6人目の同行者
教会からのお誘いは、アウロとルランに反対をされたので断る事にした。
王都の錬金術師への伝手が欲しいというのが私達の望みだったんだけど、それなら自分がやりますからとルランが言ってくれたのが大きかった。
レオナも私が断るとすんなりと引き下がってくれたので助かった。彼女は一礼して部屋から出て行った。
しかしルランは教会の人間なのに、意向を無視して良かったのだろうか?
ルランは胸元から懐中時計を取り出し一瞥するとシグラの元へ行き、跪いた。
何か必死で訴えている。
「ルランさんは移動する事をシグラさんに提案していますね。此処にいても他の精霊教会の襲撃の的になってしまうと」
「襲撃の的?私達がですか?手伝いはしましたが、睨まれるようなこと……あ、もしかして」
レオナを救援するかどうか話し合った時にアウロが危惧していたことを思いだす。
「誘拐の件もですが、やはりバスコンやシグラの力を狙っているんですか?」
「さて、“ブネ様の奥様に何を訊くかは大体想像が付くが”と彼は言っていましたが?」
アウロは私からルランに視線を向け、この国の言葉で話し始める。
それを受けてルランは跪いたまま、言い難そうに何かを話す。
何を言っているのか、アウロに訊こうとしたが、
「うらら、しぐらのそばに、いないとだめだよ」
「え?……ええ?」
背中に手を回されたかと思ったら、シグラに横抱きにされ、彼は振り返る事もなく部屋から出て行く。
慌ててシグラ越しに後ろを見ると、シグラの後をロナがキララの手を引いて付いてきている。更にその後ろを深刻そうな顔をしたアウロとルランが付いてきていた。
この状況の意味が解っていないのは、この国の言葉を知らない私とキララだけだろう。
「誰か説明……パルちゃん!」
パルの名を呼ぶと、にゅるんっとシグラの肩からパルが現れた。
「どうしてシグラ達は急ぎ出したの?ルランさんは何を言ったの?」
『ウララさんが狙われていると言っていました』
「私?」
『教会はシグラさんからの求愛をクリアしたウララさんから、どうやって求愛をクリアしたのか訊きたいそうです』
首を傾げる。
「それを訊いてどうするの?」
『ドラゴンの男性と人間の女性の番を増やすそうですよ』
竜族は番が出来ずらい種類だから、絶滅しないようにしたいのかな?
「教会って絶滅危惧種の保護でもしてるの?案外良いところなんだね」
「まさか!」
早足で私達の傍まで来たアウロが厳しい声で言う。
「竜族の身体は妙薬の素材になるんですよ。ですが、竜族は魔法が通じない為に楽に狩れません。だから、」
アウロはそこまで言うと一度区切り、息を整える。
「教会の息が掛かった人間の女性とドラゴンを番にし、番にした雄にその身体を素材として差し出せと命令するのが目的です!」
「は?」
「もしかしたらこのお茶会でウララさんを懐柔し、シグラさんの身体を貰い受けるつもりだったかもしれませんね」
目を見開き、シグラの身体に力いっぱい縋りつく。
「そんな事しませんよ!」
今、この時から私は精霊教会が嫌いになった。アウロの傍に付いてくるルランに目を遣る。
「彼は、ルランさんは教会の人でしょう?」
「彼は聖騎士ではありません」
「え?」
「彼は騎士ですが、精霊付きではありません。彼に精霊の加護はついていません…付いているのは、シグラさんの加護です」
シグラの加護?もしかして、血を飲ませたから?
「加護は一種の呪いです。力を与えられる代わりに、加護を与えてくれた者に対しては絶対服従です」
屋敷の外に出て、バスコンまで辿り着くと、私は鍵のボタンを押してロック解除する。
シグラは私を抱えたままエントランスドアを潜り、キララとロナも続く。
アウロはまだ外にいて、ルランの傍に立つ。
「ウララさん。ルランさんを同行者として連れて行きますか?彼は貴女やシグラさんの力になることを望んでいます」
加護の話が真実なら、ルランはシグラの味方だ。
それに何となくシグラもアウロも反対姿勢ではないのは彼らが纏う空気でわかったから、頷く。
「話を聞きたいですし、シグラも反対していないようなので」
アウロとルランがバスコンに乗り込むと同時に扉をロックした。これで誰も入ってこれない。
シグラの結界もあるし、一番安全な場所といえるだろう。
私は寝室を展開させてラウンジ仕様にすると、シグラ、アウロ、ルランに座ってもらう。
ダイネットのシートでも良かったが、そこはキララとロナに居てもらう場所とした。
私はラウンジの一番端の席に座り、隣にシグラが座る。その隣にアウロ、ルランと続く。
長く話すつもりはないので、お茶は用意していない。
「ひとまず、移動しようと思います。目的地はどうしますか?」
「ルランさんは父君が治める領地にあるフラウという街を提案しています」
フラウ、とはルアンのミドルネームだ。この国では生まれた場所をミドルネームにすることが多いらしい。
「フラウにはゴーアン侯が所有するカントリーハウスがあるそうです」
カントリーハウスとは田舎に建てる別荘のようなものだそうだ。ルランは真夏に生まれたそうで、母親が避暑でそこに訪れている時に産んだそうだ。
ルランがアウロとシグラに「しゃお、しゃお」と話す。
「兄君が王都の宮廷で参議をしているそうです。フラウでなくても、ゴーアン領にいれば連絡がしやすいと」
「わかりました。では、次の目的地はゴーアン領ですね。出来ればフラウが良いということで」
そこで話し合いを止め、私はシグラと共にダイネットを通って運転席と助手席に座った。
ダイネットではキララとロナが本を読んでいた。ロナも日本語を覚えようとしているみたいだ。
アウロとルランは詳しい打ち合わせをしたいからと、そのままラウンジに留まった。
エンジンを掛け、屋敷の敷地を出て行く。
門の所にはレオナが立って此方を見ていた。彼女は教会の聖騎士なので胸中複雑ではあったが、礼儀として一応ぺこりと頭を下げると、彼女の横を車で通り過ぎたのだった。




