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番外編:番関係と婚姻関係(第三者視点)

遅くなりましたが、3周年目記念の番外編です!

ウララがシグラとブエルと共にテーブルを囲んでお茶を飲みながら談笑していた時の事。


『あの……今、よろしいでしょうか。相談に乗っていただきたいのですが』

神妙な面持ちでオティスが話しかけてきた。

オティスは未来人の計画を阻止しようとしてこの世界にやって来た、700年先の未来で生きるドラゴンだ。

『私達にか?ビメかミクの方が良いと思うが』

ビメとミクはオティスの祖父母だ。そうでなくともビメは面倒見が良く、相談する相手に適している。だからシグラもそのように言ったのだが、オティスは『既に未来の世界で何度も相談させていただいていますが、良い解決策は無かったので……』と遠くを見るような目で首を振った。


確かにビメは面倒見が良いが、かなり独善的だ。千年単位で彼女の余計なお世話の被害に遭って来たシグラは、オティスのこの表情で何か察するものがあり、ビメの話題はここで止めた。


『どんな、なやみ?』

ウララが拙いフィルマ語でオティスに問いかける。ウララがオティスの相談を聞く姿勢になったので、シグラもオティスの相談を真剣に聞く姿勢を取った。


『実は、リュカのことで』

ぽつりぽつりとオティスが悩み事をこぼしだす。しかしかなり言いにくい事なのか、色々と回りくどい言い方をし―――その後30分ほどでオティスは口を閉じたが、まあ、要はどれだけリュカにアプローチしても求愛を断られるので、どうしたら良いでしょうか?という話だった。


全てを聞き終わったウララは苦笑をこぼし「(確かに、私達には言いにくい事だわ)」と心の中で呟いた。

まだシグラとウララの間に子供はいないが、リュカは数年後の未来で2人が授かる“予定”の娘だ。

つまりオティスは意中の相手の口説き方を意中の相手の両親に相談してきたというワケだ。


『私達はあまりリュカの事に詳しくは無からな。それどころかお前の世界のリュカとは会ったことも無い』

シグラもウララも15年後の世界から来たリュカと少しの間交流があった程度で、況してや、700年後の世界のリュカとなんて面識すら無かった。

『お前の世界にいる、リュカの両親に訊けば良いだろう?』

『流石に無理です!!似て非なる……はちょっと違いますが、此方の世界のシグラ様たちだからこそ、こうして相談出来たんです』


……まあ、オティスが言いたいこともわかるのはわかるのだが、とシグラとウララは目を合わせる。


『そのリュカって子はドラゴンなの?』

そう訊ねたのはブエルだった。

臆病なブエルは他者の危険そうな問題にホイホイと首を突っ込んで自身を危険に晒したくないとして、ウララとシグラが敵対している勢力には詳しくない。ライやレンが未来からやって来た子供達であることも知らないし、オティスの事も単にシグラやビメの知り合いのドラゴンだと思っている。

