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夫の妹

シグラの無事な姿を見て、居ても立ってもいられずに抱き付いた。

「良かった…シグラ…!」

「うらら」

昨夜のようにぐりぐりと頬を彼の胸に擦りつけ、そして違和感に気がつく。

その感触が布ではなく、肌なのだ。


「ごめんなさい!」


咄嗟に身を引き、両手で顔を覆って背中を向けた。

「姉も逞しくなったな。全裸男に躊躇なく抱き付きに行くとは」

「気にする余裕が無かっただけだから!キララも見ては駄目!」

「見ない。私は乙女だぞ」

ルランが動く気配がする。自分の着ていたコートをシグラに貸したようだ。

「もう大丈夫ですよ、ウララさん、キララさん」

苦笑交じりのアウロの声を聞いて、振り向くと、シグラは少しだけ窮屈そうにコートを着ていた。同じくらいの身長だと思ったが、シグラの方がルランよりも体が大きいのだろう。


「さて。早く退避しないと、やじ馬たちがこの広場に集まるでしょうね」

「あ、そうですね。でも……」

あまり目立ちたくない私達は、すぐにでも立ち去りたかったが、一つ問題があった。黒いドラゴンだ。

黒いのでわかりにくいが、所々炭化してしまっている。それでもドラゴンにとっては致命傷にはならず、数か月もすれば元に戻るだろうとシグラは言う。

しかし、ここに弱ったままの状態で放置すれば、人間たちによって命を奪われかねないだろう。

シグラを危ない目に遭わせたのは許せないが、竜族は同族殺しをしない。このまま見捨てるのは気が引けた。

「たぶん、おいておいても、こいつ、しなない」

多分って。それにしても何だか…

「シグラ、もしかしてこのドラゴンのこと知ってる?」


「うん。しぐらの、いもうと」


…………。


「「「はあああああ!?」」」


私とキララとアウロが大きな声を出したので、日本語がわからないルランとロナがびくっと体を震わせた。


「シグラ、妹さんがいたの?」

「これ」

“これ”って…。というかこのドラゴン、雌だったんだ。

他にも兄弟はいるんだろうか?それよりも御両親は?……まあ、今訊く事ではないか。

でもシグラの妹なら、見捨てると言う選択肢は消える。

「助けてあげないと」

「ほうっておいても、だいじょうぶだよ?」

シグラは複雑そうな顔をしながらも、妹ドラゴンの顔の方に寄り……蹴り上げた。

「し、シグラ!」

「口を開けてやっただけだろ。そう怒るな姉」

「口を開けたって…ああっ!」

シグラは手首を噛み切り、ドラゴンの口の中に血を滴らせる。

そう言えば親ドラゴンは怪我をした子ドラゴンに血を飲ませるとシグラから聞いたことがあった。

妹ドラゴンを助けてやってほしかったが、まさかシグラが血を出す事までは考えが及ばなかった。

腰布を割いて、慌ててシグラの手首に巻く。

「ごめんなさい、シグラに怪我をして欲しかったわけじゃないのに」

シグラはふふ、と嬉しそうに笑う。

「だいじょうぶ、すぐなおる」

「でも、さっきも鼻血が出てた!」

「あれは、このからだ、だと、ちからに、たえれなかった、だけだから」


ドラゴンの白目だった目が、翡翠色になり、ぎょろんと動く。


ややあってから、その体はしゅるしゅると形を変え、長い黒髪のスレンダーな体系の人間の女性になる。勿論全裸だったので、今度はアウロが羽織っていたカーディガンを提供してもらい、私も自分の腰布を解いて彼女の腰に巻きスカートのように巻いてやった。


「あおあおあおう」

彼女はシグラに跪き、頭を深く垂れた。

「シグラ、彼女は何て?」

「ひさしぶりーって」

そんなフレンドリーな空気じゃないよね?



