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キララ、当主及び老中達と対面する:ニホン公爵視点

『え』

『は?』

老中達を連れて廊下を歩いていると、カエデの居室の襖がすらりと開いて、3人の人影が現れた。長男のヒイラギと次男のカエデ。そして……


「あ、こんにちは。お邪魔してます」

東洋人顔の女性がにこやかに日本語で挨拶をしてきた。


「ち、父上。それに老中の皆さんも……!」

カエデが無意識にか、東洋人顔の女性を私達に隠すように前に出る。そして少し後ろを振り返り「すみません、キララ殿」と東洋顔の女性にだろう、話しかけた。

「やはりお部屋の方に戻ってもらえますか?」

「いや、だからトイレに行きたいんだってば」

私は一瞬呆気にとられたが「カエデ」と次男の名を呼び、「厠にお連れしなさい」とだけ伝えた。


カエデが東洋人女性を連れていく後ろ姿を見送った後、私と老中はヒイラギと共にカエデの居室に上がった。

『あの方がこの度当家にいらっしゃった日本人女性か』

『驚きました、あれほど完璧な東洋人女性は初めて見ました』

『あの御様子なら話が出来そうじゃな』

老中達が口々にそんな事を言っている。

私達は先程まで自称日本人男性と話をしようとサツキの部屋に行っていたのだが、サツキやサツキの侍従たちにあれやこれやと言い訳をされ、結局男性との対面が叶わなかったのだ。

老中達は当主である私にも叱責するような面々なのだが、『御前様は父上や老中方とは会いたくないと言っている』と言われてしまえば、引き下がる事しか出来なかった。


私達は上座を空けて座る。

上座の対面に私が座り、私の後ろに老中4人、その後ろにヒイラギという順だ。


『ヒイラギ殿、先程の女性が件の日本人とされる女性で間違いないかな?』

老中の優男がそのようにヒイラギに尋ねると、ヒイラギは『はい』と頷いた。

『日本の歴史を知っておられましたし、間違いなく日本人の方だと思われます。伊豆キララ様と仰り、伊豆というのが苗字でキララというのがお名前だそうです』

ヒイラギは私達が来る前に既に伊豆様の人となりを聞いていたようで、前知識として我らにも共有してくれた。


『あと、これは私の主観ですが、カエデは何かを隠している様子です。父上には何か報告がありましたか?』

『いいや、私は何も聞いておらん。しかし……確かに、先程も伊豆様と親しい様子だったし、件の自称日本人男性もカエデの名を出しておった。カエデはシマネで一体何をしていたのやら』


そんな事を話しているとカエデが伊豆様を連れて戻って来た。


「へ?え?私が上座に座るの?」

伊豆様は目をぱちくりさせ、すぐに私、そして次に老爺の方に目を向けた。

「こっちの世界もこういうのは一番目上の人が座るものですよね?」

「貴方様は日本出身者であると聞いております。でしたら上座が相応しいかと」

「えええ……。せめて円座にしましょうよ。私は確かに日本人ではあるけどごく普通の一般人だし。……もしかして私の事、賢者だと思われてます?」

ざわっと老中達がざわめく。そんな私達の様子を見た伊豆様が苦笑する。

「先に言っておきますが、違いますからね。だから別に敬ってもらうような存在ではないです」

「いいえ、賢者ではなくとも日本人ですし……」

「いやいや、」


その後少し席順で揉めたが、結局伊豆様が話しやすいようにと、円座になった。


「改めまして、私はニホン公爵家当主、シンゲンと申します」

「あ、どうも。私は伊豆キララと言います」

正座をして深く首を垂れると、伊豆様もそれに倣うようにお辞儀を返してくれた。

「ええと、すみません。先に謝っておきますが、私はきちんとした礼儀作法は疎いです」

「我らに礼儀など不要です、楽になさってください。……私の他4名はこの家の老中で、老爺はフジ、優男はツルマル、片目の者はタカ、一番年若いのが私の弟でもあるユキムラとなります」

4人が揃って首を垂れると、

「あ、ご丁寧にどうも。伊豆キララです、よろしくお願いします」

伊豆様も4人それぞれにお辞儀を返した。

気安い感じの方だ、これなら単刀直入に訊いても良さそうだ。


侍女が茶を用意して部屋から下がると、早速私は話を始めた。


「先程、賢者ではないと仰いましたが、何故そのような事を仰ったのでしょう」

伊豆様はきょとんとされた。

「え?ああ。ヒイラギから聞いたんですが、何でも王都で日本出身の女性賢者が行方不明になったとか。それで皆さんが私に対して下手に出るのは、私の事をその賢者だと誤解されているのかと思ったので」

