表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/347

フィルマ王国へ

その日の夜、キララは夜遅くまでロナと話をしていた。

キララは予定通りなら明日、私達が住んでいた日本に戻るので、今のうちにロナと沢山お喋りをしたいのだろう。

そう思って夜ふかしを許可したが、流石に深夜を過ぎれば2人共船を漕ぎだした。


寝落ちする前に私とシグラはキララとロナを寝室に連れて行った。


「キララ、明日の準備は済ませた?」

「んー……大丈夫だ。全部リュックに入れた」

「宿題も?」

「うん」

「早く寝なよ」

「うん」

キララとロナが布団の中に潜り込んだので、私は腰を上げて寝室から出ようとしたが……


「何処に行くんだ?姉は寝ないのか?」


「シグラと話をしてこようかと。どうかした?」

眠る前にシグラと二人きりで話をして、それから彼に添い寝するのは最早日課になっている。

「いや……明日になって、私が日本に戻ったら姉とは10年も会えなくなるのかと思っただけだ」

私と会えない事も寂しく思ってくれたのだろうか?

可愛い奴め。


可愛いから、キララが眠るまでは此処に居ようかな。



■■■



次の日、馬車のソーラーパネルの設置とバッテリー等のシステムの配線をしてもらう為、バスコンを山荘の駐車場へと移動させた。

業者さんとの相談の結果、バッテリーは2つ設置することになった。未来の最新のバッテリーなので、バスコンに載せているサブバッテリーよりも性能は良さそうだ。


―――午前中の間に全ての作業は完了しそうだなー……


そうぼんやり思いながら、駐車場に設置されているベンチにシグラと二人で座って業者さんの作業を眺める。業者さんと目が合うと「相変わらず仲良いねえ」とからかわれたが、間違いなく賢者とブネの夫婦と勘違いされているのだろう。訂正する事も無いので、愛想よく笑っておいた。


「ねえ、キララを送って行く時にシグラも一緒に日本に来るよね」

「うん」

「だったら、私の両親にシグラを紹介したいんだけど」


シグラの事を本気で考えだしてからは、いつかは彼を私の両親に会わせたいと思っていた。両親にはマダオとの婚約破棄の時に大変お世話になり、尚且つ大変心配させたので、早くシグラの事を紹介したかったのだ。

だからこの機会は丁度よかった。


「私のお父さんは普通の会社員で、お母さんは弁護士なの」

「かいしゃいん?」

「人に雇われて、お仕事をしてお給料を貰っているの」

「べんごしは、けいじどらまで、でてたね」

「そうだね。その弁護士で間違いないよ」


「会ってくれる?」とお伺いすれば、シグラは躊躇なく「いいよ」と頷いてくれた。


さて、シグラからの了承は得たが、問題はいくつかある。

その最たるものは、シグラを両親にどう紹介するかだ。

趣味は寝る事、得意な事は結界張り、住まいは異世界で、職業はドラゴン。ブネルラの人に崇められています!……では絶対に駄目だと思う。いや、ドラゴンであることはきちんと話すけど、もっとマシな言い方があると思う。

「……賢者さんはブネさんの事をどうやって両親に紹介したんだろう?」

「それ、おおきいきららに、きいたよ。うららの、おとうさんとおかあさん、きぜつしたらしいよ」

「えっ」


賢者はブネと子供達を連れて両親とキララに会いに行ったという。そして正直にブネをドラゴンだと紹介し、話の流れでブネがドラゴンの片鱗を見せて私の両親は気絶した、と。


「おおきいきららに、おどろかすようなことは、するなって、いわれたよ」

「……とは言ってもね。私もシグラの事はドラゴンだって正直に話すつもりだし」

それにドラゴンの事もそうだが、加護の事も言わなければならないだろう。むしろ夫がドラゴンであるという事よりも、私が人間という枠から出てしまいかねない加護の方が受け入れられないかもしれない。


―――反対されたところで私はシグラと結婚するけど。でも出来れば認めて貰いたい


望みはある。何故ならこの未来の世界の賢者夫妻は両親と良好な関係だと思うからだ。

根拠はライ達を保護した時、彼等が私の母校の制服やジャージを着ていた事にある。

私がいた頃に比べると町の景色が様変わりしてしまっていて、あまりピンとこないが、この山荘は私の実家と同じ学区内にあるという事だ。仲が悪いのならもっと離れた場所に住むと思うのだ。


