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ウララを想う:(途中:アイファ視点、後半:??視点)

結界越しにいるブエルが困ったように笑った。

やはりというか、彼女にもこの結界はどうすることも出来なかった。


[結界はね、それを張った時に込められた力を上回る力を叩きこめないと壊せないんだよ]

ブエルはちょんちょんと結界を指でつつく。

[結界へのダメージは蓄積されるから打撃を与えていればいつかは壊れるけど……私達の力だと、ひと月は掛かるんじゃないかしら]

[そんな……]

困ったことになってしまった。

その思いが顔に出ていたのか、ブエルは首を傾げた。

[どうかしたの?あ……やっぱり番の雄と一緒にいるのは嫌だよね]

[へ?番の雄って……シグラのことですか?]

あ、ドラゴンの雌は番の雄を疎ましく思う習性があるんだった。ブエルはドラゴンだから、それを当たり前に思っているのだろう。

私は慌てて首を横に振った。

[違います、そうじゃなくて。その、ちょっと困った事があって……]

[困った事?]

[……えっと……その……]

言いづらくて口籠るが、ブエルは容赦なく[どうしたの?]と訊いてくる。

[……生理的現象で……その……]

ここまで言ってもブエルは察せないらしく、小首をかしげている。

[…………おトイレ問題と言いましょうか]

[漏れそうなの?]

[もれ……!今はまだ大丈夫です!]


直接的なことを言われて、思わず否定してしまった。……本当は少しトイレに行きたい気がするけど、我慢しとこ。



■■■



薬を完成させ、例の丸薬と共にそれを聖騎士に渡し終えると、此処で待機しておくように言われた。

まだ素材の臭いが残ってるから、出来れば別室に移動させてほしかったなあ。まあ、我儘を言って不信感を持たれてはまずいので、大人しく従っているけど。


作戦がうまくいってウララが此処に運び込まれるまで、あとどれくらいだろう。

何だかそわそわしてしまう。

気を紛らわせるためにも、通信機でアーヴィンにメッセージを打とうかな。

メッセージは色々なところを経由させるので、アーヴィンからの返信は早くとも数時間後になる。アーヴィンに連絡が行くようになったのは良いけど、やっぱりレスポンスが遅いのは不便だ。それに経由地点で検閲の様なマネをされていたら困るので、直接的なことは書けないし。


それにしてもウララを洗脳する目途は立ったけど、このまま私たちは予定通り未来の世界に戻ることが出来るのだろうか。

今までは余裕がなかったので深くは考えていなかったけど、金竜ヤハルがキャリオーザ側についていたとしたら、私たちにとって良いことになるとは思えない。

だって、キャリオーザはブネを欲している。ならば、それを叶える為にヤハルは私たちの元から洗脳したウララごとブネを掻っ攫っていくだろうし。そして、その過程で邪魔になるであろう私たちを殺すかも……。


嫌な想像をしてしまい、思わず頭を振った。


ヤハルが敵になったらどうなるだろう?

ドラゴンであるという時点で厄介なのに、彼は時空を渡るというチートと言ってもいいほどの能力を持っている。そんなヤハルに私たちが対抗できる?……考えるだけ無駄。絶対無理でしょ。


―――……あ、でも洗脳したウララとブネを使えばどうにかなるかも


ヤハルは必要に駆られない限り、ブネとだけは直接対決を避ける傾向があった。ヤハルを温存しておきたいというフィルマ王国の思惑があったのかもしれないが、ヤハル自身、ブネとぶつかるのは危ないという危機感を持っていたのだと思う。


そう考えれば、ヤハルを相手に未来へ帰らせろという交渉をするならば、ブネというカードは強力だ。


『そうとなれば、任務の事もあるけど、私たちが未来に帰るためにも絶対にブネを手に入れないと……ん?』


不意に、冷たい風が開けた窓から吹き込んでくる。近くで何かを燃やしているのか、冷たい風は煙の臭いを運んできた。

『そろそろ部屋の臭いも許容範囲まで収まってきたし、換気を止めて窓を閉めようかな』

窓の傍に行くと、焼却炉が近くにあるのが見えた。そしてそれは使用中で、その中にゴミを放り投げている少女がいた。

あの臭いがこちらに流れてきているのかと思いつつ、窓を閉めようと窓枠に手をかけた。


―――!


