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王家とドラゴン:セラン視点

セラン・ゴーアンラ・ゴーアン:ゴーアン侯爵の嫡男。今はゴーアン侯爵が保有する二番目の爵位であるノーク伯爵を名乗っている。参議をしている。

ルラン・フラウ・ゴーアン:ゴーアン侯爵の次男。シグラの加護を持っている。


レオナ・カリャ・ピグム子爵令嬢:精霊オリアスの聖騎士。ゴーアン家の子飼いでもある。彼女の弟と共にドラゴン工場の調査をしている。

『また内乱か。ドラゴン騒ぎに続いてどうなっているのだ』

城の一室で私を含めた参議たちが一堂に会し、話し合いが行われている。

腕組みをしている者、資料を見ている者、頭を抱えている者など様々だが、全員の表情は険しいものとなっている。

『まだ詳細な報告は来ていないが、今回はホリア男爵領に住む少数民族が首謀者らしい』

『少数民族とは言うが、ホリア男爵は鎮圧しきれるだろうか?』

『早急に国で対応すべきだ。民心が離れていく』

『南のジュジ辺境伯爵領での内乱はすぐに鎮圧出来たのだ、そこまで気にすることはなかろう』


同僚たちの話し合いを耳に入れながら、私は通信機に届いたメッセージを読んでいく。

これはドラゴン工場についての中間報告だ。通信機で送るには情報量が多いため、後日きちんとした報告書が届くだろうが、急ぎ私の耳に入れた方が良い情報だけはこうして事前に送られてくる。

今回はブネルラの巫女に依頼し、工場跡地に複数埋まっていた奇妙な女の遺体の魂を呼び寄せた結果の報告だった。

魂を呼んだところで魂が証言をしてくれるわけではないので、参考程度になるだろうと思っていたが……。


レオナはその場に死刑囚を同行させ、呼び出した魂を死刑囚に触れさせたらしい。

その瞬間、死刑囚は工場跡地に埋まっていた女たちの壮絶な死の瞬間を絶叫と共に証言した。


―――“熱い”、“痛い”、“助けて”、“私は人間だ”、“あのデブ野郎、殺してやる”、“絶対に許さない”、“王女がなんだ!くそったれ!”


絶叫の最中で聞き取れた言葉がこれだけだったらしい。

この中で気になる言葉は“王女”だ。“デブ野郎”も特定の人物を指しているのだろうが、太っている人間など該当する者が多すぎて特定はできないので一旦放置だ。


王女と聞いて、私の頭の中には瞬時にキャリオーザ王女が浮かんだ。……まあ、ドラゴン工場の情報を初めて耳にした時点で薄々キャリオーザ王女の仕業ではないかとは思っていたので、今回の話で一層彼女への疑惑が深くなっただけだが。

ルランからの報告でキャリオーザ王女は複数のドラゴンと番関係になっている事が判明している。

何せ、ドラゴンを仕入れるルートを構築するなど並大抵のことではない。それを難なく解決できる王女は彼女しかいないだろう。


……だがまあ、きちんとした証拠が無いのに決めつけるのは危ないか。


一応他にドラゴン工場を計画しそうな王女を考えてみよう。

現在のフィルマ王国には10名の王女がいる。野心は権力者ならば大抵の者が抱いているだろうから、今回はこのような大それたことが出来る資産を持つ者で区切ろう。それなら……3名まで絞り込める。

先々代の国王陛下の娘、先代の国王陛下の娘であるキャリオーザ王女、現国王陛下の娘だ。


まず先々代の娘は平民の側妃を母に持つ王女だ。平民を母に持つゆえに彼女は資産らしい資産を持たないが、平民の商人を大層大事にしており、その商人たちが王女の資金源となっている。

だが有力な商人たちの動きや金の流れは王宮の諜報員が随時監視しているので、何かしらの工場を造るという話があればすぐに此方に情報が入って来る。今回の件できちんと確認だけはしてみるが、今までにドラゴン工場の『ド』の字すら聞いたことがないので、恐らく白だろう。


次に現国王陛下の娘は現在18歳で、実家がサファイア鉱山を所有している側妃を母に持つ王女だ。彼女は母親共々、美容に命を懸けている。

そんな女性がドラゴン工場など計画するだろうか?

……まあ、不老を授けるというドラゴンの素材目当ての可能性もある……のか?私見ではあるが、彼女の様な女性は自分で何かを作り出すよりも、ある物を買おうと考えるような気がするが。それでも美容の為なら猪突猛進になる女性もいるというから、一応調べておいた方が良いか。


だがやはり本命はキャリオーザ王女だ。


急進派の筆頭である彼女の仕業だとしたら、ドラゴンを戦力に使おうと考えたに違いない。事実、既に複数のドラゴンを番にして戦力化に成功しているというし。

ぞくりと背筋が凍る。

少し前にシグラ殿が王女のドラゴン達を退けたというので、暫くは静かであろうが、もしも王女が本気で反乱を起こせば、人間である我らは対抗できるのだろうか?