■■■



あの後すぐに私達は人を避けて裏路地で宿屋まで戻った。取り敢えずシグラに服を着てもらい、彼の妹さんには私の服を渡した。

そして話し合いはバスコンの前で行うことに。シグラの身内とは言えドラゴンなので、逆鱗に触れていきなりドラゴンの姿になられたら困ると思ったからだ。


「婚活中の3番目の子供が、強い雄に泣かされて戻って来たと思ったら、その強い雄の力の残滓が兄のものだったので、駆けつけてきた、と仰ってます」

「婚活」

キララと顔を見合わせる。心当たりはあった。多分森の中で会った“赤にところどころ黄色が混じった身体のドラゴン”だろう。

妹さんの息子ということは、あのドラゴンはシグラの甥っ子だったのか。

確かにバスコンに求愛するところが似てる気がする……。


「それで、あの。お名前は?」

息子がいると言う事は結婚もしているんだろうし、家族がいるのなら、まさかシグラのように忘れたとは言わないだろう。

「ビメ、と仰るようです」

「ビメさんですか」

ビメもシグラ同様にこの国の言葉が使えるようで、早々に竜語からそちらに切り替えてくれている。まあ、どちらにしろ私には解らないんだけど。

「お兄さんの妻のウララと申します、よろしくお願いします。とお伝えください」

アウロに通訳を頼むと、ビメはきょとんとした顔をした。その顔がどことなくシグラに似ていて、兄妹なんだなあと思う。

そして「しゃおしゃお…」と何かを話すと、すぐにシグラが彼女の頬をギリリッとつねった。

「暴力は駄目だよシグラ」

「こいつ、きらい」

仲の悪い兄妹なのかな。まあ、仲が良ければブレスの応酬なんかしないか。シグラに至っては妹を炭にしていたわけだし。


ビメは私の前に立つと、じろじろと体を舐めまわすように見てきた。

そしてふにふにと頬を突かれて、二の腕を突かれる。

最後にむにっと胸を思いきり両手で掴まれて「ひっ」と声が出る。

「止めて下さい!女性とは言え、こんな…!」

「しゃおし。しゃおうおおうお?」

彼女がそう言った瞬間、シグラの手刀が私の胸を鷲掴むビメの腕に振り下ろされた。

「しゃお、しゃおしゃ、しゃおおしゃお」

「しゃしゃお、しゃしゃおおしゃおうおうしゃ」

「しゃおうおうしゃしゃおお!」

言い合いを始め、また兄妹喧嘩をするのではと私はただきょろきょろすることしかできない。

「あの、この兄妹、何を言い合ってるんですか?」

ルランは顔を赤くしているし、アウロは苦笑している。

「いやあ、まあ。あははは」

駄目だ、アウロは通訳する気が無いようだ。仕方ないのでパルを呼んで通訳をして貰う。


『どこもかしこも柔らかい。こんな柔らかい雌に、強い子が産めるのですか?』

『ウララにさわるな、即刻今の感触を忘れろ、さもなくば手を切り落とす』

『私はお強い兄上の子に会う日を楽しみにしているのに!』

『貴様の楽しみなど知らん。それでウララの感触は忘れたんだろうな?』

『酷いです!私がどれだけ努力をしたと…見所のある強い雌を見つける度に、兄上の住処に放り込んでいた私の努力は何だったんですか!よりにもよって、あんな柔らかい雌を番にするなんて!』

『嫌がらせのように雑魚を放り込んで私の眠りを邪魔していた理由はそれか。それよりウララの感触を忘れられないならその脳みそ蒸発させる』

『どんな雌でも、兄上との子なら強い子になると思って…!まぐれで求愛を成功させて欲しいと願って住処に投げ入れていたんです!しかし流石にこの雌は柔らかすぎます!雑魚にも劣る雑魚です!』

『蒸発させてやるから貴様そこに跪け。ウララの感触を知っていて良いのは……』


まだまだ言い合っている兄妹…主に兄の傍に行くと、手を伸ばしてその口を塞いだ。が…

「し、シグラ」

黙らせたくて彼の口を抑えたはずの手が、逆にシグラの手で覆われ、彼の唇にぐいぐい押し付けられる。

「ふふふ」

妹を前に無表情だったシグラは一転して、とても上機嫌に表情を緩める。

「どうしたの、うらら」

「は、放して。シグラが恥ずかしい事ばかり言うから、黙らせたかっただけだから!」

「はずかしい?いってないよ」

人間とドラゴンの感覚の違い…!

一方、ビメは私にじゃれ付いてくるシグラを見て、複雑そうな顔をしていた。

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