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御落胤

何事かと思った瞬間、音が…鳥の鳴き声なども一切聞こえなくなった。シグラが瞬時に結界を張ったのだろう。

「しゃあお、しゃおおししゃ」

シグラが何かを言うと、ルランがバスコンから飛び出した。

「精霊魔法が必要になるかもしれませんから、私も行ってきますね」

よいしょ、とアウロは立ち上がると、ルランの後を追って行った。


皆の様子に、先程の悲鳴はただ事ではないと察せられる。


「ええっと…私は…」

何をすればいいかと考え、リネン類を仕舞っているキャビネットを開けてシーツを取り出した。

「姉?」

「シーツとか必要になるかもしれないから」

「う、うん」

キララの顔色が少し悪い。あんな悲鳴を聞いたんだから仕方ないだろう。

「キララはロナちゃんの所に行ってな」

「……わかった」

ロナはアウロと共に旅をしていたからか、平然としている。ぴったりとキララにくっつくと「しゃお?」と心配そうな声を出していた。


それにしても、何が起こったんだろう。

ルランが訳ありだと言っていたから、それの関係なのだろうか?

タオルやシーツをテーブルに置くと、すぐにシグラに腕を引かれた。

「うらら、おちついて。だいじょうぶ」

シグラが心配そうに私を見ている。私もキララと同じように顔色が悪いのかもしれない。

子供たちの前なので気を利かせたのか、シグラは私を抱きしめる様な事はせず、体を寄せて手を繋いでくれた。



それから数十分後―――


「しゃお?」


ロナが不意に声を出した。

そしてシグラに向かって「しゃおしゃおお…」と話しかけた。

ロナの話を聞いたシグラは頷くと、バスコンの室内灯を付ける。どうしたの、と言う前にバスコンの外が真っ暗になった。防視の結界だ。


「うらら。ちょっと、まってて」


そう言うとシグラはテーブルに置いていたシーツを一枚掴んで外に出て行った。


「姉……」

キララが私を呼ぶ。

「うん。ロナちゃんにアウロさんから念話がきたんだろうね。誰かが亡くなったのか、それとも大怪我を負ったのか……」


この結界は私に血を見せないように、というシグラの優しさなのだろう。



■■■



ぱっと暗闇が解かれる。


しかし窓の外を見るのが怖くて、私はキララと二人でダイネットのシートに俯いて座っていた。

「しゃおしゃお」

そんな私達に大丈夫だよ、と言いたげにロナは明るい声を出す。


エントランスドアが開く。


「うらら」

シグラの声に、顔を上げた。

「だいじょうぶ、おいで」

私に対してかなり過保護な彼が大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。


車の外にはアウロとルランがいた。そして一人見覚えのない男性が立っていた。男性はぐったりとしている男の子を抱いていた。


「ウララさん、この子供はサラック男爵の甥だと名乗っていました。先程の騒動で乳母が殺されてしまい、そのショックで今は気を失っています」

―――あの悲鳴は断末魔だったのか。

心がズンと重くなる。

「あまり女性に詳しく話す事ではないと思いますので、簡潔に。我々が納屋に行った時には、数人のならず者がいました。……恐らくこの甥御さんは命を狙われています。そしてそれ以外にもう一つ、懸念がありまして」

「何でしょうか」


「納屋で彼らを襲撃したならず者なのですが、我々が捕縛した教会での襲撃者の仲間のようなのです」

「え…?」

「徒党を組む連中は仲間の判別をする為に同じタトゥーをするのですが、ご存知ですか?」

首を振る。この世界の闇の部分なんて知らない。そもそも、私達の世界のマフィアやギャングの事だって詳しくないけど。

「襲撃者とタトゥーが同じものだったんですよ」

「それって……この甥御さん達とレオナさん達の任務は関係しているんでしょうか」


ルランを見る。レオナと共に聖騎士として行動を共にしていた彼ならば、『任務』の内容を知っている筈だ。


「ルランさんが言うには、『任務』というのはとある母子の監視だったそうです」

「母子、ですか」

「その……少しウララさんには言い難いんですが……」

「?」

「母親は国王陛下と関係を持った方で、その子供は……御落胤だとのことです」


御落胤。つまり、国王陛下の隠し子ということ?

まさか、と思い男の子を見る。

「もしかして、この子が……、その、御落胤だと?」

「わかりません。この男性に訊いても、詳しくは坊ちゃんに訊いてくれの一点張りで。しかし、ルランさんが例の任務で派遣されてきた聖騎士だと説明したところ、男性は子供の保護を望まれました。……それに、ルランさんが仰っていたんですが、この子共は肖像画で残っている国王陛下の子供の頃に似ているそうです」


これはとんでもない人と関わってしまったのでは……

国王陛下の身内だなんて、監禁フラグを立てない為には最も警戒すべき相手じゃないの?


アウロが「どうしますか?」と訊ねてくる。


シグラ、アウロ、ルランの顔を見る限り、3人とも男の子と関わり合う事を推奨している雰囲気は無い。

恐らく私が拒否をすれば、この話は無かった事になるだろう。


「……」


男性の腕の中で眠る子供に目を向ける。


―――くっ…!キララと同じくらいの子供じゃないの!こんなの見捨てられないよ……。


「……わかりました。保護しましょう」


私の言葉を聞いて、アウロは重たいため息をついた。

「そんなに気が進まないなら、私にこの子を見せないで下さいよ」

「しかしですね。私達が黙っていて、何かのタイミングでこの事をウララさんが知り得て、更にこの子供が死んでしまっていたら、貴女が後悔するかと思いまして」


そりゃ、するでしょう。私の判断一つで助かったかもしれないのにって。下手をしたら一生思い続けるかも知れない。


「私とキララが異世界の人間であること、そしてシグラがドラゴンであることは内緒でお願いします。……まあ、旅を供にすれば、いずれバレる事かもしれませんが」


問題は、男の子を抱いている男性の方だ。そう警戒をしたのもつかの間。納屋の後始末をする為に、男性は此処に残るそうだ。考えたくないけど、あの納屋には何人の遺体があるんだろう……。

少し震えがきてしまい、それを敏感に感じ取ったシグラが私の肩を抱き寄せてくれた。

「うらら、だいじょうぶ?」

「……うん」


「しゃお…しゃおおしゃ…」

「坊ちゃんをお願いします、と」

男性は沈痛な面持ちで男の子をルランに渡した。



男の子の顔色は青白くて、とても痛々しかった。




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