陛下にキャリオーザ王女が複数のドラゴンの番になっている可能性があると報告したが、陛下は特に取り乱した様子は無かった。だから何かしらの手立てがあるのだろうとは思うが……。


ふと参議たちの話し合いに耳を傾ければ、南の辺境伯で起こった内乱と男爵家で起こった内乱についての関連性を探るべきだという話になっていた。

『まだ事例が2つだけだ。偶然に時期が重なっただけかもしれん』

『雪の季節ゆえに情報が遅れているだけで、他の場所でも内乱が起きている可能性もあるぞ』


内乱か。

……いや、待て。もしかしてこの内乱騒ぎはキャリオーザ王女の仕業なのでは……?


私の席から斜め前にやつれた様子の男が座っている。ネスト卿―――キャリオーザ王女殿下と懇意にしているという噂のある参議だ。

彼に内乱の事を訊いてみたら、何かしらボロを出すのではなかろうか。

そう思い、口を開きかけた時に『ノーク卿』と隣に座る同僚が話しかけてきた。


『南の辺境伯領についてはノーク卿の弟君が率いている軍があったため、助かりましたな』

『え、ええ。元々弟は王命によりジュジ辺境伯爵領と隣接する群雄割拠地への対処の為に軍を率いていました。今回は軍を動かす練習になった事でしょう』

私の言葉に同僚は『頼もしい事だ』と笑った。


そう、今回南のジュジ辺境伯爵領での内乱はルランが鎮圧したのだ。


国境を護る辺境伯爵領ならば自前の軍事力で内乱を治める事は出来ただろうが、今回ばかりはルランにお鉢が回って来た。これには理由がある。


この内乱の首謀者は辺境伯の三男だった。愛人に生ませた子だったらしいが、それでも辺境伯爵家の血を引いた者が辺境伯爵家、ひいては王家に弓引く真似をしたことになる。王家への忠誠心が篤いジュジ辺境伯爵は一族連座を覚悟してこの事を国王陛下に報告した。

国王は辺境伯爵のこの行動にいたく感銘を受けられ、首謀者の三男坊とその生みの母を除いた他の辺境伯爵家の面々は許された。

しかし、この内乱が三男坊の仕業であることを民衆が知れば、流石の陛下でも辺境伯爵家を庇うことが出来なくなる。だから、三男坊の顔を知らないルランに討伐命令が下ったのだ。

“ジュジ辺境伯爵領で内乱を起こしたならず者共を粛清せよ”

つまり首謀者は辺境伯爵家の三男としてではなく、ただのならず者として討たれたということだ。


何はともあれ、手柄を立てたルランはこれで授爵されるだろう。



会議の後、陛下の元にドラゴン工場についての報告をしに行った。

その際私の意見も聞かれたので、先程考えていた事柄を全て陛下の耳に入れた。


『確かにノーク卿の言う通り、キャリオーザが一番怪しい。だが……そうだな。私も心当たりをあたってみよう』


―――心当たり?


陛下はドラゴンを容易に仕入れられるルートを知っているのだろうか?だからキャリオーザ王女がドラゴン軍を作ったところで脅威ではないと考えている?


そもそもの話だが、キャリオーザ王女が複数のドラゴンの番になっているという事実もおかしな話だ。彼女はどうやってドラゴンの雄の求愛行動を乗り切ったのだ?

人間の女性でドラゴンの求愛行動を乗り切ったのは、ウララ殿とそして……


ふと、ここでルランから送られてきた眉唾な報告を思い出す。

それは黄金姫が城の地下に未だ存命しているという話だ。

確かに黄金姫がまだ存命ならば、ドラゴンの求愛行動を乗り切れる術を教えてもらえるかもしれない。

しかし、まさか本当に?本当に黄金姫は存命なのか?ルランも半信半疑の様子だったので、てっきりただの与太話だと思って聞き流していたが……。

私は疑問に思いつつも、陛下に尋ねる事はしなかった。黄金姫の事が事実ならば国家機密だ、気軽に訊いていい事ではない。



『すみません』


陛下の執務室を後にして廊下を歩いていると、金髪で青い瞳を持つ青年に呼び止められた。貴族名鑑を暗記している私でも見覚えのない青年だが、若い頃の陛下によく似た顔立ちをしている。

陛下の顔つきは王家の人間に現れやすい顔つきだ。もしやこの青年は王家の血を引いているのだろうか?


『国王陛下は執務室にいらっしゃいますか?』

『失礼ですが、貴殿は?この場所の立ち入りは制限されている筈ですが』

陛下の執務室に続く廊下なのだ、王家の者とは言え軽々しく立ち入ることは出来ない。

警戒する私に青年はにこりと笑う。

『貴方はノーク卿ですね。私はヤハルと申します。騒がれたくはありませんので、シグラ殿の知り合いとだけ言っておきましょう』

『え……!?』


我々ゴーアン家と縁のある紅竜の名に、ぎょっとして目を見開く。そして気が付いた。

ヤハルと名乗った青年の青い瞳は、猫や蜥蜴のように縦に細長い瞳孔をしているのだ。


『き、貴殿は……』

『では失礼いたします』

ヤハルはもう一度微笑むと、陛下の執務室の方へと歩きだす。


私の脳裏には“陛下の執務室近くに現れた青年”“陛下によく似た顔つき”“黄金姫”“ドラゴンの仕入れ先”“貴族名鑑には載っていない青年”“細長い瞳孔”“シグラ”という情報の断片が浮かぶ。


そして無意識のうちに私は腕を伸ばしており、ヤハルの肩を掴んでいた。

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