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廃村の教会

ブロロン、という重たい音を立てながらエンジンを掛ける。


「アウロさん、少し遅めに走りますが、落ちたら大変なのでレオナさんにしっかり掴まっておいてくれと念話で伝えてくれますか?」

「わかりました」


助手席にはシグラが座り、勉強用の雑誌を読んでいる。緊張感がないなあと内心苦笑する。


これから行く場所は、レオナ達が仲間と散り散りになった場合に落ち合う場所として決めていたという、精霊オリアス教会フィルマ王国極西支部だ。言葉の通り、この辺境地はフィルマ王国の極西に当たる場所だそうだ。

ここから馬でおよそ3時間ほどの場所にあるらしいけど、馬って時速どれくらいなんだろうね。

私は競馬のサラブレッドしか知らないけど、彼らだって長距離は休みなしでは走れないだろうし。


「長閑な道だなあ」


あの村から出ると、辺りは見渡す限りの原っぱだった。道は勿論舗装されていない。

野生動物が飛び出して来そうで怖いけど、結界があるから車に衝突せずに弾くのかな?うーん?

「ねえキララ。猪の突進って物理攻撃だと思う?」

「知らん。というか居るのか、猪?」

いますよとアウロが言う。

「しかしドラゴンの気配がする乗り物に寄ってくる低級な野生動物モンスターなんていないでしょうけど」

猪、モンスター扱いなんだ…。

低級モンスターは特にそういう危機察知が優れているらしい。鹿と鳥のペリュトンもシグラの事怖がってたっけ、と言うとアウロに「ペリュトンは低級ではないですけどね」と苦笑された。


特に道中問題も無く、走る事1時間。


「あれって集落じゃない?」

私の言葉に、セカンドシートに座っていたキララががばっと身を乗り出した。

「本当だ。何か教会っぽい塔が建ってるけど、あれじゃないか?」

まだ1時間しか走ってないけど、早くないかな?

そう思ってアウロに頼んで念話でレオナに訊いてもらうと、やはりあそこが目的地だとのことだった。

私は40キロで走らせたんだけど、掛かった時間が1時間ということは、およそ距離は40㎞ってところか。それを馬は3時間かけるって…フルマラソンの代表選手の方が早いよね。馬での移動ってあまり速くないのかな。

先程いた山麓の村よりも幾分か大きいようだが、周囲を囲む石垣が所々壊れているように見える。

門番もおらず、堂々と門をくぐった。


「誰もいないな?」

「廃村のようですね」


大通りを車で走り抜け、尖塔の前で停まる。


「キララはロナちゃんと一緒にここで待ってて」

「わかった」


運転席を降り、シグラとアウロを連れて車体の後ろに回る。

するとリアラダーにしがみ付いたまま呆然としているレオナがいた。

「しゃうおう、おおうあ」

「こんなに速く着くなんて、と仰ってます」

「まあ、そうですよね。私も思った以上に馬での移動って遅いんだなって思いましたし」


リアラダーから降りたレオナは気を取り直して教会の方へと走りだす。

それに私達も続く。

教会の扉はボロボロで、その役目をしているようには見えない。手入れなどはされていないのだろう。


中へ入ると、すぐにシグラに抱き込まれる。

「ど、どうしたの?」

かあっと頬が熱くなるが、すかさずアウロが冷静な声で教えてくれた。

「死体があります」

「!」

「騎士ではなく、ごろつきの死体ですが」

瞬間的に強張っていた体の力が少し抜ける。しかし心臓の鼓動は速いままだ。私は死体なんて見た事がないから仕方ないと思う。

密着しているので私の鼓動の速さに気づいたのか、シグラは私を抱き上げて歩き出す。顔はシグラの肩口に押し付けているから死体は見ずに済むんだけど、凄く血生臭い。アウロは私を気遣って詳細に現場の状況を言わないでくれているけど、きっと凄惨なものなのだろう。


「しゃうおおうし?」


シグラの声だ。

彼の声に対応してレオナの声と聞き覚えの無い男性の声が聞こえる。


「レオナさんの仲間の一人が生きていました。怪我も無く目の前に居ます」

とアウロがそっと教えてくれた。

「もう、一人は?」

レオナの仲間は2人いた筈だ。

「はぐれたと言っています」


「しゃうおうお、しゃおおう」

シグラが何かを言い、そして体を翻した。

「ウララさん、ここは私に任せてシグラさんとバスコンへ戻っていて下さいね」

「すみませんアウロさん」

結局私は顔を上げる事が出来ず、シグラに抱えられたまま教会を後にした。


「ごめんねシグラ」

シグラに抱えられたままバスコンに乗り込むと、キララとロナが驚いて駆け寄ってきた。

「どうしたんだ姉!」

「しゃお?」

「何でもないよ、ちょっと気分が悪くなっただけだから」

キララに死体があったことは伝えない方が良いだろう。

私をシートに座らせると、シグラはその傍らの通路に跪き、私の顔を見上げた。

「うらら、だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫。ありがとう…」

この異世界はかなり殺伐とした所なのかもしれない。

そう言えば山賊に襲われたこともあったっけ。すぐにシグラが追い払ってくれたけど、彼がいなかったら今頃大変な事になっていただろう。改めてあの時の恐怖が蘇えってしまい、体が震えだす。

「あ…」

シグラが眉を八の字にしてこちらをじっと見つめていた。番の私が不安定だと、シグラにも影響するのかも…。

ふう、と大きく息を吸って吐く。

少し気が紛れたので、努めて笑顔を作る。

「お茶でも淹れるね」


それから数十分後、アウロとレオナは見覚えのない男性を伴って教会から出てきた。男性はレオナと同じ白い鎧を着ているので、あの人が彼女の仲間の一人なのだろう。

話を聞こうとバスコンから降りようとすると、キララとシグラに止められた。

「姉は休んでろ、顔色がかなり悪いぞ」

シグラは私の手にぐりぐりと自分の頬を擦りつけ、立ち上がる。

「しぐらがはなし、してくる」

「私も一応ついていくぞ」

「待って、キララ」

シグラが出て行くのに追従しようとするキララを、慌てて止めた。彼らとの会話に混ざったら死体のこととか聞かされるかもしれない。


「どうせあの教会でスプラッタなことでもあったんだろ?現場を見るわけじゃないし平気だ」

「……どうしてわかるの」

「姉はスプラッタ系が苦手だからな。ほら、手を放せ。私か姉がシグラを見張っていないとスプラッタ現場が増やされるかもしれないだろ」


確かに、私の憔悴した様子を見たシグラが、騎士たちに何かするかもしれない。

「近くに寄らずに様子を見てるだけだから、大丈夫だって」

「じゃあ、私もキララの隣にいるよ」

「大丈夫なのか?」

妹の言葉に頷くと、二人でバスコンを降りた。



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