表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
336/347

使い道:(前半:キャリオーザ視点)

未来人が此方に接触してきたのは、わたくしがブネの住処に行って空振りに終わった後の事だった。


当時のわたくしはとにかくブネが欲しくて、奴を探そうと各地に間者を放ったり、ドラゴン討伐を生きがいにしている勇者達に探りを入れてみたりと必死になっていた。その時ブネの情報を持っているという人間が現れた。それが未来人だった。

彼らはわたくしの望む言葉を絶え間なく吐き続けた。手土産だってわたくしの好みから外れたことは無い。だからすぐにわかった。―――彼らは敵だと。

しかし彼らの後ろにいる黒幕がわからなかった。

国王か、王太子か。フィルマ王国内にあるわたくしの敵対勢力の誰かかとまず考えた。だが、いずれも違った。ならば味方の誰かが裏切ったかと思ったが、それもやはり違う。国外の勢力でもなく、ましてやブネルラでもなかった。


正体不明の敵を放置など出来ない。しかし彼らの持つ不思議な道具はかなり有用だった。だから今すぐに殺すのは止めておいた。


面倒だがわたくしが彼らから情報を聞きだすしかなかった。

手っ取り早く妖精草の毒で懐柔出来れば良かったのだが、彼らは魔法を使えないくせに全員妖精草に耐性があるようだった。本当に面倒だと思った。


さて、どれが一番懐柔しやすいか。

暫く彼らに唆されたフリをしながら様子を伺た結果、将軍、技師、工作員の3人なら簡単に堕とせると判断した。彼ら3人は余程自分に自信があったのか、わたくしの事を見下し侮っていたのだ。失礼な者どもだと内心憤慨したが、この手の感情を持つ人間を堕とすのは容易い。

対して科学者と医師とエルフは無理だと判断した。彼らはわたくしに対して何の感情も寄せていなかったのだ。まるで無機質な人形をみるような目でわたくしを見ていた。時間を掛ければ何とでもなったかもしれないが、そこまでわたくしも暇ではないので、手に入らない者は排除する事にした。


徐々に徐々にわたくしという存在を将軍達の心に侵食させていく。


まずは軽く距離を縮め、その延長で体に触れさせ、その後は欲を満たしてやる。上位者の傲慢さを持つ彼らはわたくしの事を都合のいい玩具として弄ぶ。その慢心にほんの一滴の妖精草の毒を垂らしてやった。

丁寧に時間をかけて少しずつ妖精草とわたくしを与えていく。警戒されないよう、決して与えすぎず、徐々に徐々に。すると彼らは自分が上位者であると勘違いしたまま、わたくしの手の中に堕ちた。


妖精草の中毒状態になった3人の目を覚まさせないためにも、将軍を煽って早々に医師を遠くの地に飛ばし、科学者とエルフの2人も王都から追い出した。


邪魔者がいなくなってからは将軍達の洗脳を本格的に進め、そして……聖女の神殿がある街でわたくしがブネに殺されそうになり、命辛々王都に逃げかえった後、彼らの口から自分たちが未来人であると告白されたのだった。


『未来の知識を持ち、未来の技術の結晶であるナノチップを持つ我らならば、ブネを殺すことが出来る!』


彼らはわたくしがブネに殺されそうになったと聞き、憤慨していた。そしてブネを殺すためにと、ありとあらゆる知識を吐き出してくれたのだ。

愚かだと思った。

その知識をもってしても、未来の世界ではブネを殺すに至らなかったくせに。


―――ただ、使える知識はあった。それを利用すれば、きっとわたくしの願いは叶う


わたくしは、わたくしを見下す存在を許容しない。権力を持つ王、破壊力を持つドラゴン、異端な知恵を持つ賢者、愛を布教する聖女、自分の成す事全てが正義だと主張する勇者、数多くの信徒を持つ名のある精霊達。全ていらない。

