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夜中の攻防

ルランが来てからは、私達の待遇がガラリと変わった。

やはりあの部屋に閉じ込められていたのは、ルランには与り知らぬことだったようだ。

この屋敷の住人にとって、私達はどう扱って良いかわからない一団には違いないだろう。それは認めるけど、でも閉じ込めるのなら、せめてトイレのある部屋にしてくれれば良いのに。


もう夜も遅いのでと軽めではあったが食事も出してもらい、漸くキララとロナのお腹も静まった。


「お部屋にご案内いたします」


食後のお茶を飲んでいた時に不意に日本語が聞こえてきたので、顔を上げると、メイド服を着た銀髪のエルフの女性が立っていた。

「え、日本語、喋れるんですか?」

エルフの女性は微笑むと「申し遅れました」とお辞儀をした。

「私は精霊ロノウェの守護する地から来たナナーと申します。奥様のご同行者に同じ郷のエルフがいらっしゃるのでご存知かとは思いますが、精霊ロノウェの力にございます」

アウロの方を見ると、こくりと頷いた。

以前、アウロからエルフは人間に偏見を持たれていると聞いたが、身元さえしっかりしていれば、それなりの雇い口はあるのだろう。

特に言語知識を授けてくれる精霊ロノウェの力が使えるなら、異国の客が頻繁に来るような貴族家や商家において重宝されるだろうし。


「さ、奥様」

彼女が差し出した手を取ろうとしたら、すかさずシグラが私を抱き寄せた。

「どうしたの、シグラ」

「おすに、ちかよったら、だめ」

「え?オス?」

目をぱちくりさせてナナーを見ると、彼女も不思議そうな顔をしていた。

ナナーは確かにスレンダーな体型をしているようだが、ちゃんと胸がある。

「シグラ、この人は女性だよ」

「だめ。こいつ、めすだけど、おす」

「??」

よくわからないけど、シグラが駄目だと言うなら、アウロやルランと同じくらいの距離感で接する事にしようかな。


案内された部屋はノルンラの街の屋敷に泊まった時の部屋よりも広く、バスルームやトイレといった水回りがあるのは勿論のこと、寝室の他リビングルーム、書斎まである、まるで高級ホテルのスイートルームのようだった。

