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ロロットからのお誘い

「うらら、おはよう」

「……おはよう」

シグラはふふふ、と笑って私に頬を寄せてくる。……あれか、キスしろということか。

ちらりとキララを見るとまだ夢の中だ。


―――ええい、女は度胸だ!


決死の覚悟でシグラの頬に唇をくっつける。すると彼は嬉しそうに笑い、今度は私の頬に自分の唇をくっつけた。



■■■



「しゃおしゃ~」


「今日はシンプルなワンピースだね」

「昨日のゴスロリドレスは姉にはきつかったからな」

「うるさいなあ。シグラが変な顔しなかったんだから、別にいいし」

此処に滞在している間は毎朝メイド達が服を用意してくれている。

彼女らは着付けに手助けが必要か見ているだけなんだろうが、私達が着終えるまで後ろでじっとりと様子を見てくるので堪らなく苦手だ。

この人達はロナの言葉を鵜呑みにして、私とシグラの事を仲の良い新婚カップルだと誤解しているらしいし、本当に居た堪れない……。

今日もまたバスコンに引きこもろうか。勉強ならバスコンでも十分にできるだろうし。


溜め息を堪えながら支度を終えると、キララとリビングに向かう。そこには既にシグラが座っていて、面倒そうにナナーと話をしていた。


「うらら」

彼は私に気が付くと、ぱっと立ち上がり、私の元へ駆け足でやってくる。

「つけて」

「……屈んでくれる?」

メイド達の視線が痛いなあ、と思いつつ、シグラにリボンタイを結んであげた。


「おはようございます、奥様。今、食事の用意を致しますね」

にっこり笑いながらナナーが挨拶をしてくる。

「あ、おはようございます。……お願いします」

シグラの事を詳しく知っていた、エルフの女性。敵では無いと言っていたが、いまいち信じきれない。


「そう言えば奥様、お嬢様から手紙を預かって参りました」

「お嬢様?」

「ロロットお嬢様です。個人的な事を申しあげれば、見ない方がよろしいかと思いますよ。あの方、本当に性格が悪いので、文字を見るだけでご不快になられるかと」


いくら日本語が他の人達にはわからないとはいえ、明け透けな人だ。

ロロットとは、初対面でずっとこちらを睨み付けてきた女の子だった筈。その子からの手紙……確かにあまり見たいものではないが、手紙は読まないと失礼だろう。

「どちらにせよ、私にはまだ読めないんですよね」

「では、僭越ながら私がお読みいたしましょう」

「え?あ…」

返事を言う前に手紙をナナーに取られ、彼女は風の刃で綺麗に手紙の封を切った。


「……あー……」

まずは黙読で手紙を読み進めるナナーが困ったような、呆れたような声を出す。

「あの……」

全て読み終えたのか、彼女は何とも言えない表情で私を見た。


「一緒にお出かけしませんか、と書かれています」


「お出かけ?街に、ですか?」

もしかして今日シンプルなワンピースなのは、これを想定していたからだろうか。

私の返事など関係ないという姿勢に、これぞ侯爵家の親族だぞオーラを感じる。

「お断りしておきますね」

「え?良いんですか?」

戦々恐々とする私に対して、あっさりと“NO”と言うナナーに少々混乱してしまう。

「あれ、行きたかったですか?」

不思議そうな顔で逆に訊かれてしまった。いや、行きたいわけではないんだけど。

「あまり無下にすると、後々面倒な事になりませんか?」

「はあ、そういうものですか?奥様方にはルラン様という後ろ盾もいらっしゃいますし、断っても構わないと思いますよ。それに……」

ナナーはちらりとシグラを見た。

「ブネさんは多分行きたくないし、行かせたくないと思っていますよ、奥様」


―――またブネって呼んだ


本当に怪しさが半端ないエルフだ。

警戒心を上げつつナナーを見ていると、俄かに部屋の外が騒がしくなって来た。

そしてノックも無くいきなり扉が開けられる。


「しゃお!」


扉の先には茶髪を縦ロールにした女の子が、扇で顔を隠した状態で立っていた。この如何にもお姫様ですよと言わんばかりのこの子はロロットだ。彼女の後ろには数名のメイドがいる。