まあ、賢者が日本に戻った時には既にブネの加護が付いた状態で、しかもブネとの間に子供を儲けていたので全てが事後報告だった。だから案外簡単だったのかもしれないけど。


「緊張してきた……」

「だいじょうぶ?うらら」

前のめりになって頭を抱えると、シグラは心配そうな声を出し、私の背中を撫でてくれた。

シグラはとても優しい(ドラゴン)だ。それさえ分かってもらえれば、お父さんもお母さんもわかってくれるかもしれない。



■■■



お昼前にはソーラーシステムを設置し終え、業者さんは帰っていった。費用は振り込みでと言われたので、残金を賢者に全て渡し、振り込みを頼んでおいた。


私はバスコンと馬車をもう一度森の中、時空の穴付近に移動させた。―――いよいよ私達は私達のいたフィルマ王国へ行く。


「あれ?誰かトイレ入ってるの?」

最終点検をしていると、トイレの扉に鍵がかかっていた。声を掛けると「入ってるぞー」とキララの声が。ちょっと長い気がするけど、お腹壊したのかな?

「お腹痛いならお薬あるから、言いなよ」

「わかったー」

心配ではあるが、ずっとトイレの前に居るとキララも落ち着かないだろう。他の場所を点検しよう。



バスコンを一通り点検し終えると、今度は馬車の方へと向かう。

馬車の居住スペースではルラン、テラン、ククルア、カエデ、マツリが談笑していた。

会話の邪魔をするのも悪いので、そこはスルーして、後方部にある荷物置き場の扉を開ける。

すると作業をしているロナとそれを見学していたアウロと目が合った。

「アウロさん、何か不足している物はありますか?」

「大丈夫ですよ」

「そうですか。もうすぐで出発しようと思ってます」

「わかりました。ロナにも言っておきます」

アウロとの会話を終えた時、ふと見た事のない段ボールが食料コンテナの陰に置いてあるのに気が付いた。

「何だろ、あれ」

厳重にガムテープで封をされているので、開くのは気が引けた。しかし、ソーラーシステムを設置してくれた業者さんの忘れ物かもしれないし……と思っていると、アウロが「それは」と段ボールを指さした。


「ロナが言うには、キララさんの荷物だそうですよ」

「あ、そうなんですね」


だったら放って置いても良いね。


全てを点検し終えた私とシグラは、バスコンの前へと行く。そこではライとレンが家族達と話をしているところだった。

彼らは私とシグラが来たので、そろそろ出発だと思ったようで、会話はお別れの挨拶に変わる。


最後には賢者がライとレンを抱きしめ「無茶だけはしないように」、「シグラさんの傍からは絶対に離れないように」と何度も何度も言っていた。


「ウララちゃん、シグラさん。ライ君とレン君をよろしくお願いしますね」

「はい、必ず」


私はライとレンを連れてバスコンへと入る。そして扉を閉める前に賢者、ブネ、コウ、リュカ、ジョージに一度頭を下げてからエントランスの扉を閉めた。


「一応シートベルトを付けてね」

「わかりました」

「はーい」


バスコンの中には私とライとレン。そして狼のナベリウスがダイネットの床で丸まっている。キララはまだトイレの中のようだ。

シグラは時空の穴を安全に通る為にちょっとした作業をするので、外で待機している。


私は運転席へ行くと、ライとレンはダイネットに座った。するとようやくキララもトイレから出てきたので、ダイネットに座らせた。

全員がシートベルトをしたのを確認したところで、私はトランシーバーで馬車に出発する事を伝えた。返事はカエデがしてくれた。向こうも心の準備は出来たようだ。


「シグラ、良いよー」


私がフロントガラス越しにシグラに合図を送ると、彼はこくりと頷いた。


まずシグラはブネと時空の穴の維持を一旦交代するために、時空の穴に手を入れ、大きな檻の結界を張った。そして続けて彼は自分と私達を包むように檻の結界をもう一枚張る。

ブネも賢者と子供達とジョージを包むように檻の結界を張った。


「じゃあ、いくよ」


シグラはそう言うと、最初に張った大きな檻の結界を消す。

それと同時に、私達を包む檻の結界は時空の穴に吸い込まれていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