これら全てを破壊し尽くせるブネが欲しかった。だが、既に番を得たブネを手に入れる事は不可能だ。

だからブネを使うのではなく、未来人の智慧を使う。


絶え間なく届く調査書から顔を上げ、傍に控えていた貴族の男に目を遣る。興味が無くて名前は忘れたが、彼の役職は参議だ。

『一斉に蜂起させず、順に蜂起させなさい』

『恐れながら、事を起こすなら一斉にした方がよろしいので…ヒっ!』

わたくしに意見を言おうとした参議を睨む。従順な彼はそれだけで態度を改めた。

『……畏まりました、キャリオーザ王女殿下』

それでいい。


これからこの国では、各地で多くの暴動が起こる事になる。一つ一つを見れば大したことのない小規模な物だが、それぞれが少しの話題にさえなれば良い。


全ては、わたくしの願いの為に。


『……ん?』

通信機がメッセージを受信した。子飼の者からだった。

『ブネの番の妹の扱いをどうするか?』

何の事だ、と一瞬思ったが、そう言えば先日ブネの番の妹を拉致してきたという報告があったのを思い出した。


ブネの番ならまだしも、妹を攫ったところで何が出来るのだ。番ならばブネを釣れるだろうが、それの妹となると、ブネも興味はないだろう。

子飼達はブネの番がブネを動かす筈だと考えて拉致してきたようなので、念のために未来人に“ウララ”とその妹の関係を訊いたが『特に情報はありません』と言われた。ウララの妹は未来の世界には存在していないらしい。つまり、人間の寿命で死んだということだ。

ドラゴンの血で永遠の命を授けられるというのに、それを与えていないという事は、その程度の関係なのだ。希薄な関係だったゆえに、後世に語り継ぐこともなかったのだろう。

以上の事から、ウララの妹にそこまでの価値を見出せなかった為、最初の報告を聞いた時には放置していた。

この時の判断は間違っていなかったと、今では確信をもって言える。

何故なら、それを裏付けるように、数日たった今も紅竜が人を捜索しているという話は聞かないからだ。番の命令に忠実なドラゴンが動かないのなら、ウララは妹を見捨てたのだ。


『引き続き放置で……いいえ、ウララの妹という事は異世界人ね。つまり賢者相当か……』

何かしらの異端な知識を持っているかもしれない。……まあ、未来人の知識を得た今となっては、特に必要はないか。

脳裏に少し前に王宮から連れ出したルミカの事が浮かぶ。アレも大した知識は持っていなかった。


ルミカは目障りだったので、あの手の女が一番嫌がる場所にご招待してやったが、ウララの妹に関しては今のところ特に何も感じない。賢者としてわたくしを見下すのなら殺すのだが……。


『考えるのも面倒……、ああ、そうだ。良い事を思いついたわ』


使い道が無いと思ったが、よく考えればわたくしの計画に使えるではないか。



■■■



[戦争屋を見失った!?]


キョートの街から少し離れた場所で車に乗って待機していたところ、最悪な情報が私達に齎された。

それを報告してくれたのはブエルルラのエルフだった。

戦争で活躍する団体の為、戦争屋は治癒系に特化した名のある精霊の加護を持つエルフを多く雇用しているらしい。残念ながらブエルがシグラの関係者と見なされたのか、キララが連れていかれた拠点地にブエルルラのエルフはいなかったが、ブエル以外の治癒系に特化した名のある精霊のエルフはその場にいたらしい。加護を与えてくれた精霊は違えど、同じ治癒系の力を持つエルフ同士の繋がりがあり、今回は特別に情報を流してくれたそうだ。

[ハルファスの仲間が魔法陣で……だそうだよ]

[そんな……]

折角、相手に気付かれないようにバティンの力を借りて此処まで来たというのに!

私の隣では、心配そうな顔をしたレンがライの服の袖を握る。

[何か手がかりは無いんですか?]

ライがそう言うと、ブエルは通信機を振りつつ[そこまでは書いてないね]と答えた。

[一応、手掛かりはないか訊いてみるよ]

[お願いしま……]


[嫁御、キララを見つけたかもしれん]


私達の会話を遮るように、アガレスの声が響いた。アガレスは今馬車の二階にいるので、私達は大慌てで車を降りて馬車の二階を仰ぎ見た。

[居たんですか!?キララが!]


アガレスは私の問いには答えず、何かを探るように目を瞑っている。そしてカッと目を見開くと[やはりキララじゃ!]と声を上げた。


[場所はニホン公爵邸、門の前じゃ!]

[ニホン公爵邸!?]


[マダオが保護を求めた公爵邸の様子が気になって探っておったのじゃ。大騒ぎになっておるじゃろうと思ってな。家屋全体に防音の結界が張ってあるせいで内部の様子はわからんが、室外の、門や庭には張っておらん。それでキララの声が聞こえたんじゃ]


ニホン公爵家がキララ誘拐に加担している?それともキララが戦争屋の手から逃げてニホン公爵邸に駆け込んだ?などなど疑問がドっと頭に浮かんだが……それよりも。


[良かった……キララをまだ見失ってない]

私と、そしてライとレンは、安堵からへなへなとその場にへたり込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