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精神汚染:(前半:ヤハル視点)

『ううッ!』


最初に被弾した魂の持ち主は、国同士の戦争に無理やり徴兵された田舎の青年で、大剣に叩き切られて殺された。結婚を目前にした死だったようで、妻になるはずだった女性に対しての申し訳なさが伝わってくる。


次に被弾したのは大国の王子の魂で、彼は弟の妻に謀殺された。その憎しみと、死の原因となった毒入りワインが臓腑を焼く強烈な痛みが伝わってくる。


二つの魂の記憶を追体験したせいで、滂沱の涙で視界が歪んだ。

これはかなりキツい精神攻撃だ。

だが、この程度ならまだ耐えられる。


―――……そう思い油断したのがいけなかった。


また新たな魂が私に被弾する。

今度は奴隷の少年の魂だった。


『!!』


少年の父親は悪魔付きだとされ、一家が住んでいた村の連中に惨たらしく殺された。更に自分の夫が悪魔付きだと言われて精神状態が不安定だった少年の母親は、夫のボロボロになった亡骸を見て遂に壊れてしまった。


そして父親の罪を背負わされた少年は奴隷の身分に堕とされ―――


『嫌だ!!止めてくれ!!』


辛さ、悲しみ、怒り、殺意といった少年の感情が私に流れてくる。


『あああ!!嫌だ!嫌だぁあああ!!』


少年のこの感情は私にとって馴染みのあるものだったから、混乱してしまう。


目の前が真っ暗になる。


逃げたいと思った瞬間、私の周りに障害物が出来た。

『何だ……お、檻の結界!?』

混乱する頭でこの攻撃から逃げたいと思ったからか、私は自分自身に檻の結界を張ってしまったらしい。

魂は檻の結界では防げないのに!!

早く結界を解除して逃げないとと思った時には、もう遅かった。


『あああああああッ!!』


追尾していた魂達が次々と結界に侵入してきて、私の身を貫いた。



真っ暗だ。

今、自分がどうなっているのか、よくわからない。


―――勇者が攻めてきた!ブネ様を守らないと!


―――私が死んだらブネルラに埋めて欲しい


無数の死の絶望の中で、偶に前向きな魂の声が聞こえてくる。

そのどれもがブネ、ブネ、と口々に言っている。

彼らはブネの為に死ねたり、ブネルラに埋葬されるのが嬉しいようだ。


……私は……僕はブネが嫌いだ。


だってあいつは家族や仲間に囲まれて、幸せそうにしている。


ブネだけズルい。あいつも僕と同じでドラゴンの雄なのに、どうしてあんなにみんなに大事にされているんだろう?

僕も誰かに沢山頭を撫でてもらいたいし、笑顔で話しかけられたい。


僕は王様やお母様の言いつけは何でも聞いたし、お城や国を守っているのに、どうしてブネのように大事にしてもらえないんだろう?


僕は、みんなに囲まれなくてもいいんだ。ただ、僕の事を大事にしてくれる人が一人でもいてくれるだけでいいのに。


―――でも誰も僕を見てくれない


『何だか、疲れたちゃったなあ……』


僕の呟きは、誰にも届くことはない。



■■■



寝室の窓から光が差した。その直後、大きな爆音が轟いた。


ブエルは“ひいっ?!”と小さく悲鳴を上げてしゃがんだ。


ブレスがこの近くに被弾したみたいだ。私はシグラの檻の結界の中にいるので何も伝わってこなかったが、結界越しに見えるバスコンの内装がゆさゆさと揺れている。


[ゆ、油断した!もしかしてシグラってば、自分とウララ用のその結界以外は全部解除してる!?]


ブエルはガクガクと膝を笑わせながら立ち上がった。彼女が先程まで余裕そうにしていたのは、シグラがこの周辺に檻の結界を張っていると思っていたからのようだ。

[う、噓でしょう!?ちょ、張ってよシグラー!!ぎゃーー!]

またまた爆音がし、ブエルは遂にへたり込んでしまった。

[だ、大丈夫ですか、ブエルさん!]

[大丈夫じゃないよおお!!ウララ、シグラに結界を張るように命じてー!]

[無理ですよ、だって彼は眠っているんですから!]


ブレスはどの辺りに被弾したんだろう?

寝室の窓をのぞき込んだが、此処からでは山脈の方は見えない。ただ、木々がざわざわと葉を揺らしているのだけはわかった。


「先輩!」

窓越しにライとレンとククルアが駆け寄ってくるのが見えた。ククルアは少しだけ調子が悪そうだ。暴れているドラゴンの思いが彼に伝わってきているのだろうか。


「ライ君、危ないからレン君達を連れて車の中に入ってきて!」

私の言葉にライは少しだけ戸惑ったようだが、すぐに首を横に振った。

「僕、ちょっと様子を見てきたいんです」

「何を言っているの!駄目だよ!」

「ちょっとだけですから!キララさんの事も気になるし!」

「ライ君!!」

「あ、ライ兄ちゃん!」

走り出して行ってしまったライの後をレンも咄嗟に追いかけようとする。それを見た私は慌てて「レン君、行かないで!」と引き留めた。


「レン君、お願いだから車の中に来て」

「う、うん。でもライ兄ちゃんが……」

私のワンピースのポケットの中に入れていた迷子防止用のキーホルダーから電子音が鳴りだした。

「……、とにかく今はククルア君を連れて中に入ってきて」

「ん、わかった」

レンは私の言葉に従い、ククルアを連れてバスコンの中へ入ってきてくれた。


取り合えずレンとククルアはこれで良いけど……私は頭を抱える。


「ライ君を連れ戻さないと」


鳴り続ける迷子防止用のキーホルダーを握る。

ライはブネルラに思い入れがあるので、此処の状況が気になって飛び出して行ってしまったのだろう。

あの子は冷静な子だから、本当に危ないところには行かないでくれると思いたい。


私は私を閉じ込める結界に手を当て、溜息を吐き、そしてシグラに向き直ると、彼の手を握った。


「シグラ早く起きて。お願い。ライ君が……キララやブネルラも大変なの。お願い……」


もうすぐで2周年です。

もしかしたら、本編に関係ない番外編を書くかもしれないです。

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