そんなブエルは15年後のリュカとは会ってもいないので、このような質問をしたのだ。


ブエルの問いにオティスは『はい』と頷いた。

次にブエルは『君と相性が悪いとか?』と呟く。それに対してオティスは『やっぱり、そうなんでしょうか?』と涙目になった。

『うーん、情報が足りないんだよねえ。何度も求愛しているって言ってるけど、どれくらいの頻度で

会いに行ってるの?』

『会うといいますか、リュカは植物学者で、俺はその助手なので毎日顔を合わせています。その……求愛は何かのイベント毎にさせてもらっています……』

『は?毎日?えー……。いつも傍にいる事を許してるなら、相性が悪いわけじゃなさそうだね』

その言葉にオティスは表情を一変させて『そうですか!?』と元気を取り戻す。


『本当に嫌なら、傍に寄って来る君の事を追い払う筈だし。それをしないんだから、少なくとも嫌われてはいないよ』


ぱあああっと表情を明るくさせたオティスは『ありがとうございます!!』と礼を言うと、スキップしながらブエルやウララ達の傍から離れて行った。


『え?まだ相談について核心的な事は話してないんだけど』

ご機嫌に去っていくオティスの背中を見ながらブエルは首を傾げたが、特に引き留める事はしない。

そしてシグラも『他者から“リュカに嫌われていない”と聞いて満足したのだろう』と言うに留めた。


『それって相談というより、愚痴を聞いて欲しいってだけじゃない?』

まあ良いけど、とブエルは紅茶を一口。


『ぶえるしゃん、りゅかしゃんは、』

[ウララ、フィルマ語が喋りにくいなら英語で良いよ]

あ、とウララは口元を押さえた。先程はオティスの手前、フィルマ語で話していたが、ウララのフィルマ語力はまだまだ低い。それに比べてウララもシグラもブエルも英語は堪能なので、この3人の間で会話する時にはもっぱら英語を使っている。

ウララはこほんと咳ばらいをすると、口を開いた。

[えー……と。それで、ブエルさんはリュカちゃんは何故オティスさんの求愛を断っていると思いますか?]

ウララにとってリュカは (まだ生んではいないが) 娘なので、気になるらしい。


[推測する事しか出来ないけど、リュカは多分オティスの事が好きなんだと思うよ]


[そうなんですか?どうしてそのように思ったか訊いても良いですか?]

ブエルは“うーん”と少し考えた後、

[雌のドラゴンの本能が関係していると言えば良いのかな?雄のドラゴンが番の雌に絶対服従するのと同じで、雌のドラゴンは番の雄に嫌悪感を抱くようになるんだよ]

[ええ!?]


ウララの脳裏には、聞きかじった程度のドラゴンの番の話がよぎっていく。


[確か、雄のドラゴンは番の雌に大事にされず、ストレスで弱って死んじゃうとか……。え、雌は雄に嫌悪感を抱くから、大事に出来ないんですか?]

[まあ、元々ドラゴンは実力至上主義で、個体差もあるけど大抵は格下相手は眼中にないタイプが多いのは多いんだよ。ただ、番を得た雌は自身の番に対してそう言うのとは別枠の嫌悪感を抱くようになる。そうだなあ、ビメなんかはそれが顕著かも]

[ビメさん?]

ビメはいつもミクに対して辛らつな言葉を投げているが……。

[ビメは面倒見が良くて、弱い生物に対しても気さくでしょう?ミクと番になる前はミクに対してかなり優しく、甲斐甲斐しく世話をしていたんだよ]

[そうなんですか?]

ビメとミクには失礼かもしれないが、とても想像出来ないとウララは思う。


[ミクは自分(ビメ)の父親のように弱いから、守ってやらないといけないって言っていたけど、シグラは知らない?]

ブエルの言葉を受けて、ウララはシグラの方に視線を遣る。シグラは困ったような表情をして首を傾げた。

[ビメの事もビメの父の事も興味がなかったから、詳しく知らないんだ、ごめんね、ウララ]

シグラには(ビメ)(ブニ)がいるが、全員父親が違う。

そしてビメの父親がシグラの生家に来た時には既にシグラは家出をした後だった。その後もシグラは一度も生家には戻っていない。


[ビメの父親は弱くなかったぞ。ビメの目には弱く映ったんじゃろうがな]

通りすがりのアガレスが気まぐれに3人の会話に混ざる。長命で好奇心旺盛のアガレスは色々な言語を知っており、勿論英語も堪能だ。

[少なくともミクよりは強かったぞ。シグラやビメの母竜の二番目の夫じゃからな、弱いわけがない]

[二番目の夫とか、関係があるんですか?]