煙の中に、独特な甘い臭いが混ざっていることに気が付き、思わず鼻と口を手で押さえた。


―――これはウララを洗脳させるために私が調合した丸薬の臭い?!


心音が早くなり、目の前がくらりとブレだす。これはヤバいと冷や汗をかきながら慌てて荷物を置いているテーブルまで戻ると、乱暴に中身を探った。そして青い水溶液の入った小瓶を見つけ、その中身を少しだけ口に含んだ。これは丸薬の中和剤だ。


ウララに薬が効きすぎた時のための中和剤を用意しておいて本当に良かった……!


吸った臭いも少しだけだったのが幸いだった。それでも脳みそがかき混ぜられた様な感覚が私を襲う。

マズい……このままだと気を失ってしまう。


私が倒れれば、万が一ウララが死にかけた時に助けることが出来ない……のに……



■■■



キララは悲鳴を上げると、私に背中を向けて走り出した。


彼女が逃げる意味がわからなくて、慌ててその背を追いかけようとしたその瞬間、私の顔の前で爆発が起きた。

反射的に爆発から顔をかばった腕を下すと、周りは砂埃が舞い、前が見えない状態だった。

すぐに魔法で風を起こして綱埃を吹き飛ばしたが、既にキララの姿は無かった。しかしまだ足音が聞こえるので、追いつくことは出来るだろう。


そう思い駆けだそうとすると、また眼前で破裂音がした。


「何なんだ!鬱陶しい!」

「行かせはせんよ」

老人の声が耳元で聞こえた。この声、聞いたことがあるが、誰だ?

「貴様、これ以上私の邪魔をするなら消すぞ!」

老人は「おお、おお。怖い怖い」とおどけた調子で言い「まるでシグラのような口の利き方じゃわい」と続けた。


「……シグラ?」


とても大事な言葉だと思った。そして何かがわかりそうな気がしたが……駄目だ、まだそこまで至らない。


「お主、身体はリパームのようじゃが人格は誰じゃ?リパームなのか?それとも亡き巫女リーヤか?」

「リパーム……リーヤ……」

「どちらにせよ、ブネルラの巫女には違いない。シグラとはお主らが崇めるブネの別名よ」


「ブネ……様?」


その名を聞いた途端に身体が熱くなる。先程の力が暴走した時と同じ感覚で、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

頭の中がブネという名前でいっぱいになる。

だがすぐに“それよりもウララだ!”という考えが抵抗勢力のように浮かんできた。


“ブネ様の元へ行きましょう!”

“ウララの元へ行くのが先だ!”

“ブネ様です!”

“ウララだ!”


考えが分裂し、纏まっていないのに身体が勝手に動き出す。この身体が向かおうとしているのはブネの元だと伝わってきた。ふざけるな!

「ウララの元へ行くんだ!」

「いいえ、このままブネ様の元へ行くのです!」

「ウララの元だ!!」


一層強くウララのことを主張すると、ぐらりと身体が傾いてその場に倒れてしまった。

意思と体の動きがかみ合わず、身体が固まってしまったようだ。


くそ、動けない!


必死に身体を動かそうとしていると、「お主、まさか本当にシグラか?」という老人の声が聞こえてきた。


「巫女の意識も入っておるようじゃが……しかし少なくともその体の中にシグラの意識が入り込んでおるな?」

「知らない!私は何者だ!ウララは何処だ!」

「ウララ、ウララと嫁御の名前を連呼する者はシグラしかおらん。なんじゃ、寝床で寝たまま全然起きんと思ったら、こんなところで遊んでおったのか」


こいつ、ウララの事を知っている!?それに私の事にも詳しいようだ。

ウララへの手がかりが手に入った。そう思うと涙腺が緩んできた。


「な、なんじゃ、なんじゃ?泣いておるのか?」

「ウララは何処にいる?私は何者だ?」

ぐずぐずと鼻声で尋ねると、老人は呆れたような声を出した。


「うーん。嫁御……ウララなら安全なところにおるでのう、安心せい。……全く、そろそろ一万を超えるような歳のドラゴンが簡単に泣くもんじゃないぞ。これも嫁御が甘やかすからかのう」


ウララは安全なところにいるらしい。良かった……。

早くそばに行きたい。

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