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ドラゴンの妻という価値:レオナ視点

霊峰ブネルラに棲むドラゴン、ブネ。その存在は名のある精霊から教えられ、初めて人類はかのドラゴンを認識した。それから幾度となく冒険者たちがブネに挑みに霊峰ブネルラに登ったが、8割は戻ってこなかった。戻って来た者達はブネに会う前にリタイアした者達だ。霊峰ブネルラはそれほどまでに険しい山であった。


散っていった冒険者たちの最期の念話により、ブネはどのような姿形をしているのか、ブネの能力などを断片的ではあるが知ることが出来る。

それは、綺麗な花畑で眠る紅いドラゴンであり、目は金色であり、やる気のないブレス一つでSランクの冒険者で結成された部隊が壊滅したことだった。


ノルン伯爵のお膝元の街、ノルンラの街。そこにある精霊オリアス教会の支部。

そこで私は支部の責任者である司祭様に報告をしていた。

司祭様の部屋には助祭様もいらっしゃる。


『その……本当にブネ、なのかね?』

長い沈黙の後、司祭様にそう問われた。

『はい。間違いはありません。ゴーアン侯のご子息、ルラン様がブネの加護を受けました』

司祭様も助祭様も同時に息を飲んだ。

『ブネは妻帯者だと聞いたが、間違いないかな?』

『はい。見た目は10代後半の、異国の女性でした』

『人間かな?』

『恐らく』

今度は困惑した空気になる。

竜族の求愛行動は皆が知るものだ。つまり、妻はブネよりも強いということになる。

記録には一度だけ……人間がドラゴンの妻になったことがあった。その人間とはこの国の姫だった。

姫は武術にも魔術にも長けた人物ではなく、どのようにしてドラゴンの求愛を凌いだのかが長らくの謎であった。

『ブネの妻は勇者の類?』

『彼女は嫋やかな方です。人間の死体を見るのを嫌い、ブネもそれを知っていたのか、彼女に死体を見せないよう大事に抱きかかえていました』

誰かの喉が鳴る。

つまり、そう。

『ごく普通の人間が、ドラゴンの妻になる事が可能ということか……』

『竜族の求愛行動をパスする秘術がやはり、あると』


それは人類の夢であった。

竜族は……ドラゴンのその身は貴重な薬となる素材の塊だからだ。

ドラゴンには魔法が一切通じない為に、どんなに弱い種類のドラゴンであっても討伐は困難であり、滅多にその素材は流通しない。それが、流通し放題となるのだ。

何故なら、竜族の雄は妻に隷属するからだ。妻が命じれば喜んでその命を散らすだろう。

あのブネですら、平和主義であろう妻に命令をされたのか、彼女の傍に居る時だけは荒々しさは鳴りを潜めるのだ。……先程もイヤリングを無理やり毟りとった彼女の耳を舐めて癒していた彼の目は優しかった。


―――しかし襲撃者達を捕縛したあの夜の事を思いだすと、体の底から震えがくる。


ブネはあの夜、襲撃者達を捕縛する為に“威嚇”を行った。威嚇を受けた襲撃者達は全員、息すらままならず、失禁して気を失った。私もカーヤも威嚇の断片を受けてしまい、特に恐慌状態に陥り正気を失ったカーヤは気絶した襲撃者を何度も切り刻むという愚行をした。

私とて、あの絶対的な力を前にして、騎士としての矜持を忘れて泣き叫びたくなった。


あのドラゴンを意のままにできる、のか……。


『ではレオナ。ブネの妻を此処に連れてきなさい』

はっと意識を引き戻される。

『連れて来い、と』

『そうだ。ブネの求愛を凌いだ秘術を聞かねばならん』

『ブネがいる以上、強制連行は出来ません。断られれば引き下がる他ありません。しかも連れてきたとしてブネも共に来ると思いますが、よろしいですか?』

『ふむ……』

司祭様は考え込まれてしまう。やはり司祭様もブネは怖いのだ。

『話が聞けるのなら、聞かねばなりますまい。打診だけでもされてみてはいかが?』

助祭様にそう提案されて、ふむと司祭様は頷く。

『ではブネの妻の都合のよい日で構わぬ、お茶でも飲まないか打診をしてくれまいか』

『承知いたしました』

精霊オリアス教会は他の精霊教会に比べると穏健派だ。無理やり連れてこいとは言わない。

これが他の精霊教会だったら取り敢えず妻だけ拉致してこいと言われただろうな。



■■■



もう深夜に近い時間帯。

朝一番に奥様に打診をするため、ルラン様の借り屋敷に向かっていると、その一角がまるでお祭りをしているような光に包まれていた。

『な、何だ!?』

街の者達も光に気づいたのか、窓を開けて辺りを見回している。


駆け寄ると、その光源はルラン様の借り屋敷の、とある一室だった。あそこは、ブネがいる部屋だ。


ブネが暴走したのか!?


あらゆる恐ろしい想定が駆け巡る。ブネが暴走したのなら、この街など一瞬で灰塵と化すだろう!

まだ間に合うなら何とかしないといけない、きっとあの奥様に頼めば何とかなる筈だ!


ルラン様の仮屋敷に踏み入るが、その無礼を誰も咎めには来ない。

階段を駆け上る。

ブネの泊まる部屋の近くでは使用人たちがぽかんとして立っていた。

『おい!ルラン様はどこだ!』

メイドの女の肩を引き訊ねると、ブネの部屋を指さした。

『私達は、ここで待機しているように言われて……』

『そうか。では引き続きここで待機をしていてくれ』

私は急いで部屋へと向かい、扉の中へ入る。


そこは、あまりにも明るかった。目が、痛い。まるで太陽があるかのようだった。

『何だ、また慮外者かと思ったら、あの騎士か』

怒りが滲んだ男の声に、背筋が凍る。

ふっ、と目映い光が消え、部屋の間接照明だけになる。


『屋敷にもっとまともな結界を張っておけ。慮外者などにウララの眠りを妨げることは許さぬ』


それだけ言うと、ブネは天蓋のカーテンが下りたベッドの中へと入っていった。


ドクドクという心音がやけに大きく聞こえる。

『レオナ…か?』

『ルラン、様』

ルラン様は目を抑えながらこちらに来た。光に目をやられたのだろうか?

私はルラン様の肩を抱きながら、部屋を出る。

『何があったんですか?』

『……賊が3名……、いや。あれは聖騎士だった』

『聖騎士?……あっ!!』

思い当たる事があった。

精霊オリアスより御託宣が下りた為に他の教会とも協力体制を敷いた為、今の精霊オリアス教会には他の精霊教会の信徒と聖騎士が出入りしている。

もしや先程司祭様にした話を立ち聞きされたのでは?


『私が駆けつけた時には、すでに賊達はシグラ様の檻の結界の中に閉じ込められていた』

『では、その賊は今何処に?』

『もう、無いよ』

無い?


『賊が奥様を渡すよう命じた瞬間、シグラ様が消してしまわれた。塵すらも、全て』



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