初めての口付け
一番最後に挿絵いれてます。
そろそろお昼になるかな、という頃に集落が見えてきた。立派な門からして山麓の村よりは大きそうだ。
「パルちゃん、レオナさん達にお昼休憩であの街に寄り道して良いか訊いてきてくれる?」
『わかりました』
―――アウロじゃないけど私も昨夜は寝れていないから、ちょっと仮眠をしたいなあ。
そう思いながら肩をとんとんと叩いていると、隣から視線を感じた。
「シグラどうかした?」
「うらら、つかれた?どこか、いたい?」
これくらい大丈夫だよ、と言おうとしたが、パルがにゅるんと出てきたので言葉を飲み込んだ。
『お願いします、と言っています』
「そう。じゃあ寄るね」
門番には騎士たちが身分証を提出し、集落へ入る。
最初の村と同じように門の近くに車を停め、2時間ほど休憩をする旨を告げると、レオナとカーヤは街の中へと向かっていった。
残ったのは赤毛のルランだけ。彼は襲撃者の監視役だろう。
ふぁあ、と欠伸をしながら、野菜のかき揚げを揚げる。
飯ごうは面倒なので、今日は文明の利器の炊飯器を使う。炊飯器は20分の早炊きモードに設定したけど、異世界のお米もきちんと炊けるだろうか?
「キララー、タレ作るの面倒だから麺つゆ出しといて~」
「おー」
サクサクに揚がったかき揚げをクッキングシートを敷いたバットの上に置いて行く。
バットにかき揚げがこんもりと山盛りになったけど、シグラとロナがいるから、これでも足りないくらいかもしれない。
炊きあがった御飯を器によそい、大きなかき揚げを乗せて麺つゆをかける。
「美味しそうですね」
「しゃおお」
さて、このバスコンの炊飯器は8合炊きだけど、足りるかしら。
足りないならもう一度炊かなきゃ。
「あ、そう言えばルランさんにも何か差し入れてあげないと」
「では、私が持って行きましょう」
彼にかき揚げ丼とお茶を乗せたトレーを渡した。
日本語も異世界語も流暢に喋れるアウロには本当に助かる。
そしてアウロが戻ってきてから、改めていただきますをして、皆でご飯を食べる。
「しゃくしゃくして美味しいですね」
「ええ。これは天ぷらと言って油を多く使うのが難点なんですが、私の大好物なんですよ。シグラ、美味しい?」
「おいしい」
ロナはカッカッカっと相変わらず器に顔を突っ込むようにして食べている。うん、ご飯もう一度炊いたほうがいいね。余ったら冷凍すればいいだけだし。
昼食の後、私は少し仮眠する事にする。寝室で寝るのが良いのかもしれないけど、本格的に寝入りそうだったので、運転席で眠る事にした。
「キララ、ちょっとタオルケット頂戴」
「んー」
「ありがと。時間になったら起こしてね」
「わかった。あ、私もちょっと街に行ってみたいんだが良いか?親父連れて行くから!」
良いよー…と手をひらりと振って、私は瞼を閉じた。
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「……ん……?」
ふわん、と良い匂いがする。石鹸と何かのハーブが混じったような匂い。
擦り寄ると匂いは濃くなり、鼻先を埋める。サラサラした感触…。これ……髪の毛?
ぱちりと目を開けると、飛び込んできたのは紅い色。
「え?」
背中と腰に回された腕。
「え?」
お尻の下には人肌の感触がある。
「うらら、おきた?」
顔を上げるとシグラに微笑まれる。
こ…これは……!!
私は運転席ではなく、助手席に座っているシグラの上に横座りさせられ、眠っていたらしい。
思考回路が動きだすとともに、顔が真っ赤になっていくのがわかる。
「うららはやわらかいから」
「はっ!?」
柔らかいとか、そんなエッチくさいことを…!
「あまりむりしたら、だめ。しぐらのそばにいないと、だめ」
シグラの瞳は蜂蜜のようにとろんと潤む。
「しぐらが、まもるから。そばにいないと、だめだよ」
シグラの顔がどんどん近くに寄り、唇に柔らかい物が押し当てられた。
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「姉ー、そろそろ時間だから起きろよーって、もう起きてたのか」
エントランスドアがガチャリと開いて、キララとアウロが現れる。
「やっぱり異世界の街って楽しいなあ。また変な物いっぱい売ってたぞ!あれ?ロナは何処だ?」
「ベッドでお昼寝してるみたいですね。おや、DVDを点けっぱなしで、この子は全く」
「シグラと途中まで一緒に見てたのになあ」
「おーい、姉ー?」
とんっとキララに肩を叩かれ、びくりと体を跳ねさせてしまう。
「どうした?何か変な顔になってるぞ」
「べ、別に……!」
結局あの後シグラを怒ることもできず、運転席に戻ると彼に背中を向けて寝ころび、顔を手で覆って悶えていたのだ。
ちらりと助手席の彼を見ると、にこにこ嬉しそうにしている。
―――あんなに嬉しそうにしてる人を怒れるわけないじゃない…!
唇同士でキスするの、未来の夫の為に大事にとっておいたのに…!
絶対に責任をとってもらう!
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それから車を走らせること、1時間。
遠くからでもわかる程の城壁が見えてきた。
「あれだろうね」
「あれだな」
『あれです』
支流の道が本流に合流し、大きな道になる。流石伯爵家の屋敷がある街で、街に入りたい者達の荷馬車で列が出来ていた。
「これ、全員分の身分証を調べられるやつじゃない?」
「困りましたねえ」
ドキドキしながら列に並ぶと、レオナから念話が飛んできた。
【犯罪者を連行中なので、気にせず進んで下さい】
そ、それもそうか。緊急事態だよね、一応。
列を外れ、軽くアクセルを踏む。
列に並んでいる人達の視線が痛いけど、ここは無心で行こう。
これ、城郭都市というやつかな。
中国の平遥城壁のような、物凄く立派な城壁だ。
門番が運転席の私に近寄る前にレオナとルランが車の前に来て門番と何やら話し出す。
入国審査みたいなものかなー…と、それを眺めていたら、ルランが此方を向いて前に進むよう合図をしてくれた。
こうして、何とか私達は辺境伯爵様のお膝元にまで辿り着く事に成功したのだった。
活動報告(1月2日)に6人分のキャラ立絵アップしてます。




