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前夜

「……めちゃくちゃ働いたわ」


はあー、と溜息を吐きながらコウが疲れたようにその場に座りこんだ。

「コウ君ありがとうね」

「ママ、リュカも頑張ったよ」

リュカは本物の母親の賢者がいる前でも私の事を“ママ”と呼ぶ。この子の中では“よくわからないけど母親が2人いて嬉しい”という感じのようだ。

「リュカちゃんもお掃除ありがとう」

黒くなった雑巾を嬉しそうに掲げるリュカの頭を撫でた。


まず馬車の荷物置き場だが、食料を入れていた重く嵩張る木箱を一斉に解雇し、軽いコンテナを採用した。

これでかなりスペースに余裕が出たので、ささやかながらロナの作業場を作る事が出来た。

ロナの作業場は90×90センチ程で、床には半畳の畳を敷き、壁にはワイヤーネットを付けて作業道具をフックに掛けられるようにしておいた。作業机は彼女が今まで使用していたものに、新たに引き出しを足して設置した。ちなみにこの机はロナが廃材で作った物だそうだが、きとんと水平と安全性を保っているので感心してしまった。


馬車の居住スペースには、ロフト部分に今回買った羽毛布団と電気毛布を4枚ずつ置いておいた。

馬車で眠るのはアウロ、ロナ、ククルア、テランの予定。ロフトの部分にテランが眠り、下のソファに3人で眠るらしい。私は詳しく知らなかったが、どうやらこのソファは展開の仕方によっては居住スペース一面がベッドになる仕様だそうだ。

……ここに炬燵を置けば丁度いいかもしれない。


ソファの下には衣装ケースが3つ程入る収納スペースがあり、そこに本日購入した衣装ケースを設置して、ケースの中にそれぞれアウロとロナ、ククルア、テランの服を入れておいた。テランの鎧は流石に衣装ケースに入らないので、荷物置き場に置いて貰えばいいだろう。

馬車用のトランシーバーは居住スペースのロフトの柱に設置した。ちゃんと使えるか試しに使用したところ問題無く使えたみたいで、今は子供達がそれで楽しそうに遊んでいる。


馬車の二階部分は明日、ソーラーパネルをどのようにつけるか業者さんと相談してからの改装となる。


そしてバスコン。

今まではバスコンの後方収納スペースには、釣り道具やバーベキューコンロ、キャンプテーブルとテント、ロナが作ってくれた折り畳みのテーブルと椅子を入れていたが、それは全て馬車の荷物置き場に移動させた。

そして逆に荷物置き場に入れていたゴーアン家から貰った豪華な衣装ケース(豪華な贈り物入り)達を此方に入れた。

頻繁に開けしめする荷物置き場に壊れやすい茶器や汚れたら困る反物を置くのは止めた方がいいと思っての事だ。


バスコンの居住スペースについては、バンクベッドは完全にライとレン兄弟のスペースとした。バンクベッドにも収納スペースがあるが、好きに使ってくれと2人には伝えた。


バスコン用のトランシーバーはエントランス近くの壁に。


後は特に変更点は無いかな。ああ、洗濯機はダイネットの後ろにあるパントリー部分に押し込んでいる。ポータブルバスタブも同様だ。それにしても、これからは湯船にもつかれるのかと思うと、嬉しくて仕方がない。


もう一台余っている炬燵はどうしようかな。置けるとしたらダイネットか寝室かだけど……寝室の方が良いかな。

ダイネットだとずっとベッド展開したままになるし。


そう言えばナベリウスだが、彼女はほぼ狼の姿で過ごすらしく、布団はあまり必要なかったのではという疑惑が出ている。



■■■



その日の夕方に、大学生達と観光に行っていたキララやルラン達が戻って来た。相当楽しかったのか、全員ホクホク顔で何故かお揃いの可愛い熊耳カチューシャをしている。


そしてこのタイミングで時空の穴の維持はブネに代わってシグラの担当となり、賢者一家は母屋の方へ戻って行った。


さて私は夕飯作りをしよう。

本日、ショッピングセンターで調理器具もいくつか購入したのだが、この大鍋5つはその中の1つだ。そのうちの2つで今回は20人前のお米を炊いてみる。上手くいくかな?