「しゃおおしゃお!しゃおおお、しゃお」

おお?何か捲し立てられている。けど、何を言ってるかわからない。

「しゃおしゃ…………、……?…!……?」

内容のわからないマシンガントークに狼狽していると、急にその声が聞こえなくなった。他の人達もきょとんとしているから、私の耳がおかしくなったわけではないようだ。

特に当の本人であるロロットはきょろきょろとしながら、喉を抑えている。


「ブネさん。防音の結界張ったら、話が先に進みませんよ」

「だって、うるさい」


シグラの仕業だったのね。

「シグラ、急にそんな事したら駄目だよ。された方は驚いちゃうじゃないの」

「むう」

シグラがそう言うと「しゃああおおお!!!」というロロットの絶叫が部屋に響いた。防音の結界を解いたタイミングがちょっと拙かったみたいだ。


少し気味悪そうにしていたようだが、此処に来た理由を思い出した彼女は喋って喋って、喋り倒してきた。

15分くらいずーっと喋っていたと思ったが、ナナーに要約してもらったロロットの言葉はこちら。


『この私が直々にお相手してあげるのよ?光栄に思いなさい、下民。さあ、さっさと行くわよ』


やっぱりこの子は有無を言わせない気だわ。


断ったらナナーやメイド達に迷惑がかかりそうな予感がする。気は乗らないけど、ロロットの誘いに乗らないといけないか……。



■■■



食事の後すぐに私達は屋敷を出たのだが、街の中は既に活気あふれていた。

今私はシグラとナナー、そしてロロットとロロットが従えるメイド5人達とで街を歩いている。

危ない予感がするのでキララはアウロに預けてきた。


それにしても人通りは多いが、客引きのような物は一切ない。フラウの街は上品な雰囲気のある古都、といった感じかな。ロロット達がいなければゆっくりと観光したいところだ。


「しゃおしゃ~?」

メイドの一人が何かを話しかけながら私の腕を取ろうとする。それを愛想笑いで躱し、シグラに身を寄せる。

シグラは私の手をしっかりと繋いでくれているが、先程からメイド達がちまちまと邪魔をしてくる。私と彼を離そうとしているのだろう。


「しゃおしゃ~」

あ、また。

先程と同じように躱そうとしたが、別の角度からもう一人のメイドの手が延ばされてきて、遂に手を取られた。いつの間にか私達はメイド達に囲まれていたようだ。

「あの、困ります」

「……うらら」

シグラは繋いだ手を放して私の肩を抱く体勢に切り替えた。ぐいぐいと私の身体を引き寄せる彼の強引さに、流石にメイドも手を放してくれた。

これで落ち着くかな、と思ったのも束の間。


―――うっ、今度はメイドの誰かが私のスカートの裾を引っ張りだした


メイド達の動きが段々と露骨になって来た。私達が期待通りに動かないので焦っているのだろうか。

困ったなあと思っていると、パシン、パシン、という扇で手を叩く音が前からしてくる。ロロットが苛立っているようだ。


―――全く……


初対面の時から彼女には嫌われているのは分かっていたから、嫌がらせの為に私達を街に連れだしたのだろうとは思っていた。

だからと言って私はされるがまま、嫌らがせを享受するつもりはない。

シグラからは絶対に離れない。

そのつもりで私は彼のその背中に手を回すと、メイド達から舌打ちが聞こえてきた。

屋敷のメイド達の生暖かい目にも辟易としたが、攻撃的な姿勢も疲れるなあと思う。

そう言えば、生暖かいといえば……斜め後ろを歩くナナーはずーとにやにやしながら此方を見ている。この人、本当になんなの。


やがてロロットは足を止めた。

「しゃおしゃおしゃお!」

「お嬢様が贔屓にしているお店です」


それは豪華な外装の建物だった。しかし看板もショーウィンドウのような物も無く、一見すると個人宅かと間違えそうなものだった。

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