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慮外者:シグラ視点

食前酒を飲んだあたりから顔が赤くなったと思ったが、食事が終わり給仕の女が下がってすぐにウララは長椅子に沈んだ。どうやら酒に弱いらしい。

「大丈夫か?姉」

「うーん……ふわふわするー…異世界のお酒、つよすぎ……」

「駄目だなこりゃ」

はあ、とキララが呆れたように溜息を一つ。

「私は風呂の準備をしてくる。入りたいなら水でも飲んで少しでも酔いを覚ませ」

それだけ言うと、キララは続き部屋の扉の方へと行ってしまった。


「うらら、みず、のめる?」

「うー…ん、喉、乾いた…」

覚束ない様子で起き上がろうとするので、慌てて体を支えてやる。

握力がないのか、硝子の器を差し出してもつるつると落としそうになるので、私が器を持って飲ませようとするのだが、上手くいかずけほけほと咽させてしまった。

「ごめん、うらら」

「大丈夫ー。はあ……」

だらん、と体を弛緩させて私に凭れ掛かってくる。相変わらず柔らかい身体だ。


「?」

不思議な感覚が胸に込み上げてくる。

これはウララが微笑み返してくれたり、ウララが私の事を気遣ってくれた時に湧いてくるものだ。

心臓を締め付ける様な、むず痒いような感覚……。


「あれ、寝たのか?仕方ないなあ」

風呂の準備に行っていたキララが戻ってきた。

「姉は朝風呂で良いだろ。私は風呂に行ってくるから、シグラは姉をベッドまで連れて行ってやってくれ」

「わかった」

怪我をさせないように慎重に彼女を抱き上げ、寝床に連れて行き、降ろす。

ウララの寝顔を見ていると傍で眠りたい欲求が出てくるが、同じ寝床で眠る事は禁止されている。

傍に居る事を禁止されていない椅子なら抱きしめていられるのだが、きちんとした寝具ではない場所で寝させるのはウララの身体に負担がかかりそうで出来ない。

「ん?」

口元がきらりと光ったので、何かと思えば唇が濡れていた。先程咽たせいだろう。指でそれを拭ってやると、ふにっとした感触が伝わってくる。

ウララは何処もかしこも柔らかいが、唇は特に柔らかい。触れているかどうかも曖昧なほどに。


「ん……」

唇同志で触れて、漸くはっきりと感触がわかる。

何度も角度を変えて、押し当てる。たまに挟んで遊ぶと、ウララが鼻にかかった声を出した。

はっと我に返ってウララから体を離す。……無意識でやってしまった?


「しぐら……」

「うらら?どうかした?」

先程の行為で起こしてしまったのかと焦る。しかし、ウララは気にした風も無く「おみず…」と呟いた。

「のど、かわいた?」

「うん」

急いで机の上に置いていた器を取り、水差しから新しい水を足してウララの元へ戻った。

だが、その瞼はすでに降りていた。また眠ってしまったようだ。

喉が渇いたままなのは可哀想だが、眠っている時に飲ませるのは危ない。仕方なく器に指を入れて水で濡らすと、ウララの唇にそれを押し当てた。湿らすくらいなら大丈夫だろう。

「んー…」

「!」

無意識に水を求めたウララが指に吸い付く。

また、心臓を締め付ける様な感覚がする。


「何やってんだ?」

風呂から上がってきたキララがぺたぺたと足音を立てながら、寝床に来た。


「うらら、のどかわいたって」

「寝てんなら仕方ないだろ。姉は私が看ているからシグラは風呂行ってこい。風呂場に着替えが置いてあったから、それ使えよ」

「わかった」



風呂からあがると、寝床はカーテンが閉められていた。

「うらら?きらら?」

カーテンをはぐって中に入ると、二人はすやすや眠っていた。ウララは見覚えのない薄手の白い服を着ていたので、キララが着替えさせたのだろう。

「おやすみ、うらら」

幾重にも結界を張り、カーテンの外に出た。


部屋の中にあった本を数冊持ってきて机に置き、長椅子に座る。

どうやら貴族という職業のマナー本のようだ。

ダンスの教本もある。ロナと一緒に見たアニメで、種族の違うつがいが踊りをしていたな。

良くわからないが、人間は番で踊るらしい。ならば、私も覚えておいた方が良いだろう。


パラ、パラ、とページを捲っていると不快な気配を3つ、外に感じた。

……さて。


扉が音を立てずに開いた。そこは評価しよう。

だが、私の番の傍に寄るのは許さない。


『……っ!!』


入ってきた瞬間、輩共にそれぞれ膜状の結界を張る。この結界は牢屋のようなもので、外部と内部を遮断する。そして結界の中でしか移動が出来ないものだ。


聖騎士の鎧とやらを身に付けてはいるが、顔に見覚えは無い。

肩の紋章もあいつらのものとは違う。

『貴様!我らを誰だと心得ている!!』

『精霊アミー様より神罰が下ると知れ!!』

『不浄な貴様らに目をかけてやろうとしたのに、この恩知らずが!』

きゃんきゃんと騒ぐので、部屋の外が煩くなる。

檻の結界に閉じ込めたのが生き物ゆえに、空気の流れまでは遮断しなかったので、中の声がダダ漏れだ。ウララ達が眠る場所には防音の結界を張っているので、この慮外者を閉じ込めた結界に防音結界を重ね掛けしなかったのが失敗した。

『シグラ様!奥様!』

ルランが剣を構えて部屋に入ってくる。私の番の眠る場所に来るとは躾がなっていないな。こいつも閉じ込めようか?

『下がれ。此処には私の番が居るのだ』

それにしてもこのルランという男、ウララに親切であるから放っておいているが、どうにも気に食わん。


『そうだ!その番の女を我が教会に献上しろ!!』

『人間の尊厳を冒涜し、ドラゴンなどという魔獣を夫にした汚らわしい女!それを貰い受けに来てやったんだ、光栄に思え!』


―――折角、命まではとらないでやったのに


檻の結界の中が青く光る。小煩い時空の概念の視線を感じるが、知らん。

これくらいなら時空を歪めるほどの力ではないだろう?


『屋敷にもっとまともな結界を張っておけ。慮外者などにウララの眠りを妨げることは許さぬ』

カーテンの向こうへ行けば、二人分の寝息だけが聞こえてくる。


ウララの顔を見下ろす。

番のことになると、つい冷静さをなくしてしまうのは、ドラゴンの本能か。

「はあ…」

竜族は番の傍にいれば気分が安らかになり、大抵の事はどうでもよくなるが、今は苛々が全く収まらない。

何故収まらないのだろうか。番の傍にいれば気分が良くなるのもまたドラゴンの本能だ。ならば本能同士で相殺するはずなのに。


とにかく自制しなければならない。


私が残虐な事をしていると知れば、ウララはどう思うだろう。



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