ヒイラギの奴め……シノビを使って盗み聞きをしたんだな。まあ、それくらいの行動力がなければ次代の公爵家を引っ張っていける者にはなれないか。

「ニホン公爵家の初代様は日本出身の賢者の御子です。その為、我が公爵家では日本人を奉っています。賢者でなくとも、日本人でいらっしゃる伊豆様を最上級に御持て成しするのは当然のことです」

伊豆様は困ったように笑う。

「シンゲンさんが私に対して“こうしなきゃ落ち着かない”と言うなら無理に止めませんが、本当にそこまで気を遣われなくても構いませんからね?」


私の隣に座る老爺のフジが「ところで」と少し緊張した様子で口を開く。


「私めの名前はどう思われますか?」

「名前?えっと、フジさんでしたっけ。藤の花……は男性だから違いますね。だとすると日本の最高峰である富士山からとられたんですかね?縁起のいい名前ですね」

「お……おお」

老爺のフジはどうやら伊豆様が本当に日本人か試したようだ。試すなど伊豆様に失礼ではあるが、彼女は気にせずに「そう言えば」と話を続ける。

「シンゲンさんって武田信玄ですよね。弟さんはユキムラで真田幸村だし、ご両親は戦国武将がお好きだったんですか?」

ああ……これは疑いようもなく日本人だ。

完全に伊豆様が日本人だと確証した私の目が潤む。周りを見れば老中4人も涙ぐんでいる。


「え……、どうして泣いてるの……。あ、そうだ」

伊豆様は首から下げられていた四角い箱を手に持つ。

「このカメラに入ってるデータには富士山とか鶴の写真は無いと思うけど……あった。カエデ達と遊園地に行った時の写真、見ます?楽しいですよ」

伊豆様はにこにこ笑いながら、箱を私に渡した。


「な、何だこれは!?」

箱には鮮明な絵が貼ってあった。

「写真ですよ」

「写真?写真とはガラスのアレですか?」

「ああ、この世界の写真の主流は写真乾板なんですね。うーん。まあ、それの進化版だと思ってもらえたらいいと思います」

い、いやいや、当家にも写真乾板で残した記録もあるが、アレとコレではまるで違う。

これが、日本の技術というものなのか?私達の祖はこんなにも偉大な技術を持っていたのか……!


―――ああ、だから賢者と呼ばれるのか


「こうやってスワイプ……じゃわかんないか。指で画面を軽く擦る感じで……」

伊豆様が絵を擦ると、写真 (?) が変わった。

「「「「「「変わった!?」」」」」

私、老中4人、ヒイラギの声が重なる。

「どんどん同じように擦っていけば、写真が変わりますよ」

「おおおお……」

次々と写真が変わっていく。

色鮮やかで不可思議な建造物、大きなカップに乗った子供、カラフルな食べ物を頬張る若者。写真に写る人物たちは殆どが東洋人だ。東洋人にもみくちゃにされているカエデや、カエデのシノビであるマツリの写真もある。鮮明で表情すらわかる!


「こ、これが日本、ですか?」

ユキムラが感動したような声を出す。それに対して伊豆様は苦笑する。

「まあ、日本であることには間違いないんですが、これは遊園地といって娯楽施設なんですよ。これぞ和風!というような日本的な物ではないですね。神社とか日本庭園を撮ったデータが入ったカードも車に戻ればあるんですけどね」

「あ、あの!それを見る事は出来ませんか!?」

興奮したユキムラが身を乗り出す。

「控えよ!ユキムラ!」

「大丈夫ですよシンゲンさん。ええっと、ユキムラさんの問いに答えるなら“はい”ですね」


おおお!と場が湧く。


伊豆様はカエデを見た。

「お姉ちゃんと連絡取れるかな?……というか、多分心配してると思うから、取って欲しいんだけどさ」

それに対してカエデは頷いた。

「取る方法ならいくらでも。ただ……今は外部との連絡を全て遮断していますから……」


伊豆様とカエデの視線が私に向く。2人に続いてユキムラも私を見る。更にヒイラギ、フジ、ツルマル、タカの目も此方を見た。


私はこほんと咳払いをする。

「申し訳ありませんが、今は外部との連絡は一切が出来ません。当家の一大事にて、平にご容赦いただきたく」

それに対して伊豆様は「やっぱり駄目かあ」と笑った。


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