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キョートの街、到着

小寺……大学の准教授で、フィールドワークの途中に未来の日本に飛ばされてきたシグラ、ルラン、ジョージと出会う。

バティンは任意の場所に瞬間移動が可能なのだそうだが、バスコンとそれに付随する馬車がそれなりに大きいので、広い場所を移動ポイントにした方がいい。そのため、テランが確保してくれた宿屋の駐車場ではなく、キョートの街に入る手前の空き地を指定した。予めテランにもそのことは伝えているので、移動ポイントの人払いは済んでいると思う。


バスコンに私、シグラ、ライ、レン、ブエルが乗り込み、

馬車にアガレス、アガレスのペットのクロ、ロノウェ、ククルア、マダオが乗った。


意外だったのがブエルだ。シグラもアガレスも、ブエルは付いて来ないだろうと思っていたようだが、彼女は当然のようにバスコンに乗り込んでくれた。

彼女曰く“シグラが結界を張るなら、その中が一番安全”だそうだ。

ブエルルラのエルフ達が付いて来たそうにしていたが、大勢で行動すると目立つからと郷に待機するようブエルが命じていた。ただ、王都やニホン公爵領で活動しているブエルルラのエルフとは現地で合流する予定ではある。


『よーっし!準備は良いかあ?』

バティンが外でバスコンの車体に手を置きながら、声を張り上げる。

「何で私が馬車(こちら)側に乗るんですか!私は女の子と……!ウララさんとブエルさんの乗る方に乗りたいです!」と若干1名が不満を言っているようだが、聞き流す。


『じゃあ行くぞー!』


その掛け声と共に瞬時に風景が変わった。





車のフロントガラスの向こうに林が広がっている。瞬間移動は成功したのだろう。


『お待ちしておりました!』


私とシグラが運転席から降りると、テランが駆け寄ってきてくれた。相変わらず女性と見間違われそうな容貌をしているが、ロノウェは彼に対してどのようなリアクションを取るのだろうか。ちょっと気になる。

そんなテランは此処まで私の愛車(ラングちゃん)で来たようで、彼の後ろにはラングちゃんが停めてあった。


―――……あれ?


『なべりうす、どこ?』

テランと共に行動をしている筈のナベリウスの姿が見えず、尋ねると、テランは『あー……』と微妙な表情になった。

『ナベリウスさんは朝になって気が付いたら居なかったんです。恐らく深夜のうちに宿屋から抜け出したみたいで』

『何処に行ったんだ?』

『言付けも書置きも無いので正確にはわかりませんが、名のある精霊アミーのもとかもしれません』

そう思った根拠として、前日にナベリウスがアミーの気配があると言っていたことをテランは教えてくれた。


『アミー?それって、シマネで僕らを襲った奴ですか!?』


エントランスドアから降りてきたライが血相を変えてテランの前に出た。

シマネでレンに危害を加え、更に私の事を酷く侮辱したとして、ライや(此処にはいないが)コウはアミーに対してかなりの怒りを覚えていた。

ライの剣幕にテランは少し仰け反りつつ、『はい』と頷いた。

「……このへんで、あみーの けはいは、かんじないよ?」

シグラが怪訝そうな顔で言うと、「それは探知妨害の結界を張ってるからでしょうね」と馬車からロノウェが降りてきて私達の会話に入った。意外にも彼女は女性のような顔のテランを見てもノーリアクションだった。

「ナベリウスさんは嗅覚で感じ取ったのだと思います。ですがアミーさんですか……。ナベリウスさんとはあまり相性は良くないですね」

「確かにな。まあ、ナベリウスじゃから大事にはならんとは思うが」

続いてアガレスも此方に来た。

ロノウェとアガレスの言葉に、私は「ナベリウスさんでは負けるというのですか?」と問う。

「うーん。純粋な力比べならナベリウスの方が強いんじゃが……なあ?」

「そうですね。ナベリウスさんの戦い方は力押しですから。ずる賢いアミーさんに手玉に取られるのがオチでしょう」

2人の言葉の後、ライがしみじみと「あの人、脳筋だからなあ……」と納得していた。


「そもそもの話、ナベリウスが名のある精霊と言われておった所以は、膨大な魔力の持ち主じゃからなんじゃが……、」

「魔力?ナベリウスさんは魔法が得意なんですか?」

「考えるのが面倒だと言って強力な魔法を編み出そうという気はなかったようじゃがな。更に奴はシグラに恋慕しておったから、ここ最近は物理で殴る方に専念しておった。じゃから実質、ほぼ宝の持ち腐れ状態なのよ」

