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第五話:ドラゴンの血

「しかし、ドラゴンが友好的なら血が手に入りやすくなったんじゃないか?」

「あ……そう言うのもあったねえ……」


 20歳の小学生回避の為だから、どうしても必要だけど……今すぐどうのこうのは無理だろう。正直、相手がドラゴンじゃなくても血を下さいなんてハードルの高い事を初対面に近い人に言えるわけがない。

 当面は何処に彼の怒りのツボがあるのかわからないから、早めに性格を把握することから始めよう。

 それで早いうちに出来るだけ仲良くなって、それから血を飲ませて欲しいと頼むしかないだろうなあ。

 ああ……気が重い。


『あうあおう』

「あうう?あう!あうおあう」


 概念と特異点の会話はかなり盛り上がっているみたいだ。つい数時間前に敵対してなかったっけ?

 きっと時空に悪さしないのなら、概念にとっては敵ではないんだろう。


「……っ!な、何してるの!」


 心此処にあらずという風に概念と特異点の会話を聞いていたから咄嗟にリアクションできなかった。

 概念はテーブルの上にあったコップを特異点に差し出し、特異点は自分の手首の肉を噛み千切り、そのコップに血を垂らし始めたではないか。


『貴女方がドラゴンの血を欲していると言うと“好きなだけどうぞ”と』


「「ええッ!?」」


 特異点のノリ、軽い!!

 というかやりすぎでしょ!どうするの、バスコンには一般的な救急セットしか置いてないよ!


 ドバドバと流れる夥しい量の血液に、思わずフラっとしてしまう。


 病院に連れて行ったら数針縫う怪我だ。

 もうやだ、バイオレンスやだ!


「姉よ、救急セットだ」


 いち早く我にかえったのは妹だった。

 妹に急かされるまま、収納棚から救急セットを取りだす。

「姉は手当の仕方がわかるか?」

「うん。お客様が怪我をした時用に講習は受けてるから」


 流水で洗い、患部をガーゼで押さえて心臓より高く持ちあげる……と頭の中で手順を思い出すも、一瞬触るのを躊躇してしまう。

 人の形をしているとはいえ、この人は()()ドラゴンだし。

 今も慌てている私達を見て、彼は不思議そうな顔をしている。それが一層、私たちとは別の生き物だと印象付けられて怖くなる。でも怪我は手当してあげないと可哀想だし、見てるこっちが痛くなってくるし!ああ、もう!


「概念ちゃん!特異点さんの手当てがしたいんだけど、勝手に触っても良いかな、ってきいてくれる?」

『貴女なら好きに触って良いと言っています』

「そう。傷に滲みると思うけど、暴れないでねって言っておいて」

 そう言い置くと、私は特異点の怪我をしている方の腕を取ってキッチンの流し台に行く。

 水を出して血を洗い流し、袋に入っている真新しいガーゼの封を切り、ぎゅっと力を込めて患部に当てた。

 あとは心臓より高い位置に……と思い、うっとつまる。


 身長高い!多分自動販売機より高いんじゃないの?


 というかめちゃくちゃワクワクした目で私の事見下ろしてるよこの人。痛くないのかな?

「概念ちゃん、特異点さんを座らせて」

『わかりました。あうう、あう』

「あうあう」

 すとん、とシートではなく通路に座る。まあ、いいけど……。

「暫くこうして手をあげていたら、血がとまると思うから……って、もう止まってる……」

 これだけの怪我なら応急処置だけでは最悪止血できないだろうに、既に血は止まっていた。

「あうあうあー、あーうう」

『早く止まった、凄い。と喜んでいます』

「あ……はい。喜んでいただき恐悦至極……」


 深く考えるの、止めよう……。うん、そういう生き物なんだって納得しないと、身が持たないわ。


 そして手に入ったドラゴンの血。


 それを前にして私とキララはごくりと喉を鳴らす。

「血を飲むとか……まじか……」

 手に入れたものの、私達は完全に怖気づいていた。

「ちなみにどれだけ飲んだら効果が出るかわかる?概念ちゃん」

『地球産の人間がドラゴンの血を飲んだという出来事は確認しておりませんので、わかりません』

 そりゃそうだ。地球にはドラゴンはいない。

「……参考までにこっちの世界の人間はどれだけ飲んだら効果があるのかな?」

『それについてはこの世界に居る高名な錬金術師が未だ研究中です』


 うーん、と妹と一緒に唸る。


 ファンタジーの物語などでは、ドラゴンの生き血というのは不老不死になる薬の材料と言われている。

 まあ、これも所詮ドラゴンのいない地球で人間が勝手に創作した話なんだけど。でも『もしも』がないわけではない。八百比丘尼(やおびくに)とか冗談ではない。

 私達は不老不死を望んでいるわけではない。10年ほど老いを止めれたら良いだけなのだから。


 私達が血の入ったコップの前で悩んでいるのを不思議に思ったのか、特異点が「あうあう」と概念に話しかけている。


『特異点はドラゴンの血は傷に良く効くと言っています』

「傷に効く?老化を止めるんじゃなくて?」

 また、あうあうと概念が特異点に話しかける。


『傷に効くから、子ドラゴンが怪我をしたら親ドラゴンが自分の血を子に飲ませると。そして人間が偶にドラゴンが不老不死の素材になると言って戦いを挑んでくることがあると。そう言っています』


 やっぱり出てきた、『不老不死』というキーワード。

 不老不死と言えば、錬金術師や魔女がそういう薬を作るとか言われているよね。……錬金術師?


「あのさ、概念ちゃんが言ったドラゴンの血について研究中の高名な錬金術師という方は、ここの星にいる人なのかな」


 概念の言う『この世界』は宇宙空間も含まれている。住んでてくれー!と内心拝む。


『はい。フィルマ王国の宮廷に住んでいます』


 居た!!


「フィルマ王国?」

『今我々が居る場所がフィルマ王国です。首都はここから東に直線距離で800㎞の地点にあります』

 東京から広島くらいまでの距離だ。夜行バスを思えば一晩で着く。あ、でも直線距離だから、実質はもっと長い距離になるのかな。

「結構近いんだな。異世界でやる事もないし、その詳しそうな人間にドラゴンの血の事を訊きに行ってみるか?飲むのはそれからでも遅くないだろ」

「そうだね。私はとにかくキララの『20歳の小学生』を止めたいだけだから、すぐに飲まなきゃってことでもないし」

「止められなくても成長期だからと周りを納得させるだけだ」

「流石に無理でしょ」


 さて、コップの中に入った血だけど。特異点が怪我をしてまで出してくれたのだから、捨てるのは申し訳ない。

 かと言って、血は保存できるものではないし。

「一応取っておけばいいだろう」

 キララはそう言うと、冷蔵庫の中から栄養ドリンクを取りだし、飲み干した。


「この茶色い瓶だと品質が損なわれないって聞いた。気休めかもしれないがこれに入れておこう」

「遮光瓶ね。ビタミンには有効だけど……まあ、無いよりはマシか。これに入れて冷蔵庫に保管しておこう」

 冷蔵庫に入れるのはちょっと気味が悪い気もするけど、そんな事を言ったら特異点に失礼だろう。

 受け取った瓶を綺麗に洗うと、その中に血を注いでいく。


 そして間違って飲んではいけないから、可愛らしくリボンをつけておこう。


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