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仲間:ヤハル視点

『止めろ、リパーム!!』


自身に身体強化魔法をかけたリパームは、私がモーリーに張った檻の結界をガンガンと殴りつけてきた。

結界の中にいるモーリーは身をかがめ、両腕で頭を庇いながら情けない悲鳴を上げている。


『リパーム!』

リパームの腕を掴むと、ギロリと睨まれた。その目はキャリオーザの毒牙にやられたコーヴィット将軍やモーリーのような狂人じみた目ではなく、ただただ怒りに満ちた目であった。

パシンっとリパームに手を払われる。

『邪魔をするな!貴様も消すぞ!』

『私達は仲間だろう!そのようなことを言うものではない!』


その言葉を吐いた時、脳裏によぎったのは嫉妬に狂った将軍の姿だった。


将軍はキャリオーザを巡ってトレヴァやモーリーと何度も言い争いをしていた。それは第三者視点の私が危ないと感じる程のものだった。

自分が言った言葉なのに、“仲間”という単語がとても虚しく胸に響く。


嫌な考えを払うように頭を振るった。


感傷に浸っている場合ではない!この場でまともな思考が出来るのは私だけだ、その私が現実逃避してはいけない!

とにかくリパームを止めよう。

モーリーと同じように彼女も檻の結界で閉じ込められるだろうか?

……駄目だ、流石戦闘慣れしたブネルラのエルフだ、結界を張る隙がない。いや、諦めてはいけない。隙が出来るタイミングを見極めるためにリパームを注意深く観察しよう。


『何故このような結界ごときを壊せない?だから素手では無理だと言っているでしょう!』

『……?』


何だかリパームの言動がおかしいような……?

『結界を壊すには、一転を集中して叩ける武器が有効です。しかし武器などない。私に任せなさい』

一人二役のような言動をした後、リパームは風で鎌鼬を作り、近くにあった木の枝を切り落とした。その切り落とした枝をまたまた風を使い自身の方へ吹き飛ばして手中に収めた。


何をするつもりだ?まさかそのすぐに折れてしまいそうな枝を武器にするつもりか?


不思議に思っていると、リパームは枝に檻の結界を張った。そうか、魔法が得意なリパームが作る檻の結界ならば、かなりの硬度があるはずだ。

彼女はその結界の上から魔法を纏わせ、虹色に輝く武器を作り上げた。

作り上げた武器の使い心地を確かめるように、リパームは一度ブンっと素振りをし、そしてギロリとモーリーを睨んだ。


『絶対に殺す』


……モーリーに対する殺意がかなり高い。

何故だ?

リパームの言動はおかしいが、操られている雰囲気はない。

それなら何故仲間のモーリーに殺意を抱く?

もともとモーリーと仲が悪かったのか?いや、リパームはブネ以外に興味が無い筈で……

そこまで考えて漸く心当たりがあった。


―――先程、モーリーはブネの悪口を言っていた


『まさかそれが原因か?』

確かにリパームと仲間になる際に彼女の取り扱いについて、上から再三注意されていたことがあった。それはブネの悪口を言わないこと、だ。しかしただの悪口程度でここまで怒ることなのか?

まあ、実際怒っているのだから、リパームにとっては“ただの悪口”程度ではなかったのだろうな。


リパームは結界で作り上げた武器を器用に振るい、結界のとある一点を集中的に突き始めた。うかうかしていると壊されてしまいそうだ。


……そう言えばリパームと付き合いの長い遺伝子学者のアーヴィンがリパームは我を忘れて暴走をすることがあると言っていたな。今の彼女の状態はまさにそれのようだ。


アーヴィンは暴走するリパームを止める為に彼女のイヤーカフスに鎮静剤を仕込んでいると言っていたか。

リパームの耳に注目すると、一つは既になかったが、もう片耳の方は健在だった。あれを使えばリパームを大人しくさせることが出来る筈だ。

問題は、私があのイヤーカフスを作動させる方法を知らないということだ。おそらくアーヴィンが作動させる為のスイッチを持っているのだろう。


私が悩んでいる間にも、リパームはガンガン!とモーリーに張った結界を攻撃していく。


これ以上仲間同士の争いを見たくない。

『……一か八かだ』

私はイヤーカフスを取ろうとリパームに飛び掛かる。だがそれはリパームに躱されてしまった。

戦闘能力なら私の方が断然上だが、身体捌きは白兵戦に慣れているエルフの方が上だった。


『邪魔をするなと言った筈だ!』


そんなリパームの怒号とともに炎の球が飛んできたが、ドラゴンの私には魔法は通じない。難なく弾かれた炎を見たリパームは微かに眉を顰めた。

次に鎌鼬、雷などを私めがけて繰り出してきたが、やはりどれも魔法で作られたそれらは私の身体が弾いた。


『……魔法が効かない。結界で弾いている様子でもありませんね。ならば魔法を弾く種族か』


ぶつぶつと独り言を呟くリパームだが、そのセリフはかなりおかしなものだ。

リパームは私がドラゴンだということを知っているのに、わざわざ魔法が効かない事を不思議に思うなんて。


やはりおかしい。

まるでリパームの姿をした別人のようだ。


不意にリパームは攻撃の手を止め、私から距離を取った。そしてまたぶつぶつと呟きだした。

『先程から引っ掛かっていたが、あの雄の顔、私は見た覚えがあるぞ。確か奴はドラゴンだったような……』

“ドラゴンならば魔法は通じません”“面倒な”などという不気味な呟きが聞こえてくる。有り得ないことだとは思うが、別人どころか、何人もの人間がリパームの身体を共有しているように見えてくる。

やがて方針を決めたのか、リパームは姿勢を正して私を見据えた。まずは邪魔をする私を片付けようというのだろう。


戦いたくない。戦えば確実に私が勝つが、それなりに力を持つリパームが相手なので、下手に抵抗されて彼女が怪我をする可能性がある。

私は仲間を傷つけたくないのに!


そんなことを思う私を尻目に、リパームの周りに光の粒子が舞いだした。魔法を使うつもりか。


ドラゴンとの戦闘ならば、勇者のように自身に極限まで身体強化魔法を掛け、白兵戦をするのが定石だ。というより、それくらいしかドラゴンにダメージを与える方法が無い。


だからリパームも定石通りに身体強化魔法を使うのだろう……そう思ったが、何故か彼女はまた風魔法を使った。しかもそれは広範囲を撫でるような優しい風で、私ではなくブネルラに向かって吹かせた。

何がしたいのかわからず、私が戸惑っていると、ブネルラを駆け巡った優しい風が“りい……ん”と涼やかな音と共にリパームの元へ戻ってきた。


リパームが腕を上に上げると、風が運んできた“それ”が彼女の手の中に落とされた。

それは―――鈴だった。

風はブネルラから鈴を運んできたのだ。


鈴を手にしたリパームは愛おしそうにその鈴を一撫ですると、鈴についた紐を己の腕に括り付ける。

そして彼女は腕を前に突き出した。


『ブネ様を侮辱した者よ、その身でブネ様の御力の末端を味わう事を光栄に思うが良い』

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