「あの、ここがゲストルームなんですか?」

「はい。ルラン様には最高級のお持て成しをせよと申し使っております。どうぞ、ごゆるりとなさって下さい」


ノルンラの時同様に、アウロとロナとは部屋を離されてしまったが、シグラとキララとは同室になった。ルランが気を利かせてくれたんだろう。


「わあ、大理石のお風呂だ」

浴室には壁際に壺をもつ女神の彫像があり、その壺からお湯が絶えまなく風呂に流れ込んでいた。

「個室のものなので狭いですが、広々としたものを御所望であれば、屋敷の中央にある大浴場にご案内いたします」

「お構いなく」

狭いって……、このお風呂だって5人は入れそうな広さなのに。


「呼び鈴は書斎の机に置いてありますので、何かありましたら呼び鈴を鳴らして下さいませ」

ナナーは綺麗にお辞儀をした後、音を立てずに部屋から出て行った。


「ひっろい部屋だな」

「うん。日本の私の下宿先のアパートの部屋が三つくらい余裕で入りそう」

「悲しい事言うなよ……」

ふわあ、とキララが欠伸を出す。

「お風呂行ってきな」

「うん」

キララを浴室に入れた後、着替えを探すために脱衣所を探していると、ナイトウェアが何枚か置いてあった。

「……ノルンラでも思ったけど、この世界の成人女性用のネグリジェって布薄くない?」

ノルンラの時は私は酔いつぶれていたのでキララが着させてくれたが、自分で着ろと言われたら戸惑うぐらいの防御力の薄さだ。

「山麓の村で売っていたものはそれなりに分厚かったと思うんだけど…」

貴族と庶民の違いなのだろうか。

一方、女児もののネグリジェは生地が分厚くて暖かそうだ。

しかし流石に女児物を着るにはサイズが合わないので、今夜は男性用のナイトウェアを着ようかな。

ちなみに男性もののナイトウェアは日本でいうところの部屋着と似ている。


やがて眠そうなキララが浴室から出てきたので、ネグリジェを着させて寝室へ連れて行った。

寝室にはシグラがいて、書斎から何冊か本を取ってきて、ベッドに腰掛けて読んでいた。


「髪の毛乾かさなきゃ」

今にも寝落ちしてしまいそうなキララをベッドに腰かけさせ、タオルで髪の毛を拭いていく。

「めんどいー」

「しぐらが、してあげる」

シグラがそう言うと、キララの髪の毛が舞った。温風だ。

「魔法?そんな事もできるんだね」

「もやさないから、あんしんして」

温かくて気持いいのか、キララは既に夢の中のようだ。


「じゃあ、私お風呂行ってくるね」

「わかった」


少し湯気の残る脱衣所に行き、ワンピースや下着を脱ぐとバスタオルを持って浴室へと入った。


「あ、奥様」

「な、ナナーさん?」


咄嗟にバスタオルで身体を隠す。そこにはナナーを含めた三人の女性がいたのだ。

「どうして、お風呂にナナーさんが?」

「高貴な方をお世話するのは当たり前です」

「え?お世話って…」

「お背中お流しします」

じゃんっと三人の女性たちはそれぞれスポンジとブラシとバスタオルを装備していた。

「い、いえいえ、結構です!夫」

「どうされたんです?妹君はされるがままだったのに」

キララー!!その順応力どうにかしてー!!

「申し訳ありませんが、私は夫以外の人に裸は見られたくなくて……」

身体を覆うバスタオルをナナーに取られないように回避していると、くすくすと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

「いけませんわ、奥様。そのように恥じられると、私、楽しくなってしまいます」

恐い!!

同じ女なのに、何故か身の危険を覚える。

浴室から出ようと後ずさったが、ナナーが精霊魔法を使ったのか、ふわりと柔らかい風の壁に阻まれる。

「さあ、奥様」

「や、止めて下さい……あっ!」

強引にバスタオルが取られてしまい、腕で胸を隠しながら三人に背中を向けてしゃがみ込む。


「お隠しにならずとも、お綺麗な身体ですのに」

「ひっ!し、シグラ、シグラーっ!」


するりと肩に触れられた瞬間、思わずシグラの名を呼んでしまう。

そしてすぐに浴室の扉が開けられた。

「しゃおしゃお」

とんでもなく低い、シグラの声。

竦んだように女性三人の動きが止まり、風の壁も消えたので慌ててバスタオルを取り返し、シグラの元に駆け寄って彼の背中に隠れた。


「しゃお!」


シグラが一喝すると、三人は背筋を伸ばして浴室から出て行ったのだった。



くーくー、とキララの寝息だけが聞こえる寝室。ベッドの上に座り、私は頭を抱えていた。

浴室での一件で精神力がごりごりに削られたのだけど、更に問題が発生したのだ。


寝室には中央に大きなベッドがどどんっとあるのだが、一台だけなのだ。どれだけ大きなベッドだろうが、一台だけなのだ!


簡易的な寝台を貸してもらいたいところだが、あの呼び鈴を鳴らしたらナナーが来る。

正直、彼女には今は会いたくなかった。


「……うーん」

「どうしたの?うらら」

浴室から出てきたシグラが不思議そうな顔で、此方に寄ってくる。

「ベッドが一つしかなくて、どうしようかなって」

「ふたつ、あるよ?」

首を傾げながら、シグラはベッドの傍にあるオットマンに腰掛けた。オットマンと言っても、ベッドが大きいからか、三人掛けのソファくらいのサイズがある。

「それ、オットマンだからベッドじゃないよ」

「かまわないよ。ゆかでも、いいし」

「身体が痛くなるから駄目だよ……」

仕方がないなあ。そう思い私はぽんぽん、とベッドを叩いた。

「今夜は一緒のベッドで寝ていいよ。でも変なことはしないで」

「いいの?」

シグラは同衾許可にルンルンしながらベッドに登ってくる。そして「へんなこと?」と首を傾げた。

それを訊かれたら、私も困る。説明するのがかなり恥ずかしい。

「な、何もしなければ良いの!」

「うららが、いやがること、しぐら、したくない。だから、おしえて」

「いや、だから、その」

ふと枕元に目を向けると、大量の枕があった。その中から長い枕を引っ張り出して、ベッドの中央にそれを置いた。

「こ、ここからこっちは、入ってきちゃ駄目。わかった?」

「わかった。それで、へんなことって…」

「入ってこなかったらそれで良いの!変なことって言うのは忘れて!そもそもシグラは私の夫なんだから、別に変なことでもないし!」

「?」

んん?という顔をしていたが、無視して彼に背中を向けるようにして横になる。

「おやすみ!」

「うらら」

「何?」

ちらりとシグラの方を向く。


「きょうは、そいねして、くれないの?」

「……」


そうだった。彼は添い寝1分で寝ちゃう、良い子系ドラゴンだった。

色々と想像していた自分が恥ずかしいわ!


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