お米が炊くのを待つ間に、昨夜のバーベキューの残りを別の大鍋に入れてくつくつと煮込んでいく。十分火が通った後は鍋を火から外し、市販のカレールーを入れた。

味をなじませている間にキララとシグラを呼ぶ。

「手が空いてたら、手を洗ってレタスを千切ってサラダにしてくれる?」

「はいはい」

「わかった」

今夜のメニューはカレーライスとサラダだ。


それから少しして、鍋で炊いたお米は無事炊けてくれた。ホッとしつつそれをしゃもじで混ぜて、人数分配膳する。カレーはセルフサービスでお好きなだけ掛けて貰うことにした。

テーブルにお茶を入れたピッチャーを置くと、準備完了。

私はシグラとキララに挟まれる形で座った。


「今日は皆で何処に行ってきたの?」

「遊園地だぞ。久しぶりにジェットコースター乗って来た!」

キララが楽しそうに今日あった事を話しだす。

熊耳カチューシャは遊園地のマスコットをイメージした物だそうだ。


「カエデが大学生達にモテモテだったぞ」

「カエデさんはハーフみたいで格好いいからね。それに日本語も喋れるみたいだし」

ニホン公爵家の次男の彼は、日系とヨーロッパ系のハーフのような顔立ちをしている。ルランやジョージのように完全に外国人ですという顔立ちよりも、親近感が沸くだろう。


「かえで、かっこいいの?しぐら、かえでのこと、まねしようか?」

「しないで。私にはシグラが一番素敵に見えてるから。勿論ドラゴンの姿も併せてね」


シグラは“よかった”と笑って、私にじゃれ付いてきた。

これもシグラの魅力の一つだ。



食後にお茶を飲んでいた時、ジョージに[ウララ]と英語で話しかけられた。


[どうされたんですか?……あ、預かった金貨を換金したお金、渡しますね]


ジョージに渡すのは300万だ。

明日、ソーラーシステムが設置され次第、私達はフィルマ王国へ渡るので、彼が買い物を出来るのは明日の朝イチか、もしくは半年後この世界に戻って来た時となるだろう。


[ああ、ありがとう。それより実は俺は此処に残ろうと思っているんだ]

[……え?ジョージさん、フィルマ王国に帰らないんですか?もしかしてずっと帰らないつもりですか?]

ジョージは[いいや]と頭を振った。


[ウララ達はこの世界の一か月後にまた此方に来るのだろう?その時には俺も一緒に戻る。その間は……この世界を見て回りたいんだ]

どうやら、日本に来てから数日で色々と感銘を受けたようだ。

[残ると言っても、何か当てはあるんですか?]

賢者とブネは時空の穴の維持という役目があるので、ジョージに付き合う事は出来ないだろう。

[小寺に相談したら面倒をみてくれるらしいんだ]

小寺とは日本に飛ばされたシグラ達の面倒をいろいろと見てくれた大学の准教授だ。


ジョージも大人だし、日本に居る間の当てがきちんとあるなら、私が反対をする道理はない。


[わかりました。誰かに言伝をした方が良いですか?]

ルランとジョージは、時空の穴に入ったシグラに無理矢理道連れにされ、この世界に来てしまったと聞いた。今頃彼らと一緒に行動していた者達は慌てている事だろう。

それに対してジョージは[大丈夫だ]と言った。

[俺の父と連れ宛てに手紙を書くつもりだ。それをルラン殿に託すから、ゴーアン家の伝手で俺の父や連れに連絡が行く]

[そうですか]


[楽しみだ]


ジョージはそう呟きながら空を仰ぎ見た。

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