルランお兄ちゃんとお姉ちゃんが恋人同士だって勝手に勘違いして、意地悪してくるの。ロナがちゃんと訂正してあげたら、少しはおさまったけど。
でも、やっぱり嫌い。意地悪した事を謝ってこないから。
それに、まだ意地悪してくる人はそれなりにいるし。
そう言えば、あの男の子はどうしているだろ?意地悪されてないかな?
『お父さん、ククルア君はどうしてるかな?まだ寝てるかな』
『ククルアさんなら、調子が悪いみたいでベッドから起き上がれないみたいだよ』
『様子見に行きたいなあ。行ってもいい?』
お父さんはそうだね、と頷いてキララちゃんに話しかけた。キララちゃんも頷いたから、多分一緒にお見舞いに行ってくれるんだろう。
ノックをしたら『どうぞ』とお返事があった。
ククルア君のお部屋は、ロナ達のお部屋よりも少し小さい。一人で寂しくないのかな。寂しいならロナ達のお部屋に誘おう。キララちゃんはお兄ちゃんとお姉ちゃんの3人で一部屋なんだもん。ロナのところも3人で使っても問題ないよね。
『おはよう、ククルア君!』
『えっと……』
ククルア君はベッドの上で上半身だけ起こしていた。
『初めまして!ロナはロナっていうんだよ。お父さんはエルフで、お母さんはドワーフなの。こっちはキララちゃんで、ロナのお友達。キララちゃんは他所の国の子だから、言葉は通じないの』
ククルア君は少し戸惑ったようにしたけど『よろしく』と挨拶をしてくれた。
『あのドアの所に立っているのはロナのお父さんなの』
『……確か、ルラン殿の傍にいた方だったような』
『そうだよ。ロナ達、ルランお兄ちゃんとお友達なの』
ルランお兄ちゃんの名前を出したら、ククルア君は少しだけホッとしたような顔になった。きっとククルア君もルランお兄ちゃんとお友達なんだね。
かたたん、かたたん、と言うキララちゃんの声がする。
『食事はとっていないのか、とキララさんが言っていますよ。ククルアさん』
言われてテーブルを見ると、手付かずのご飯が置いてあった。わあ、勿体ない!
『食欲がなくて』
『食べなきゃ元気にならないよ!それで、元気にならないと食欲出ないよ!』
だから病気の時でも無理して食べなきゃいけないんだって、旅の途中で出会ったおじさんが言ってた。
『……今だったら、食べれるかな…』
『じゃあ食べなよ。パンにね、スープをつけて食べたら美味しいよ』
『……うん』
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ククルア君とお喋りをしている間に、わかった事があった。
何人かのメイドさんが様子を見に来てくれたけど、特定のメイドさんが来た時にだけ、ククルア君は調子を崩したの。
『ククルア君、あの青髪のメイドさんに意地悪されたの?』
『……ううん。まだ、されてないよ。どうして?』
『あのメイドさんが来た時だけ、ククルア君の調子が悪くなるから』
ククルア君は少し黙った。言い難いのかな。
『やっぱり意地悪されたんだね!ロナがガツンと言って来てあげるね!』
『待って!』
ロナはやればできる子だってお父さんがいつも褒めてくれるから、任せてくれて良いのに。
『あのメイドに近づいちゃ駄目だ。あの人は怖い人だよ』
『そんなに意地悪なの?』
ククルア君はまた少し黙った。癖なのかな?