ウララが何気なく問いかけると、ブエルとアガレスは揃って[勿論]と肯定した。


[ドラゴンの雌は番を亡くす度に力を失っていくんだよ。本能的に番の雄に対して嫌悪感を抱くことは止められないが、番の雄が死んでしまうと悲しくてどん底まで落ち込んじゃうんだ]

[ストレスに弱いドラゴンにとって、それはかなりのダメージになるという事じゃ]


[ドラゴンの雌は番の雄に対して愛情はあるんですね]

ウララは何度か“ドラゴンの雌はDV、モラハラ体質”だと聞かされていたので、失礼ながら意外だなと思ってしまった。

それに対してブエルは[個体差によるけど]と前置きをし、

[雄に異性を弾く結界を張るのを許している時点で愛情はあると思うよ。雄よりも雌の方が強いんだから、嫌なら結界など容易く破れるからね]

と言った。

ブエルの言葉に“確かに”とウララも思う。

異性を弾く結界なんて独占欲の塊だ。ドラゴンは雄も雌もプライドが高いので、格下相手にそんな真似をされたら怒り狂うだろう。それにも関わらず許容しているという事は……つまりそう言う事なのだ。


うむ、うむ、とアガレスは何度も頷く。

[そして弱体化した雌にはそれ以上に弱い雄しか求愛してこん。つまり最初に番になった雄が一番強く、それ以降は雌自身の弱体化に伴って弱い雄と番になっていくわけじゃ。まあ、大抵の雌は3度目の番との死別で一層老け込み、庇護するべき子竜がおらんかったらそのまま衰弱死してしまう。シグラの母親も末っ子のブニを独り立ちさせた後に衰弱死した]


アガレスの言葉にウララはぎょっとして反射的に[それは軽々しくしていい話題ではないです!]と抗議した。実母の死の話題を、本人(シグラ)の前で世間話をするように出していいモノではないとウララは思ったのだ。

……当のシグラは気にした風もなく、ウララを動揺させるようなことを言ったアガレスに抗議の視線を送っているだけだが。


話は元に戻すけど、とブエルが口を開く。

[つまるところ、番同士になったら雌は雄に対して嫌悪感を持つようになる。好きな相手にそんな感情を持ちたくないリュカはオティスの求愛を断っている……と、私は考えたわけだよ]

[なるほど]


結局のところ、真意はリュカ本人にしかわからない。相談を持ち掛けたオティスもいないことだし、この話題は此処で一区切りを付けたのだった。





「うらら、げんきないけど、どうしたの?」


すっかり当たり前になった、眠る前のウララとシグラ、2人だけの時間。今夜も2人は隣り合って取り留めもない会話を楽しんでいた。


「え、元気ないように見えた?」

「うん。ブエルとアガレスとの おはなしのあとから。あのふたりが、へんなことをいった?」

「ブエルさんたちは関係ないよ。……ただ、リュカちゃんが可哀そうだと思って……」

オティスの相談のあと、ブエルとアガレスから聞いた話でドラゴンの雌がかなり不憫な存在だとウララは気付いてしまったのだ。

それまで雌のドラゴンは唯我独尊を地で行くような、女王様のようなイメージがあったが、そうではなかった。彼女らには彼女らの深刻な問題を抱えていたのだ。

「うらら……」

ウララの落ち込んだ様子を見たシグラは悲しそうな顔をし、それからすぐに此処にはいない人物に毒づく。


―――昼間は勝手に満足して行ってしまったが、きちんと釘を刺しておけばよかった


シグラが心の中で毒づく相手はオティスだ。


同じ雄のドラゴンとして番を望む気持ちはわかるが、しかし大事な相手の気持ちを蔑ろにしてまで番関係にこだわる必要は無いとも思うのだ。

未来の世界のブネと賢者を見習えばいいとも思う。

未来の世界のブネは賢者と番関係になりたいが、いくつもの理由があって賢者がそれを望んでいない為に我慢している状態だ。それでも賢者との間に子供を何人も儲け、ブネは幸せそうだった。


本当にリュカの事が大事なら、オティスはリュカの想いを尊重するべきなのだ。そしてリュカはオティスが大事だからこそ番関係になりたくないのだとオティスは理解するべきだ。


