村~お買い物
宿屋を出た私達は、服の絵が描かれた看板を探す。何の店なのか絵で描かれている看板は、ヨーロッパっぽいなと思う。ちなみに先程の宿屋はベッドの絵が描いてあった。
「あれ、そうじゃないか?」
キララが指さしたお店は、大きなショーウィンドウがあるお店だった。
「ショーウィンドウに飾ってあるの、ウェディングドレスじゃないの?」
キラキラした装飾のドレスばかりで、普段着を買いに来た私達は場違いな気配がする。
「あれは客寄せのためのドレスだろ」
扉を開けるとカランカランと鐘がなった。
「しゃおうお」
出迎えてくれたのは老紳士だ。やはりここは庶民の服を売っている場所ではないように感じた。
「あの、すみません。普段着を見に来たんですが…」
恐る恐る訊ねると「しゃおしゃお」と案内してくれた。
案内された場所を見てホッとする。確かに日本で普段着にするような洋服が揃えてあったからだ。
値段もワンピース一枚銅貨3枚程度~銀貨1枚と激安ではないが買える値段だ。
女性陣は替えも含めてワンピース5着ずつ、もしもの為にガウチョパンツ(女性もののパンツはこの種類しかなかった)を2着ずつ。男性陣も替えを含めてシャツとスラックスをそれぞれ5着ずつ、ベストを2着ずつ買った。
それから下着類や靴下、ナイトウエアなど諸々を買って、お買い上げ金額は金貨1枚と銀貨8枚になった。
金貨2枚で払い、お釣りの銀貨2枚を受け取って店を出る。
アウロは自分達の分までは結構ですと辞退しようとしたけど、二人にはお世話になっているし、何よりボロボロの服をそのまま着させておくわけにはいかない。資金―ドロップ品―を出してくれたシグラからも了承をもらったしね。
「結構使ったな」
「流石に服は必要経費だよ。そうだ、布も買っていこう」
布屋は服屋の隣だった。
そこで知ったのだけど、どうやらこの村の人達は服は買うのではなく自分で縫って作る物なのだそうだ。服を買うのはちょっとした裕福層の家庭だけ。
どうりで服屋さんの店員さんがお上品な方だったはずだよ。
布屋ではシーツ用に白い布をいくつかと、布巾用の生地を買うと銅貨5枚だった。
「後は?」
「靴。シグラ、裸足だもん」
「靴でしたら革製品ですね」
アウロが指さした店は、これまた綺麗な外観。
「もしかしてこの世界の人たちは靴も自分で作ってるの?」
「これくらいの規模の村に住む村人は藁で編むんですよ。もしくは木で木靴を作ったりしますね」
「草鞋か…」
「まあ、大きな町に行けば庶民でも革靴を履いていますけどね。もしくは裸足か」
街では靴を作るための藁も木も手に入らないので、靴を買えない者は裸足なのだそうだ。
ちなみに革製品の店では主に靴はブーツが揃えてあり、お値段は銀貨5枚だった。
靴屋を出ると、外は夕暮れになっていた。
「今日はこのくらいにして、残りの散策はまた明日にしよっか」
「おー、賛成だ。もうくたくただ…」
フラフラして危なっかしいキララの手を握って歩き出すと、もう片方の手をシグラに握られる。
何か言おうかと思ったけど、まあいいや。
「食材買ってないけど、大丈夫だったのか?」
「うん。今日は肉団子のパスタだよ」
日本のスーパーで買った肉団子の消費期限がそろそろやばいんだよね。
さあああ…と風が吹く。
ふと意識を村に向けた。
たたた、と子供の走る足音。夕飯の匂い。
レンガ道、レンガ造りの家、玄関の傍に植えられた赤い花。それが夕陽に照らされて赤くなっている。
「日本じゃないね」
「そうだな」
何だか少し寂しくなった。
■■■
コトコトとパスタを茹でている間に、キララとロナは二人でシャワールームへ。
大人3人はダイネットのシートに座って、少し話し合いをする。
「人里に着きましたが、アウロさんはこれからどうされますか?」
当初、『ロナをどこかの集落に連れて行ってくれ』というのがアウロの望みだった。
こうして村に来たわけだから、アウロの望みは叶えられたという事になる。
「私としては予定などが決まっていないのでしたら、このまま私達と同行していただきたいですのですが」
アウロの精霊魔法はとても重宝するし、ロナのドワーフの能力も然りだ。それに使い捨てされるような護衛の職にしか就けなかった父子が心配でもあった。
アウロは少し葛藤がある様子だが、頷いてくれた。
「ありがとうございます…!私達の方こそお願いいたします。お世話になりっ放しで大変心苦しいのですが、ロナの事を考えますと…」
「お礼は必要ありません。私達だってこの世界に来たばかりで、右も左もわからない状態です。アウロさん達がいてくれたら心強いですから」
では改めてこれからよろしくお願いしますね、ということになった。
私には男性を弾く結界があるから握手はできないけどね。
「上がったぞー」
お湯でしっかり温まってきた子供たちがダイネットにやってくる。
ロナは今日買った前開きのネグリジェを着て、父親のアウロの足に縋りついた。
キララは家から持ってきたもこもこのぬいぐるみパジャマを着て、冷蔵庫の中からお茶を取りだしてコップに注いでいる。
「腹が減ったぞ、姉」
「はいはい、ご飯にしようね」
カチャカチャと音を立てながら、5人で食事をとる。
この異世界で妹と二人だけだったら、きっと不安で圧し潰されそうになっていただろう。
とてもありがたい縁だと思う。
食事が終わると、アウロ、シグラ、私の順でシャワールームに行く。
お風呂の後少しだけ夜更かしをしつつ、車内の時計が11時をさすと、それぞれの寝床に入る。
「おやすみー」
「おやすみなさい」
のんびりと夜は更けていった。
―――――まさかその頃車外で…このバスコンが盗賊団に囲まれて一斉に攻撃をされているとは夢にも思わなかった。
ブックマーク、評価ありがとうございました!




