番外編:辿らなかった先にあったもの:シグラ視点
番外編を本日2つ投稿します。
これは2つ目です。
最後に挿絵をいれています。
『ホホホホホ!』
キャリオーザの高笑いが辺りに響く。
『そのゴミはお前の信徒だろう、ブネ』
『知らない』
『程度は違えど赤に似た髪色をしているではないか。これはお前の加護を持っている証拠、特にお前と同じ赤い髪に金色の目のエルフはブネルラの巫女と言われる存在よ』
血だまりの中に沈むエルフどもを見る。数名いるエルフの中に赤い髪の雌がいた。ぴくりともしないのでもう事切れているだろう。
このエルフどもはキャリオーザと面会したのち、キャリオーザを亡き者にしようと襲い掛かってきた。残念ながらキャリオーザは私の結界のせいで傷一つ負わなかったが。
私はエルフどもの処理を命じられた。ブレスで吹き飛ばせば死体も残らなかったのだが、キャリオーザに『自分たちが誰の手で殺されるかじっくり分からせながら殺せ』と注文を付けられたので、なぶり殺しにした。
血塗れになった手のひらを見る。
エルフどもの命を奪う感触がまだ残っている。
特に私が握りつぶしたエルフの雌のほっそりとした手首は、普段見ている賢者のそれと似ていて……。
駄目だ、これ以上深く考えると息がうまくできなくなりそうだ。
『主人であるブネに牙をむくとは……くふふふふ、人望がないわねえ、ブネ。やはりドラゴンなどその程度ということか』
キャリオーザは嘲笑いながら血だまりの中、ヒールの音を鳴らして此方に来た。
『跪きなさい、ブネ』
命じられたままその場に跪き、首を垂れる。
『全く、靴が汚れたわ。汚らわしい』
私の頭にキャリオーザは足を置き、ヒールについた血を髪に擦り付けた。
ひとしきり私の頭を踏み躙ると、ふん、と鼻を鳴らして扉の方へ身体を向けた。
『ブネルラは目障りだが、あそこは諸外国の王侯貴族と繋がりがある。今手を出すのは悪手か』
キャリオーザはぶつぶつと呟きながら、私に一瞥もせずにこの部屋から出て行った。
『……ブネさま……』
動くのも億劫で、跪いたまま呆然としていると、雌のか細い声が聞こえてきた。
赤髪のエルフはまだ息があったようだ。
『おすくい、できず、もうしわけ……で、た』
キャリオーザには“殺せ”と命じられたのだ。息の根を止めようと思い、怠い身体を起き上がらせて雌の元へ行く。
『ど……ぞ、われら、の。ほね、をおもちくだ、さい。およ、びくだ、されば、おちからに、なれ……』
事切れたようだ。
エルフは微笑んでいた。
その顔がやはり賢者を彷彿とさせ、最期の言葉を無下には出来なかった。エルフ達の歯や骨を一かけらずつ遺し、遺体は全てブレスで消し飛ばした。此処に捨て置いても、どうせゴミとして扱われるだけだから。
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『シグラ様!これなどどうでしょう!』
声を掛けられ、はっと我に返る。どうやら白昼夢を見ていたらしい。夢の内容からして、ブネと記憶を共有した際に流れ込んできたブネの記憶だろう。
私の目の前には夢の中で血の海に沈んでいたパームが、キラキラした刺繍が施された薄い布を広げていた。
『これはケイラ王国の国王からの献上品でして、金糸で刺繍をされている模様は幸運の象徴である四葉のクローバーです』
『このようなものもありますが』
パームを押しのけるようにして事務局長のエルフが布を広げる。これも薄い布だ。
『こちらは貴重な虹蜘蛛の糸を使って織られたレースで、光の具合で様々な色に見えます。ヴェールにピッタリかと』
『レースではありませんが、宝物庫から宝石を見つけてまいりました!婚礼の衣装の何処かに飾られたらどうでしょう』
そう言って宝石箱を持ってきたのはジュンとビスタだ。
元々私の婚礼用の衣装について話をしていたのだが、いつの間にか献上品を納めているブネルラの宝物庫を開け、ウララに似合う宝飾品を物色していた。
『ウララは着物を縫っているからな。それに合うようなものでなくてはならないぞ』
『シロムクというのは初めてですが、完成図を見せてもらって大体把握しておりますので、お任せください。きっとレースのヴェールは合うと思います』
『白を基調とした装いですので、どのような色でも合うでしょうし』
『赤色と金色の宝石はつけていただきたいと思っていますが、好みの問題もありますよね』
『いくつか候補を示して、ウララ様に選んでいただければ良いのでは?』
エルフ達はあれもこれもと次々に荷物を増やしていき、結局衣装ケース5つ程の嵩になった。
持って帰るとウララが驚くだろうなあとは思うが、彼女は他人の好意を無下にはしない。それにこれだけあればウララが気に入る宝飾もあるだろう。
ありがたく衣装ケース5つを受け取ると、足早に彼女の元へ向かう。
変な白昼夢を見たせいか、早くウララの傍に行ってじゃれつきたい。あわよくば頭を優しく撫でて欲しいと思う。
書き始めてから2年経ちました……!
読んでくださって本当にありがとうございます。
折角描いたので活動報告の方に挿絵の全体図を載せておきますので、よかったら見て下さいませ。




