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ナベリウスとアミー

[あそこにキララがいるのに……]

カエデの乳母の屋敷の二階窓からニホン公爵家の屋敷を見るが、高く聳える白壁が邪魔をして敷地内を見る事は出来ない。

[キララのことじゃから、すぐに外に出ると思ったんじゃがのう]

[きっと公爵家の人達に止められているんでしょうね]

[日本人の味方だって話だから、キララの我儘を受け止めてくれると思ったんだけど……人間の気持ちってよくわからないなあ]

私の後ろではアガレス、ロノウェ、ブエルが言葉だけ深刻そうな雰囲気を出しつつ、バスコンから持ち出したノートパソコンを囲んで英語圏の映画鑑賞をしている。

身動き一つ取らずに重苦しい空気でいろとは言わないが、いまいち緊張感に欠ける名のある精霊達だ。


『駄目だ』


一方で、私の隣ではシグラとバティンが静かに言い合っている。バティンは早口の上に言葉遣いが乱暴な事もあって私は殆ど聞き取れないが、シグラは淡々と『駄目だ』『許可しない』『黙れ』の3つで返事をしている。

2人の会話に介入する勇気はなく、取り敢えず傍にいるライとレンに“シグラ達は何を言い合ってるの?”と尋ねる。

レンが[あのね、]と口を開いたところで、ライがそれを手で制す。そして

[バティンさんはシグラさんの結界の中には干渉出来ないという話があったでしょう?]

バティンの能力は瞬間移動だが、何故かシグラの結界の中には入り込めないというものだ。そのことを思い浮かべつつ頷くと、ライが[そのことで色々と実験したいから協力してくれと言っているんですよ]と教えてくれた。

ああ、だからシグラは断っているのか。と、私は納得した。


ちなみに後日、一段落した後にレンからこの時の事を“ライが聞かせてくれた話の他に、ガラパゴス化しているニホン公爵家にも興味が出たバティンが『日本人であるウララ(わたし)が直接公爵家にキララを引き渡すよう言いに行けば良いんじゃないの?』『そして公爵家と自分(バティン)の縁を繋いでくれ』という旨の提案もしていた”と聞かされる事になるのだが、まあこれは蛇足だ。


閑話休題。


“そう言えば、”とふと思いついたようにアガレスが口を開く。

[ニホン公爵家の屋敷にもウァサゴの樹は植えられておるのかのう?]

ウァサゴの樹……名のある精霊ウァサゴやその加護を持つエルフならその樹の記憶を見る事が出来るって話だったっけ。監視カメラのようなものだと私は認識している。

[確か、大抵の貴族の家には植えてあるという話でしたね。ですが、仮にニホン公爵家に植えられているとしても、ウァサゴの能力を持つ者がその樹に触れないと、樹の記憶は見えないんでしたよね?]

ウァサゴもその加護を持つエルフもいない上に、直接公爵邸に植えられた樹に触れないといけないのだから、今の状況ではあまり役に立たないだろう。

私の言いたいことが伝わったのか、アガレスは[うーむ。まあ、一般的にはそう言う事になっておるがなあ……]と呟いた後、少し席を外すと言って部屋から出て行った。


意味深な感じだったが、何だったのだろうと不思議に思いつつ、私は視線をシグラとバティンの方に向けなおした。





そろそろ陽が落ちてきそうな頃になった。

相変わらず私達はキララが行動を起こすのを待っている。

あれからアガレスは何事もなかったように部屋に戻って来た。一応あの意味深な言葉が気になって訊ねてみたのだが、[そんな事言ったかのう?]とはぐらかされてしまった。

[まあ、何じゃ。キララなら大丈夫じゃろう。あやつはマイペースな娘っ子じゃからな]

[え、ええ。確かにあの子はマイペースな子ですが……]

[公爵家にはシグラの加護を持つ男もおるし、ニホン公爵も日本人には好意的じゃしな]

まるで確信めいたような言い方にやはり不思議に思ったが、アガレスはDVD鑑賞をしようとブエル達の傍に寄って行ったので、会話は此処で終わった。


シグラはバティンに付き合うのに飽きたのか、私の肩に自身の肩をくっつけて座り目を閉じている。



―――刻々と時間が過ぎている中、最初に異変に気付いたのはブエルだった。



“!?”

ブエルが引き付けを起こしたように身体を震わせたかと思ったら、その場の空気が瞬時に変わった。

私が目をぱちくりさせていると、シグラが私の身体を抱え込み、ライはレンとククルアの元に走り寄って2人を抱えるような体勢を取った。


『何だ、何事だ?』

[な、何じゃ?どうした?]

[ブエルさんもブネさんもどうして結界を?敵ですか?]


急に警戒態勢を取ったドラゴン組とは対照的に、バティン、アガレス、ロノウェは何が起こったのかわからないと言った風に慌てた声を出す。ちなみに私は混乱しすぎて声すら出せない状態だ。

ロノウェが“結界”という言葉を使ったので、漸く私はシグラとブエルが結界を張ったのだと気づいた。そうか、空気が変わったように感じたのは檻の結界が張られたからだったのか。


[す、凄く禍々しい気配がこっちに来てたから驚いたよ]

シグラの結界のお陰で少し落ち着いた様子のブエルが半泣きで言う。それを捕捉するように

[これ、多分アミーの気配です]

とライが言う。


あ、アミーと言ったら……!


[ナベリウスさんはどうなったの!?]

アミーの気配を追っていったナベリウスの安否はどうなったのだろう?

アガレス達は当初からナベリウスの敗戦が濃厚だと予想していたが、アミーが動き出したということはそれが現実となったのだろうか。

シグラの顔を見上げると、彼は困惑したような表情をしていた。


[確かにアミーの気配もするが、これは……ナベリウスだ]

[ど、どういうこと?ナベリウスさんがアミーに追われてるの?]

それなら移動できるくらいには元気だということだ。ちょっとホッとしたところで、シグラの目が此方を向く。

[実際に見ないとどういう状態なのか正確には分からないけど、気配だけを見ると追われているというよりは、アミーの気配がナベリウスを覆っているようなんだ]

覆う?アミーの本体は炎だから、炎に包まれているということ?

[それって大丈夫じゃないよね?!]

狼姿の彼女のもふもふした体毛が炎上しているのを想像し、ぞっとする。

[ナベリウスは炎に強いから大丈夫じゃ。取り敢えずどういう状態なのか儂の方で探ってみよう]

アガレスの能力で探る方が気配で探るよりも正確だ。シグラが大まかな方角と距離をアガレスに伝えると、アガレスはすぐに位置を特定した。


[確かにこれはナベリウスじゃ。ナベリウスが炎を纏って此方に走ってきておる。どれ、話しかけてみるか]


アガレスは目を閉じて集中し始める。

無言が数分続いた後、彼はカっと目を開いた。


[どうでしたか?]

不安に思いつつ尋ねると、アガレスは長い長い溜息を吐いた。


[……どうやらナベリウスの奴、アミーに洗脳でもされたのか、身体を乗っ取られておるようじゃ]

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