「つがいにこだわらず、けっこんすればいいのに」

「結婚?」

「そう。ぶねとけんじゃのように」

「ブネさんは賢者さんに合わせているだけなんじゃないの?結婚は人間の習慣であって、ドラゴン同士ではあまり重要なものじゃないでしょう?」

「たしかに、どらごんにとって だれかに“ちかい”をたてる けっこんは、するいみが わからないかもね。でも、ぶねにとっては とても たいせつだとおもうよ」

「大切?」

ウララは不思議そうに首を傾げた。

「けんじゃと いっしょにいられる しゅだん だから」

番になれないのなら、結婚制度で縁を繋げるしかない。


「……そっか。リュカちゃんはそんなブネさんと賢者さんを見て育ったのか」

ウララはそうぽつりと呟き、少し考える素振りを見せた後、「もしかして」と顔をあげた。


「リュカちゃんは、オティスさんからのプロポーズ待ちとかだったりして」


「ぷろぽーず?あ、[プロポーズ]か」

シグラがたどたどしい日本語から流暢な英語で言い直すと、ウララは「うん」と頷いた。

「つまり、リュカちゃんはオティスさんと番になるんじゃなくて結婚したいってこと」


番関係にならずとも互いを思い合うブネと賢者(りょうしん)がリュカにとっては理想なのかもしれない。


今度はシグラが首を傾げる番だった。

「りゅかが それをのぞんでいると わかれば、おてぃすは すぐに こうどうにうつすとおもうけど」

「オティスさんの落ち着きなさからして、結婚をしている様子ではないよね。指輪もしていなかったし。つまりリュカちゃんはオティスさんに結婚を望んでいる事は伝えていないんだと思うの」

「?どうしてだろう?」

「一つだけ心当たりがあるんだよねえ」

ウララは苦笑して「一応言っておくけど、これはあくまで私の想像の域なんだけど」と前置きをして改めて口を開く。

「ほら、私もキスとか、その……色々な初めては結婚した相手にあげたいっていう拘りがあるでしょう?それと同じで、リュカちゃんも結婚に関して何かの拘りがあるのかも。白馬に跨った王子様が迎えに来てくれるとか、ロマンティックにプロポーズして欲しいって感じだったり、ね」

「ろまんてぃっく」

「女の子の大半は一度は夢見るんだよね。あはは、まあ、私の場合は自前の翼で異世界から飛んできてくれたけど」

シグラに対して“責任をとれ”とウララが騒いだのも良い思い出だ。


「こだわりがあるなら、やっぱり おてぃすに いわないと いつまでも かなわないとおもうけど」

「プロポーズの催促はしたくないんじゃないかなあ。それに雰囲気には特に拘りはなくて、単に“リュカちゃんと結婚したいからプロポーズする!”って思い至ってからのオティスさんのプロポーズが欲しいって事もあるかもしれないし。それだと余計に催促なんて意味ないし」

「もしも それが あたってるなら、たにんが どうこう いうべきじゃないねえ」

「でしょう?」


今の所オティスは番関係になる事に固執しているようだから、結婚なんて頭にも無さそうだ、とシグラは思う。更に、暫くはリュカの願いも叶えられないだろうなとも思う。


―――まあ、ドラゴンである彼らには永遠とも思える長さの時間がある。焦る必要などないか


そう結論付け、シグラは隣に座るウララを見遣る。

ウララは“番関係ではなく婚姻関係になれば本能に縛られることはない”“リュカも幸せになれる”と気付いたからか、既に憂いた様子はなく、いつもの調子に戻っていた。

それを嬉しく思い、シグラもいつも通り彼女にすりすりとじゃれついたのだった。


12月に出すつもりだったのに、2月になってしまいましたorz


遅くなった理由はいくつもあるんですが、一番の要因は、この番外編の他にもう一本長い番外編(3万字越えの時点でまだ書き終えていない)を書いていたことだと思います。orz

でもこれ、連載終わってから出すべきだろうと思い、一旦はお蔵入りです。

ちなみに1000年後のお話でした(ノ∀`)


これからもよろしくお願いします!

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