『あのね、信じてくれるかどうかわからないけど。僕にはわかるんだ。人の意識が僕に入ってくるんだよ』
難しくてよくわかんない。
『ロナやキララやロナのお父さんは、僕に全く悪意を持っていないし、その……失礼かもしれないけど……のんびりしてる意識しか僕に入ってこない。だから、とても楽なんだ』
『んー?例えばロナがお腹が空いた時、ククルア君にはわかるの?』
『うん。あ、でも念話みたいに考えている事が言葉になってはっきりとわかるんじゃないよ。漠然とした感じというか……』
『そうなんだね』
便利か便利じゃないかよくわかんないなあ。でもククルア君は疲れたような顔をしているから、多分無い方が良い能力なんだろうなあ。
『じゃあ、此処で寝てるより、車の方に居た方が楽なんじゃないかな?ロナとお父さんとキララちゃんと、キララちゃんのお姉ちゃんと、お姉ちゃんの旦那さんしかいないから』
またまた少しだけ黙った。
『……折角の申し出だけど、駄目なんだ。僕と一緒に居たら不幸になるから』
うーん?梨太郎電鉄の貧乏神みたいな感じかな。
『!』
『どうしたの、ククルア君!』
急にククルア君が苦しみだした。そんな大変な時に扉が大きな音を立てて開いて、誰かが部屋に入って来た。
『何だ、亜人の男もいたのか』
誰だっけ。えーと、えーと。ルランお兄ちゃんの叔父さん。
叔父さんの傍にはあの青髪のメイドさんが居た。意地悪なメイドさん!もしかしてククルア君を苛めに来たのかな。
『亜人の男は摘み出せ。そしてあのベッド…子供達がいる周囲に檻の結界を』
『畏まりました』
いけない!
檻の結界が出来上がる前に、ロナが今唯一使える魔法…身体強化を掛けて、未完成の結界を思い切り殴る。
良かった、壊れた。
お兄ちゃんは一瞬で結界を張っちゃうからロナの目では追えないけど、この人は結界を張るのに時間が掛かるみたいだ。
『あまり、抵抗して私を怒らせない方が良いぞ?』
叔父さんは気持ち悪い顔で笑いながらこっちに来る。
『ルランの小僧の客だ。その柔肌に荊を巻きつけたらさぞ愉しかろうなあ。どんな声で鳴くのやら』
メイドさんから荊の鞭を受け取り、叔父さんはパシンパシンと床を叩きだす。
お屋敷の人達は意地悪だけど、この叔父さんはそれ以上に意地悪な人なんだ!
『ロナ、二人を連れて一所に固まりなさい!』
『わ、わかった!』
キララちゃんの手を引いてククルア君のベッドによじ登り、お父さんの言う通り一所に集まる。
きっと檻の結界を張るんだ。お父さんはお兄ちゃん程魔力がないから、大きな結界は張れないの。
『邪魔を!亜人を殺して結界を壊せ』
『畏まりました』
『お父さん!』
青髪のメイドさんがスカートの中から短剣を出し、お父さんに突き立てようとする。
―――キン!
思わず目を覆ったけど、金属を弾いた音が聞こえた。
『くうっ!』
女の人の痛みを耐えた声。そして短剣が床に転がった。結界がお父さんを守った?
でも力をいっぱい使う檻の結界を張ったお父さんは、自分にも結界を張る余裕は無い。だったら、あの結界はお兄ちゃんの結界だ!お姉ちゃん以外にも、ロナ達にもずっと張ってくれてたんだ!
『くそが!!早く結界を壊せ!!貴様も荊の鞭で血塗れになりたいか!?』
『か、畏まりました!!』
叔父さんは相当苛立っているみたいで、顔を真っ赤にして鞭をロナ達の結界に何度も何度もぶつけてくる。
怖くないもんね!
青髪のメイドさんも落とした短剣を拾って何度も何度もお父さんに斬りかかっているけど、やっぱり攻撃は弾かれていた。
と、その時。
『何をしているんだ』
不意に聞いたことのない男の人の声が聞こえた。開けっ放しになった扉の向こうに叔父さんと同じくらいの歳のおじさんが立っていた。着ている服からして使用人さんじゃくて、きっと偉い人だ。
おじさんはつかつかと歩いてくると、叔父さんを思いきり殴り飛ばした。
『大ばか者が!!』
びりびりと部屋が震える。
鞭の攻撃なんかよりも、そっちの方が恐いよ!!