ドラゴンは魔法が一切効かないから仕方がない。

「それにナベリウスさんの使える魔法は確か炎系と毒系だった筈です。だから炎のアミーさんとは本当に相性が悪いんですよ」


びっくりするくらい、ナベリウスの不利な情報しか出てこない。

私が不安そうな顔をしたからか、シグラが“だいじょうぶだよ!”と力強く言ってくれた。


「だいじょうぶだよ、うらら。なべりうすは けっこう がんじょうだから、かんたんに しなないよ。あんしんして」

「まあ、そうじゃな。炎同士で攻撃する分は相性が悪いが、言い換えれば防御する分には炎に強いという事じゃしな。ナベリウスなら負けても死にはせんよ」

「ナベリウスさんに加勢したいところですが、か弱いキララさんの一大事ですからね。私はキララさん救出に全力を尽くさせていただきます」


それだけナベリウスの力を認めているのだろうけど、何だか皆、雑だなあ……。

ナベリウスが強いのは私も分かっているけど、やはり心配になる。一番に考えるのはキララの救出だけど、余力があるのならナベリウスの援護に出向くことも考えよう。



私達はひとまず拠点にした宿屋に向かう事になった。

此処まで瞬間移動で送ってくれたバティンは、引き続き私達に同行するそうだ。どうやら本気でシグラと話をしたいらしい。ただ、バスコンに乗せるのはシグラが拒否したため、移動の際には馬車に乗ってもらった。

テランはラングちゃんに乗ってバスコンの前を走っている。アルク伯爵領からニホン公爵領までラングちゃんで走ったからか、運転技術がかなり上がっているように見える。


車で走る事5分程度でキョートの街が見えてきた。

街に入る為の列が相当長い。まあ、ニホン公爵の本拠地だから仕方がないか。

しかしテランはその列には並ばずに別の道に逸れた。どうしたのだろう?と思っていると、前方に誰かがいるのが見えた。あれは……カエデの従者のマツリだ。

マツリは重厚な門扉の前にいて、私達が着くとそこを開けてくれた。後で聞いたところによると、此処はニホン公爵家関係者の専用出入り口なのだそうだ。

そのまま裏道を通り、お目当ての宿屋の駐車場に着くと、そこでエンジンを切った。


『キョートの街では奥様は此方をお付けください』

運転席から出ようとしたら、テランが慌てて此方に走って来て赤の布地に花模様がついた着物を渡してきた。

これに着替えろということだろうかと首を傾げると、テランは着物を頭から被るような手振りをした。

「あ、被衣(かづき)ですね?」

日本では、女性が外出する時に顔を出さないように着物を頭から被っていた時代があった。きっと被衣が一般的だった時代の日本出身の賢者が居て、その子孫が広めたのだろう。

『ニホン公爵家の本拠地であるキョートの街ではシマネの街よりも気を付けなければなりません。日本人であるお顔を見られない為にも窮屈かもしれませんが、ご容赦ください。……ご安心ください、義務ではないので全員ではありませんが、ニホン公爵領では着物を被る女性はそれなりにいるんです。だから悪目立ちはしません』

『ありがとう』

『出来れば日本語もあまり口にされませんように』

確かにそうだ、シマネのカンベの時のような事になりかねない。

私は頷くと着物を頭に被り、バスコンから降りて宿屋へ入った。


さて。私達は一旦、この拠点で待機だ。

と言うのも、王都周辺にいるブネルラ、ブエルルラ、ロノウェルラのエルフ達にキララがいると思われる地点をそれとなく探ってもらい、その情報を受け取ってから行動を起こそうと言う事になった為だ。


ブネルラの信徒だけでは人数が少なかったが、ブエルルラとロノウェルラのエルフを合わせればそれなりに数がいる事が判明した。エルフは人間社会において差別されがちだが、治癒の能力を持つブエルルラのエルフ、言語の能力を持つロノウェルラのエルフは案外引っ張りだこなのだそう。そして今回ブエルとロノウェに協力してもらい、彼女らの加護を持つエルフに助力してもらうことになったというわけだ。

とは言え、ブエルルラとロノウェルラのエルフ達はあくまでも私達の手伝いだ。キララを救出するのは私達の役目なのは変わりない。


……早くキララを戦争屋のもとから助け出したい。

だが簡単に逃走できる手段を持つ戦争屋に、私達の行動を勘付かれるわけにはいかない。もどかしいが失敗出来ないから慎重に身を隠し、チャンスを見つけたら迅速に動く。その為にも情報は大切なのだ。


キララの事を思って気落ちしたまま部屋に入ると、「うわ、すごっ」と思わず声を上げてしまった。何故なら、内装が完全に日本の高級旅館だったから。


[小寺の……未来の日本に行ったときに少しだけ滞在した部屋にちょっと似てる]

そう英語で言ったのはシグラだ。

[……え?シグラ、英語喋れたっけ?]

日本語で喋ってはいけないから英語で喋ることにしたのだろうけど……シグラは最近まで英語は喋れなかった筈だ。私の問い掛けにシグラは“うん!”と笑顔で頷いた。

[ウララやブエルやジョージが話してた会話を聞いてたし、ウララの実家から持ってきた英語の辞書を読んだから、バッチリだよ!]

[え……ええええ……]

ドラゴンの知能指数、どうなってるの。


[……それにしても、日本語よりも英語の方が堪能だね。日本語よりも英語の方が覚えやすかったのかな]


私のそんな言葉を、ライとロノウェとアガレスは微妙そうな顔をして聞いていた。

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